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あこがれの時代を開く「時代の門」が、ここにあります

古美術品の専門家

野元淳

古美術品の専門家 野元淳さん
古美術品を背景に立つ 野元淳さん

#chapter1

古美術の奥から見える、その時代の人と風景

「古美術は、日本の歴史とともに発展してきた文化遺産だと思います」そのように語るのは、大阪の歴史が残る街・北浜で古美術品を取り扱う「玄海樓(げんかいろう)」の店主、野元淳さん。古典籍や書画などの古美術を日々探している野元さんが特に好み、力を入れているのが「古筆(こひつ)」です。

 古筆の定義では主に奈良時代から室町時代にかけて書かれた名筆や筆跡の事を指しています。時代の流れと共にそれらは「美術品」として権力者や富裕層の間で大切に保存され、収集されました。後世、その収集の流行や需要の増加により、書かれた冊子や巻物が部分的に切断され、掛け軸などに仕立てられ鑑賞されてきたのです。やがて、その古筆は誰が・どこで・何を・何のために書かれたものなのか、などを鑑定する「古筆鑑定人」という職業まで登場します。

「文字の形だけでなく、時代によって紙や墨などもさまざまです。そこから字の向こう側にある背景・・・世俗、文化、当時の暮らしなどを読み取ることができるのです」
 
 確かに古筆は、かな文字の配置やバランスなど、初心者の私が見ていても「キレイ」だと感じます。しかし何より、ほんのわずかな間に見せてもらった物の中には、平安時代に書かれた作品もあり、美術館に展示されていても不思議ではない程の作品が「玄海樓」にはたくさん眠っているのです。

#chapter2

好きだからこそ続けることができる。これからも…

 古筆だけに限らず、取り扱う商品は武将が茶席で書いた何気ない一筆物から水墨画、高僧が弟子に書いた教えなどさまざま。「読んでいくと書いたときの様子が何となく想像できたり『やっぱりこの時代も大変だったんだなぁ』と共鳴できたりする事もあり、面白い
んです」と語る野元さん。

 ちょうど入手したばかりの平安時代の古筆の掛け軸を見せてもらいましたが、墨の色、紙の表面など古い物はやはり質感が違い、それ以上に一目見た時に「これっ!」という力を感じるものだといいます。

 古筆の解読をはじめ歴史などにももちろん詳しい野元さんは、幼い頃から神社仏閣や美術館へ行く事は好きでしたが、実は高校を卒業するまでは、古典・歴史分野の成績はあまりよくなかったといいます。どちらかというと理数系で、文化系に目覚めたのは高校に入ってから。それから油絵、演劇にも興味の幅を広げていきます。そして卒業後は大阪・北浜の古美術店に勤め、10年間の修業を積んだ後に独立しました。

 この不安定な時代の中で、古美術の需要というのは年々減ってきており、それでもこの仕
事を続けられるのは「好きだからこそ」だといい「またそれらを愛して大切にして頂ける方々に喜んでもらえる事はこの上ない喜びです。歴史も何も知らなかった私がここまでできるのは興味があって楽しいからこそ。自然に覚えてしまうし勉強もできるんです」と野元さん。

 そして昭和63年以来、美術商として業界を肌で感じ続けてきた野元さんの信条は「作者
の気持ちや作品の内容を理解できる美術商」でありたいということ。「いくら良い作品がそこに存在していたとしても、売る美術商側が作品の真髄を理解していなければ、その作品を語る資格は無いに等しい。作者の気持ちや、その内容を本当に理解できるよう日々努力する事が大切ではないか」と語ってくれました。

古美術品が飾られた玄海樓の店内

#chapter3

中国美術、日本美術のオークション事業も手掛けています

 美術を楽しむというのはある意味、贅沢な時間。「今は遊ぶにも選択肢が多く、その中でも大衆的なものが歓迎される風潮があります。そのため、どうしても『美術』は日の目を見なくなってきてしまっている」といいます。高価だという事もあり特に古美術はその傾向が強く見られますが、何より誰もが時間に余裕がない、という事が問題でもあるようです。

 そのような中でも中国では、富裕層による中国の美術品への投資により、今もなおその価格が高騰し続けています。「日本には、長い歴史のなかで中国や朝鮮半島からの美術品がたくさん伝来していますからね。それを買い付けにくる人たちが、年々増えています」と語る野元さん。

 一方で、旧家の蔵などに眠っていた美術品が家の改築や相続などで、思いがけなく売りに出されるケースも少なくはなく、野元さんは、そこにビジネスチャンスを見いだし2008年にオークションを専門にする別会社を立ち上げ、更に2012年には「株式会社和聚会(わしゅうかい)」を大阪に設立。そして2014年1月には上海に支店を開きました。

 2020年1月、これまでずっと拘り続けてきた北浜の中でも、一等地と呼べる大阪証券取引所ビルに店舗事務所を統合移転しました。「ただビジネスというだけではなく、物の動きが活性化することで、今は埋もれている美術品の価値に人々が気付き、歴史や文化についての関心も高まるはずです」と話す野元さんは、美術品市場を通しての文化交流の深まりにますます期待を寄せています。

(取材年月:2020年6月)

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野元淳

古美術品の専門家

野元淳プロ

美術品商

玄海樓

玄海樓は、昔ながらの落ち着いた街並み、良き大阪の情緒を感じさせてくれる北浜に実店舗を構え、皆様に逸品の数々をご紹介しております。

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