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矯正施設等退所後の障がい者の生活に一貫して関わり、更生を支援

罪を犯した障がい者を支援し再犯防止に尽力するプロ

丸野由起子

丸野由起子 まるのゆきこ

#chapter1

熊本市内で自立準備ホーム、グループホーム、就労支援B型の事業所を運営

 「安心してありのままの自分が出せる環境をつくることが、更生につながると考えています」と話すのは、「オリジン」の代表・丸野由起子さん。熊本県熊本市内で自立準備ホーム「リジューム」、グループホーム「サニーハウス」、就労継続支援B型「S&K ワーキング」を運営しています。

 自立準備ホームとは、刑務所や少年院などを出所して帰る場所がない人の一時的な住まいとして、社会生活を送れるよう支援する施設。丸野さんは、保護観察所から依頼を受けて、主に知的障がいや精神障がいがある出所者を受け入れています。

 「自立準備ホームにいられる期間は、人によって異なりますが、最長6カ月間。しかし、障がいがある人で、期間内に仕事を見つけて自立できる人はほとんどいません。そこで、必要な援助を受けながら暮らすグループホームと、自分のペースで軽作業を行う事業所をつくり、生活を管理するとともに、就労の場を提供することにしたのです」

 利用者の中には、障がいがあると知らずに生きてきた人や、家庭環境に恵まれない人もいます。丸野さんは長年の心理職の経験を生かして、障がいが見過ごされてきた人は、医療機関や行政につなげて療育手帳や障害者手帳を取得し、本人が障がいを認知するところからスタートします。身寄りがない場合は、弁護士に相談し、本人の権利や財産を守る保佐人を選任してもらうために家庭裁判所にも同行します。

 「何事も正直に話し、できないことや困っていることがあれば、周囲に『助けてください』と言えるよう導いていきます」

#chapter2

病院の精神科でカウンセリングや相談業務などを経験し、更生の礎となる場を設立

 中学生の頃から人間観察に興味があったという丸野さん。濟々黌高校卒業後、大学では心理学を専攻しました。卒業後は、精神科の病院で心理検査やカウンセリングをしたり、また、認知症に関する臨床研究のコーディネーター業務を担当したり、大学で学生の相談を受けていた時期もあります。

 一貫して人の内面に携わり、その経験を新たなフィールドで役立てたいと考えていたとき、「あなたに向いている仕事がある」と紹介されたのが、「熊本県地域生活定着支援センター」でした。矯正施設等を退所したものの頼るところがない高齢者や障がい者が、困窮などにより再犯しないよう、福祉サービスなどにつなげる機関です。

 「情に流されず、駄目なものは駄目、良いものは良いと、はっきり言う性格が向いていると思われたのでしょうね。2010年から同センターに3年間勤務しました」

 丸野さんは、さまざまな背景を持つ退所者に接する中で、自ら受け入れ先をつくることを決意。2013年に施設を立ち上げました。運営上の理由から、一時期は別の法人の傘下に入りましたが、2022年に再び独立。法人名の「オリジン」には、原点や礎の意味を込めています。

 「自立準備ホームの『リジューム』は再生や再始動、グループホームの『サニーハウス』は日の光が差し込む家、就労支援事業所の『S&K』は笑顔のスマイルと、親切のカインドを意味します。この場所を礎に再生して、日の当たる場所で生活しながら、笑顔と優しさを持って働こうということを、利用者には必ず伝えています」

#chapter3

新たな被害者を生まないために、各分野と連携して専門的な支援を

 丸野さんの元に集うスタッフは、元刑務官やホームレス支援をしてきた人、栄養士、調理師など多彩な顔ぶれです。

 「調理師さんが利用者の誕生日やクリスマスなどに、ケーキを作ってくれるんです。ここに来て初めて誕生日を祝ってもらった、ケーキを食べたという人も少なくありません」

 利用者の仕事が休みの日には、必要に応じてスタッフが買い物に同行。利用者の特性によっては、6~7時間付き添うことも。月に一度レクリエーションの日も設け、みんなで食事や日帰り旅行をすることもあるそうです。

 利用者の日常を支える一方で、何より大事にしているのは、再犯を防止し、新たな被害者を生まないこと。利用者が出しているサインを見逃さず、様子がおかしいと感じたら、スタッフを手厚く配置するなどして、トラブルを未然に防ぐようにしています。

 「最も長い人で、8年以上生活支援をしていますが、当施設の入所者でこれまで再犯した人はいません。ただ、もしも法を犯すことがあれば、ためらわず警察に連れていくことはしっかりと伝えています」

 丸野さんは、現職に就く前には、犯罪被害者の家族をケアする「くまもと被害者支援センター」で半年間研修を受けたそうです。自身も、子どもの時に誘拐されそうになったことがあり、夫を医療事故で亡くしたつらい過去もあります。

 「被害者の恐怖やご家族の理不尽な思いは理解しています。これからも、行政や警察、医療、弁護士、関係機関などと連携し、再犯を防ぐ専門的な支援をしていきます」

(取材年月:2023年10月)

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丸野由起子

罪を犯した障がい者を支援し再犯防止に尽力するプロ

丸野由起子プロ

精神保健福祉士

一般社団法人オリジン

熊本市内で自立準備ホーム・グループホーム・就労継続支援B型を運営し、矯正施設等退所後の障がい者等の生活を継続的に支援・管理。行政や医療、警察、弁護士などの専門家と連携し、再犯防止に尽力しています。

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