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ベトナムとネパールの技術者を育成・雇用し、図面の改革で人手不足に悩む建設業界を支援

ベトナム・ネパールの人材とBIMを活用する建設コンサルタント

福澤譲

福澤譲 ふくざわゆずる

#chapter1

3Dモデリングと情報管理を可能にするBIMを導入でより高効率な業務体制を実現

 BIM(Building Information Modeling)と呼ばれる先進手法で建物や土木構造物の3Dモデリングを手掛ける「Joh Abroad(ジョーアブロード)」の代表・福澤譲さん。大阪を拠点に、ベトナムのハノイとネパールのカトマンズにも事務所を構え、現地の技術者と共に日本のゼネコンやハウスメーカーを支援しています。

 「日本の建設業界では長らく、CAD(コンピュータ支援設計)による平面図を基にプロジェクトを進めるのが主流でした。関係者は紙の設計図を手に、頭の中で完成形を思い描きながら作業を進めてきたのです。しかし近年は深刻な人手不足に加え、法改正による業務負担の増大も重なり、従来のやり方では限界が見え始めています。こうした課題を打開する鍵がBIMです。公共工事では2025年度から段階的に導入が始まり、2027年春には契約図書としてBIMデータの提出が義務化される予定であり、今後の建設業界にとって不可欠な技術です」

 BIMは単なる3D設計にとどまらず、建材や設備、費用情報を一元管理し、関係者間でデータを共有可能。断面図やパースの自動生成によってミス削減にもつながります。海外では学生も活用しており、福澤さんが採用したベトナム・ネパールの従業員も高いスキルを持っていると言います。

 「彼らの中には日本の大学を卒業して大手建築会社での就労経験を持つ者も多く、意思疎通が円滑で私たちの商習慣も理解しています。国内発注と比べて約3割のコスト削減が可能で、メリットは大きいと考えます」

#chapter2

30歳までプロボクサーとして活躍。リングを降りてコンサルタントに転身し、仲間と2人で起業

 福澤さんがボクシングを始めたのは16歳のとき。著名な元世界王者たちが設立したジムに入門し、19歳でプロデビューを果たしました。引退するまでに、通算20戦14勝5敗1分という戦績を残しています。

 「当初はワンツーからカウンターを狙うボクサーでしたが、目を負傷して距離感がつかめなくなり打ち合うスタイルへと転向しました。敗戦を経験する中で将来を真剣に考えるようになり、法政大学経営学部に進みました」

 卒業後、2013年に住宅業界に特化した経営コンサルティング会社に就職。月に25回もの出張をこなしながら、顧客の中期経営計画の策定や新事業の開発に携わるなど、多忙かつ濃密な日々を送ります。

 「ボクサー時代にはアジア各国の選手とも練習に励み、当時から海外とのビジネスを意識していました。顧客企業の人手不足を解消しようと事業部を立ち上げ、技能実習生の受け入れを始めましたが、予期せぬトラブルにより計画は頓挫。しかし、縁あって日本のゼネコンに勤めていたベトナム人と知り合い、2020年に2人で『Joh Abroad』を設立しました。彼は現在も当社の役員として経営を支えています」

 当初は海外人材紹介を中心に展開しましたが、コロナ禍の影響で計画は停滞。そこで共同創業者であるベトナム人役員の強みを生かし、BIMやCADによる図面作成に事業をシフトしました。
 「リングの上に立っていた時、まさか自分が経営者になりBIMを扱うとは思いませんでした。時代の変化をしなやかに受け止め、何度でも立ち上がることが大切ですね」

#chapter3

ベトナムの国立大学と提携し、建築と日本語を学んだ卒業生を国内企業に紹介するビジネスも

 福澤さんはベトナムの代表的な国立大学であるハノイ土木大学(ハノイ建築大学)と提携し、最長で約1000時間の日本語教育プログラムを提供。専門知識と語学力を備えた卒業生と、国内企業との橋渡し役も担っています。

 「即戦力の現場監督として期待できる人材も紹介可能です。彼らは特に日本の建物の美しい内装に敬意を払っていますね。丁寧な仕事ぶりを学ぼうと意欲あふれるメンバーが集まっています」

 福澤さんのやりがいは、顧客の生産性向上に貢献すること。過去には商社をBIMで支援し、共同で新事業を始めたケースもあります。
 「その商社は従来、仕入れた商材に手数料を上乗せして販売していましたが、需要が減少するなかでBIMの活用に着目されました。商材の価格だけでなく、導入に伴う管理コストや人件費の増減を見える化できれば、提案に付加価値が生まれます。この取り組みを一緒に事業化した結果、『商社のイメージを変えてくれてありがとう』と大変喜んでいただきました」

 今後の目標は「従業員の顔と名前が一致する範囲で大きな組織にしたい」という思いを大切にしながら、会社を150人規模に成長させること。また、来日したベトナムの若者が日本人の細かい気遣いを知り、それを母国に持ち帰って伝えてくれることにも期待を寄せています。

 「海外との交流を通じ、私も日本への愛情がより深まりました。いまだにボクシングへの思いも強く、スポンサーとして興行に協力しています。お世話になった方々に改めて感謝したいですね」

(取材年月:2025年9月)

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福澤譲

ベトナム・ネパールの人材とBIMを活用する建設コンサルタント

福澤譲プロ

建設コンサルタント

株式会社Joh Abroad

ベトナム・ネパールの技術者と連携し、3DモデリングツールやBIMを駆使。建設業界が直面する深刻な人手不足や非効率的な業務体制といった課題に、多角的かつ実践的な解決策を提供します。

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