【コラム】スキマバイト時代の落とし穴──人材の質が企業の信頼を左右する時代に、軽貨物業界が今こそやるべきこと
2026年4月、自転車の交通違反に対して「青切符」が導入され、反則金制度がスタートすることが警察庁より発表されました。
なかでも「ながらスマホ」の反則金額は1万2千円と、かなり高額です。このニュースに対し、世間では「やりすぎでは?」「自転車にそこまで厳しくする必要あるのか?」という声もある一方、私たち軽貨物配送業者の立場からは賛成したいと考えています。
その理由は明快です。自転車による無秩序な交通行動は、配送ドライバーにとって極めて大きな危険要因であり、法整備によるルールの明確化は、結果的に私たちの大切なドライバーを守る仕組みになるからです。
配送の現場から見た「自転車の怖さ」
車で配送している側からすると、ながらスマホをはじめとした自転車の危険行為は、正直言って「普通に危ない」です。
現代の自転車は、電動アシスト付きやスポーツタイプ、サブスク型のシェアサイクルまで多種多様。
スピードも出ますし、歩道・車道の区別を守らず走行するケースも多く見受けられます。
にもかかわらず、自転車は免許が不要。交通教育を受けないまま乗っている人も多く、しかも事故を起こしても保険に入っていないことが少なくありません。これでは、万が一事故が起きた場合、ドライバー側が加害者として一方的に責任を問われかねず、現場では「ぶつからないように避ける」ことが常に求められています。
今回の改正で、ながらスマホなどの行為に反則金が科されることで、自転車側にもようやく「責任」が生まれます。これは私たち軽貨物配送業において、ドライバーの安全を守る重要な一歩です。
明文化されたルールは「現場と経営の橋渡し」になる
中小企業、とくに現場型のビジネスにおいて最も難しいのが「ルールを現場に落とし込むこと」です。企業がどれだけ安全管理マニュアルを整備しても、それが現場で活かされなければ意味がありません。
その点、今回の改正のように、社会全体で統一された明確なルールが設けられると、現場でも理解しやすく、教育もしやすいのです。
たとえば「ながらスマホは禁止」という注意だけでは抽象的でピンとこない従業員も、「違反すれば1万2千円の反則金がかかる」と具体的に伝えれば、行動の抑止につながります。
これはつまり、社内でのルール作成や指導にかかる管理コストを削減できると同時に、従業員とのコミュニケーションもスムーズになるということです。
「安心して働ける職場」が定着率と生産性を高める
もう一つ大きなメリットは、こうしたルール整備が従業員の意識改革につながることです。
人は「大事にされている」「守られている」と感じる職場でこそ、責任感を持って働くものです。配送ドライバーも同じで、「会社が自分たちの安全を本気で考えてくれている」と感じれば、自然と日々の仕事にも意識が向きます。
その結果、事故やトラブルが減り、業務の効率も上がります。離職率が下がり、採用・教育にかかるコストの軽減にもつながります。つまり今回の法改正をうまく活用することで、企業全体の“人材戦略”を底上げできるのです。
法改正を「負担」ではなく「チャンス」として捉える
ルールが厳しくなるというと、「またやることが増える」とネガティブに捉える方もいるかもしれません。しかし、法制度の整備は、本来企業のリスク管理を支えるツールです。
事故が起きてから対処するよりも、起きる前に防ぐ方が何倍もコストが少なく済みます。明確なルールがあれば、教育の質も平準化され、組織としての一体感も生まれやすくなります。
また、事故率が低く、教育体制が整っている企業は、取引先や荷主からの信頼も高く、長期的な関係性を築きやすくなります。安全意識の高い企業文化は、最大の営業ツールにもなり得るのです。
まとめ:社会のルール整備は、現場の価値を底上げする
今回の自転車違反への青切符導入は、単なる取り締まりの強化ではなく、私たち中小企業が現場を守り、成長するための土台づくりとなることでしょう。
ドライバーを守るために必要なルールが、ようやく社会全体に浸透し始めた今、この流れに乗り、企業としても教育・意識改革を進めるべきタイミングです。
軽貨物配送業は、ただ荷物を運ぶだけではなく、“人と企業をつなぐ仕事”です。その現場を担うドライバーが安心して働ける環境をつくることは、企業の未来を守ることにも直結します。
法改正を「負担」と見るか、「企業改革の追い風」と見るか。
今こそ私たち中小企業経営者が、「ルールを使いこなす力」を問われているのかもしれません。



