「若さの“弱点”を知れば、人材育成も経営も変わる」~令和の雇用と育成を考える視点~
2025年6月、文春オンラインで報じられたあるニュースが、企業経営者や管理職の間で波紋を広げています。
「有料記事を“コピペ”して社内共有していた会社代表&社員が書類送検」
これは、投資コンサルティング会社「ジェイ・ウィル・エックス(JWX)」の代表と社員が、有料記事を無断で複製・共有したことで、著作権法違反(複製権の侵害)により書類送検されたという内容です。記事によれば、違法コピーされた件数は1万3,000本以上にものぼるとされ、「みんなやっていること」という油断が、重大な法令違反に発展した実例でもあります。
この一件は、情報の扱いが命運を分ける現代のビジネス社会において、ガバナンス(企業統治)とコンプライアンス(法令遵守)がいかに重要かを、あらためて私たちに突きつけています。
今回は、特に個人事業主との業務委託が前提である「軽貨物配送業界」において、こうしたトラブルを未然に防ぐために、経営者や管理責任者が注意すべきポイントを具体的に解説します。
■ 軽貨物業界の「業務委託契約」に潜むリスク
軽貨物業界では、企業とドライバーとの関係が正社員契約ではなく、\*\*業務委託契約(=個人事業主との契約)\*\*であることが一般的です。この契約形態には、次のようなメリットとリスクが内在します。
◎ メリット
雇用リスクを抑えた柔軟な体制構築が可能
稼働数やシフトの自由度が高い
◎ リスク
コンプライアンスの意識が統一されづらい
社内研修や教育が“努力義務”にとどまり、義務化しづらい
情報の取り扱いや行動ルールに“温度差”が出る
とくに、記事のような「ネット上の有料記事・機密情報の共有」に関しては、ドライバー自身が「仕事に役立つ情報を共有しただけ」と善意でやったつもりでも、企業全体の法的責任に発展する可能性があります。
■ 経営者がまず意識すべき「2つのガバナンス体制」
軽貨物業界のようなアウトソーシング型ビジネスにおいて、経営者が意識すべき「ガバナンス体制」は、大きく2つあります。
1. 情報管理ガバナンス
・ 有料記事や著作物の扱い方、転載ルール、SNS投稿ルールを定めたガイドラインを作成
・ ドライバーや協力会社に対して、著作権や個人情報保護の教育機会(説明会・資料配布)を設ける
・ LINEやSlack、チャットワークでの情報共有においても、「社外秘・共有不可」情報のルールを明示
2. 契約管理ガバナンス
・業務委託契約書内に、著作権法・個人情報保護法の遵守条項を盛り込む
・ 違反があった場合のペナルティ条項(損害賠償・契約解除)を明文化
・ Web契約やクラウドサイン等の活用により、契約管理の見える化と追跡性の強化を行う
■ 「知らなかった」「みんなやってる」では通用しない時代
今回のJWX社の事件で明らかになったのは、まさにこの点です。
「業務に役立つ情報だったので共有していた」
「みんなやっていることだと思っていた」
という弁明は、法の下では一切通用しません。事実、警察は「悪質」と判断し、起訴を求める「厳重処分」を求めるに至りました。
これは軽貨物業界のように、ドライバー個々の裁量が大きく、情報のやり取りが頻繁に行われる業態では、まさに“他人事ではない”問題です。
■ 今すぐできる、実践的な対策チェックリスト
軽貨物配送事業者として、以下の項目をぜひ自社チェックしてみてください。
| チェック項目 | 現状 | 対応予定 |
| -------------------------- | --- | ---- |
| 著作権法や個人情報保護に関するマニュアルがある | ◯/× | |
| 業務委託契約書に法令遵守条項が明記されている | ◯/× | |
| 社内・社外のチャットツールでの情報共有ルールがある | ◯/× | |
| ドライバーやパートナーへの研修・説明会を実施している | ◯/× | |
| 違反時の罰則規定を明文化している | ◯/× |
■ まとめ|「情報」を制する者が、信頼を守る
私たち軽貨物業界は、荷物を預かり、届ける仕事です。同時に、荷主情報・配達情報・ドライバー情報といった「個人情報」や「機密情報」も運んでいる業界でもあります。
これらを守る意識がなければ、信用を失い、法的責任を問われ、最悪の場合、事業の継続さえ危うくなります。
本記事で紹介したような実例を“対岸の火事”と見ずに、現場と経営の両面で情報ガバナンスを強化していくことこそ、これからの軽貨物業界に必要な姿勢ではないでしょうか。
筆者:ハウンドジャパン株式会社 川上
軽貨物業界歴12年。ドライバー支援と企業サポートを通じて「安心・安全・安定」の配送ネットワークを構築。神奈川県を拠点に、契約・教育・業務管理まで一貫してサポートしています。



