テクノロジーに飲まれない会社になるために──軽貨物配送業の“人間力”再定義
2025年8月に発表されたメルカリの決算は、意外性のある内容でした。
米国事業が初の通期黒字を達成した一方で、月間利用者数(MAU)や流通総額(GMV)は大幅に減少。その背景には、中国発のECプラットフォーム「Temu(テム)」や「SHEIN(シーイン)」の驚異的な台頭があります。
これらの中国EC勢は、破格の価格と商品スピードを武器に、既存のフリマ・リユース型サービスからユーザーを奪いつつあります。今やアメリカ市場のみならず、日本国内にもその波は到来しつつあります。
では、この世界規模のEC再編が、日本の軽貨物配送業界にどのようなチャンスとリスクをもたらすのでしょうか?
メルカリ黒字でも見えた「競争激化」の現実
メルカリは、コスト削減と経営効率化により米国事業で黒字を達成したものの、肝心の売上・ユーザー数はともに減少しました。TemuとSHEINの破格の新品ECに押され、「安くて新品なら中古品を探す理由がない」という消費者心理の変化が如実に表れています。
これは単に「中古vs新品」の話ではなく、ECの新陳代謝が急速に進んでいることを意味します。
そして、こうした新興勢力が提供する商品は、日本にも多く届き始めています。つまり、越境EC(Cross Border E-Commerce)によって、中国→日本の荷物流通量は今後も増加するということです。
中国EC荷物の増加がもたらす軽貨物業界の「3つの追い風」
1. ラストワンマイル需要の拡大
SHEINやTemuから発送された荷物は、日本到着後、国内の配送業者が最終配達を担うことになります。大手宅配業者の網を補完するかたちで、軽貨物配送業者の稼働機会が増える可能性は高いといえます。
荷物は小型・大量
個人宅向け中心(BtoC)
日時指定・再配達対応が求められる
この特性は、フットワークの軽い軽貨物業者にとってはむしろ好機です。
2. 中国系荷主との新たな提携の可能性
TemuやSHEINのような越境ECプラットフォームは、今後、日本国内でも中長期的な物流パートナーを模索するでしょう。
ここで多言語対応や、クラウド契約・API連携に強い配送企業が選ばれる可能性が出てきます。
3. 地方都市での物流格差解消
都市部だけでなく、地方への配送ニーズの拡大も予想されます。大手宅配では対応が難しい地域や、限定時間配送などのニーズを地域密着型の軽貨物企業がカバーする構図は、今後さらに進むでしょう。
しかし、見過ごせない「3つの懸念」
1. 荷主単価の低価格圧力
TemuやSHEINは、そもそも価格破壊モデルで急成長したサービスです。そのため、荷主としても物流コストを限界まで下げようとします。
つまり、軽貨物業者への単価交渉力は極めて低い傾向にあり、利幅が圧迫されるリスクがあります。
2. “早さ”だけを求められる現場の疲弊
価格・スピード重視の中国ECでは、人間的な丁寧さよりも「機械的なスピード」が重視される傾向にあります。再配達や不在対応の負担が偏ると、ドライバーの疲弊と人材流出にもつながりかねません。
3. 増え続ける返品・クレーム対応の現場負担
「安いからとりあえず買う」という心理は、返品や受け取り拒否、クレームの増加を招きます。
こうしたトラブル対応が現場の配送業者に押しつけられるケースも少なくなく、再配達や手戻り配送などの実質的コストが見えにくい問題として浮上しています。
軽貨物配送業が「選ばれる存在」になるために
変化に対応するには、“安さに頼らない価値”を提供できる配送業者へと進化する必要があります。
クラウドサインなど電子契約による荷主対応の迅速化
配達アプリによる効率配車・ルート最適化
「置き配」など再配達削減施策の提案力
外国語対応ドライバーや多文化理解の強化
荷主向けの物流BPO提案力
軽貨物配送業は、もはや「運ぶだけ」の業種ではありません。顧客課題を先読みし、提案する力が問われる“提案型業種”へと脱皮するタイミングが来ています。
まとめ:世界のEC変化に、私たちがどう対応するか
メルカリが直面する苦戦は、日本の軽貨物業界にとっても“対岸の火事”ではありません。
SHEINやTemuに代表される中国ECの進出は、物流のあり方を変え、それに対応できる配送業者に新たなチャンスを与えています。
とはいえ、それは同時に「効率」「低価格」「スピード」といった厳しい期待にも応えることを意味します。
この変化をしっかり読み取り、いち早く備えることが、生き残る企業と淘汰される企業を分ける分岐点になるでしょう。
日本の軽貨物配送業が、“EC時代のインフラ”として次の10年も成長するために。
私たちは、技術と人材、そして誠実な現場力を武器に、次の一手を常に模索し続けます。



