殿さまの嘆き
バックスクリーン
20年前の2004年に誕生した東北楽天ゴールデンイーグルス。
翌年行う初のキャンプに向けて、初代監督になった田尾安志さんが久米島にやってきた。
その2年前に誕生した久米島町仲里地区の仲里野球場。
田尾新監督は、スタンドはもう少し大きくできないかなあ…などと話しながらグラウンドに入って、足を止めた。
「バックスクーンはないんですか」
野球は4つあるベースをすべて踏んで積み重ねた得点で勝敗を競う。
使うのは、赤い縫い目がはいった純白のボール。それを投手が投げ、打者が打つ。
ただ、投手の背景が白かったりヒトがぞろぞろ歩いていたりすると、打者はボールが見にくい。
そのために置かれているのがバックスクリーンである。
球場によって色は違い、「黒」だったり「濃緑」「青」だったりする。
それが仲里球場にはなかったのである。
その後誕生した久米島球場には、立派なバックスクリーンが設置されている。
そこまでの距離はバラバラ
バックスクリーンと言えば思い出すのは、1985年に阪神タイガースがやってのけた
「掛布」「バース」「岡田」の甲子園バックスクリーン三連発。
バースの一発はバックスクリーンを越えていった。
甲子園球場のバックスクリーンまでの距離は118m。
実はプロ野球のホームスタジアムでは最も近い。
凄く広いイメージがある甲子園だが、かつてあった左右のラッキーゾーンまでの距離は91mだったし
「狭い」球場だったのだ。
それでもバックスクリーン越えは凄い。
球場の企画は、決まりごとはあるものの日米ともにかなり違いがある。
デトロイトタイガースのホームグラウンドはセンターバックスクリーンまで128m。
かつてあったタイガースタジアムは134mもあったという。
そこで伝説の大打者ミッキーマントルはギネスに残る190m越えのホームランを放った。
ただ、90mだろうが130mだろうがホームランはホームラン。敵も味方も条件は一緒なのだ。
「越えた」のか「入った」のか
大谷翔平選手は「規格外」だと言われる。
打球速度もそうだが、飛距離も半端ない。
だが本当に規格外の打球となると、そうそう打っているわけではない。
バックスクリーンはいわばセンターの後ろに立ちはだかる巨大な壁である。
手前に飛び込むことはあっても、これを越える打球を打つには“規格外”のパワーがいる。
バックスクリーン手前に「飛び込む」のと、「越えた」のでは次の段階の凄さがある。
最近、その辺がごちゃごちゃになっている気がして残念だ。
表現一つで、“凄さ”は違うのである。