物流の最前線で起きている「人材不足」と、その解決に向けて
飲酒問題から学ぶ輸送業の責任と軽貨物配送ドライバーへの教訓
はじめに
2025年9月、日本航空(JAL)の国際線機長が乗務前に繰り返し飲酒していたことが発覚し、計3便が遅延するという重大な問題が明らかになりました。機長は自主検査用のアルコール検知器を改ざんし、社内規定や社会的責任を軽視する行為を続けていたといいます。この件は航空会社の経営陣を揺るがすだけでなく、社会全体に大きな衝撃を与えました。
航空業界におけるパイロットは、数百人もの乗客の命を預かる極めて重い責任を担う職業です。だからこそ、飲酒に関する規律は世界的に厳しく、違反は一発で解雇となることも珍しくありません。今回の事件は、その前提を揺るがし、「なぜ飲酒問題が繰り返されるのか」という問いを突き付けています。
この出来事は航空業界に限られた問題ではありません。私たち軽貨物配送業界、ひいては運送業界全体にとっても大きな教訓となります。荷物を運ぶ軽貨物ドライバーもまた、社会の安全と信頼を預かる存在であり、飲酒運転は絶対に許されない行為だからです。ここでは、JALの事例を踏まえつつ、軽貨物配送業に携わる者としての責任と注意点について考えてみたいと思います。
なぜ飲酒問題が起きてしまうのか
まず、なぜこのような問題が発生したのかを整理してみます。報道を読む限り、JALの事例には以下の要因があったと考えられます。
専門職の聖域化
パイロットは高度な技能を持ち、一般社員とは一線を画す存在として扱われてきました。その結果、経営陣でさえ強く意見できない「聖域」となり、規律や改善策が徹底されにくい状況が生まれました。
組織風土の甘さ
過去にも飲酒トラブルがあったにもかかわらず、抜本的な対策が打たれず、同じ過ちが繰り返されました。「おかしいことをおかしいと言えない」社風が問題を深刻化させたのです。
自己管理の形骸化
アルコール検査を形だけで済ませ、検知器を改ざんするなど、制度が機能しない形に陥っていました。これは一人の問題ではなく、組織全体の危機管理意識の低さを示しています。
飲酒運転は「禁止されているのは分かっているけれど、大丈夫だろう」という油断から起こります。しかしその油断こそが重大事故を招く最初の一歩なのです。
軽貨物配送業界との違いと共通点
では、この問題は私たち軽貨物配送ドライバーとどのように関係しているのでしょうか。
確かに、パイロットと軽貨物ドライバーでは、預かる対象が異なります。パイロットは数百人の人命を直接的に背負い、軽貨物ドライバーは主に荷物を運びます。しかし共通しているのは「安全が最優先である」という点です。
軽貨物ドライバーの事故は、歩行者の命を奪うこともありますし、配送先の企業や個人に大きな損害を与える可能性もあります。事故を起こせば信頼を一瞬で失い、委託契約の打ち切りや事業継続不能に直結します。つまり規模の違いはあれど、「信頼を守ることが最大の責務である」という点は同じなのです。
軽貨物配送ドライバーへの注意喚起
飲酒運転が業界全体の信用を失墜させるリスクを考えると、軽貨物配送ドライバー一人ひとりが強く自覚を持たねばなりません。ここで、具体的に注意すべき点を挙げます。
出発前の自己管理
前日の深酒は翌日に残ります。「寝たから大丈夫」と思っても、アルコールが抜けきっていないことは多いのです。配送前には体調を整え、十分な睡眠を取ることが必要です。
仲間同士での声掛け
個人事業主が多い軽貨物配送業界では「自己責任」で済ませがちです。しかし安全意識は仲間同士で確認し合うことが大切です。「昨日飲んでない?」「大丈夫?」と声を掛け合う文化が事故防止につながります。
社会的責任の意識
配送は単に荷物を届ける作業ではなく、顧客の信頼を運ぶ行為でもあります。一件の事故が企業全体の評価を落とし、同業者にも影響を与える可能性があることを忘れてはなりません。
飲酒運転をなくすための改善策
では、業界としてどのような取り組みをすべきでしょうか。
アルコール検査の導入と記録管理
現在、大手運送会社では義務化されつつありますが、軽貨物でも自主的に取り入れるべきです。データを残すことで抑止効果が高まります。
研修や啓発活動
新人ドライバーや業務委託ドライバーに対して、飲酒運転の危険性や社会的影響を繰り返し教育する必要があります。
「飲酒ゼロ宣言」の発信
自社や団体として「飲酒運転を根絶する」という姿勢を社会にアピールすることが、信頼獲得にもつながります。
ITの活用
スマホ連動型アルコールチェッカーや点呼アプリを活用すれば、個人事業主でも簡単に自己チェックが可能です。
こうした改善策を積み重ねることが、業界全体のブランド価値を高めることにつながります。
おわりに
今回のJAL機長飲酒問題は、航空業界特有の事情を超えて、輸送業全体に共通する課題を浮き彫りにしました。軽貨物配送業に携わる私たちも、「安全意識の緩み」が社会的信用を一瞬で失わせることを肝に銘じなければなりません。
飲酒運転をゼロにすることは理想ではなく、必ず実現すべき現実的な目標です。ドライバー一人ひとりが責任を持ち、組織としても徹底した安全対策を講じることで、社会から信頼される業界を築いていけると信じています。
「安全第一」を合言葉に、軽貨物配送業界が真の意味で社会のインフラとしての役割を果たしていくために、私たちは不断の努力を続けてまいります。



