新規事業創出の研究開発を支援する博士(工学)を持つ技術士
藤井隆満
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新規事業創出の研究開発を支援する博士(工学)を持つ技術士
藤井隆満
#chapter1
自社からイノベーションを起こしたいという企業は多いでしょう。「藤井技術士事務所」代表の藤井隆満さんは、豊富な研究開発経験をもとに、新規事業創出のコンサルティングを行っています。専門とする半導体デバイスのほか、化学、素材分野などを得意とします。
「既存事業に行き詰まりを感じても、何をすればいいか分からないという声は多いです。まずは自社の強みを知りましょう」と藤井さん。
既存事業を棚卸しして軸となる技術を把握。次に市場や顧客のニーズを洗い出し、目指すべき市場を考えます。ポイントは〝上りのエスカレーターに乗る〟イメージで、今後右肩上がりで伸びる分野を選ぶこと。例えば、素材の新たな用途として介護分野に応用すれば、高齢化という社会の潮流を捉えた潜在的な需要が期待できます。
コア技術と市場を掛け合わせたR&D(研究開発)テーマの策定では、他社の特許を分析し、異業種の技術などを取り込むオープンイノベーションを模索し、アイデアを引き出します。
「前職の富士フイルムは、存続の危機にあった銀塩写真の技術を化粧品事業に転換して成功しました。その事例を普遍化してどの会社でも適用できるように、具体的な方法を提案。多くの事例からヒントを得て、独自の新規事業テーマを探索します。また、事業を進めるにあたって必要となる他社との連携も探ります。専門領域を究めることに集中しがちな研究者の意識を、外部へも広げます」
〝企業の一員として伴走する〟を胸に、自ら研究テーマを持ち込むなど実践を重視します。
「第三者の視点から客観的に強みを見いだし、長年の実務に基づく課題解決の具体的なアプローチを示せます」
#chapter2
藤井さんは、アイデア出しから実用化まで手とり足取りサポートします。ある技術系の商社では、既存技術の新たな用途を掘り起こし、2年かけて特許出願や市場テストの支援をしています。また、ある化学メーカーの素材を水産分野に応用するプロジェクトも進行中です。
「研究のための研究ではなく、製品にして、利益を上げ、社会に役に立つことこそ意味があります」と力を込める藤井さん。その原点には、ガラス・化学メーカーの製造現場に携わった経験があります。
「『この製品は歩留まりが悪い』など、開発への不満を耳にする機会が多かったんです。生産部門の声に直接触れたことで、量産まで見据えて研究をスタートさせる姿勢が身に付きました」
その後受託研究会社に転職し、50社以上の研究開発支援を担当。テーマの提案から研究開発、分析・報告までワンストップで担い、事業化を多数導きました。
「実用化で見込める利益や社会にもたらす価値など、企業にとって魅力ある研究の目利き力が養われました。納期内で自ら研究成果を出しつつ、いかにチャレンジできるかがカギでした」
研究に従事した富士フイルムでは、世界トップレベルの性能を誇る圧電体薄膜を開発。産業用インクジェットプリンターなどで利用されています。
「うまくいかないだろうという大方の予想に反し、アメリカのシリコンバレーですぐに製品化の話がまとまり、量産用の成膜装置などを現地で設計しました。社内でMEMS(微小電子機械システム)部門も立ち上げ、研究者冥利に尽きる体験ができました」と笑顔を見せます。
#chapter3
藤井さんは、研究者の視点から新規事業を成功させるノウハウを、著書「技術者の逆襲」(言視舎、2019年)にまとめました。
「50歳を過ぎて今後を見据えたときに、〝人生でやり残したこと〟の一つが、本を書くことでした。独立もその一つで、会社ではなく個人として勝負したいと思い、事業立ち上げの最前線に立った経験を生かして企業のお役に立ちたいと考えました」
企業でセミナーを行うなど幅広く活動する藤井さん。共通するのは、次世代の技術者を育てたいという思いです。
「特にコンサルティングでは、概念や方法などを単にレクチャーするのではなく、実際のプロジェクトでのプロセスをOJT(職場内訓練)としてメンバーと一緒に行い、腑に落ちる経験にします」
新規事業に挑戦することは、目標達成が見通せないがゆえに恐怖心を伴うこともあります。
「研究開発は思うようにいかなかったり回り道をしたり、悶々とする場面は多いですが、一歩踏み出さないことには何も変わりません。誰もやっていないことに挑むからこそ、戦略的に開発を進め、リスクを抑える視点も重要です。準備を重ねた上ならたとえ失敗したとしても、次への糧になります」とエールを送ります。
「私自身、さまざまな人とのつながりによってどんどん引き出しが増えています」と語る藤井さん。成功も失敗も知り尽くした上で、世の中にまだない新たな価値を生み出すきっかけを与えてくれるでしょう。
(取材年月:2022年12月)
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新規事業創出の研究開発を支援する博士(工学)を持つ技術士
藤井隆満プロ
技術士
藤井技術士事務所
大手メーカーなどで技術者として研究開発に従事し、新規事業創出の豊富な経験を誇ります。企業の強みをひも解き、R&Dテーマ選定から研究開発、製品化までサポートします。半導体や化学、素材分野などで実績あり。
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