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今を生きる人の生活や感覚を大切に、能登の魅力を引き出す古民家リノベーションが強み

景観保全しながら快適で現代的な空間を構築する古民家再生のプロ

越田純市

越田純市 こしだじゅんいち

#chapter1

設計と現場管理の経験を生かして整合性の高い図面を仕上げ、古民家を再生

 豊かな漁場の日本海に囲まれ、実り多い農地が広がる能登半島の4市5町は、2011年に、「能登の里山里海」として国内初の世界農業遺産に登録。輪島塗を始めとした工芸品や、江戸や明治の頃に建てられた屋敷が時代を重ねて息づくなど、先人の営みを受け継ぎ、慈しむ風土が根付いています。

 「県内には、民家であっても景観を守る観点から改修にあたって細かい要件が定められているエリアがあります。古き良き風情が漂う街並みとの調和を損なわずに、今を生きる人の感覚を大切にする。そんな古民家リノベーションを心掛けています」

 そう話すのは、一級建築事務所「奥能登アーキ」の越田純市さん。石川県で生まれ、父方、母方に水道工、板金工の祖父を持ち、職人家系に育ったことからものづくりに興味を抱くようになりました。

 「影響を受けたのは、祖母が住んでいた町の記憶です。金沢市の伝統環境保存区域にあり、幼いながらに古い建物が持つ凛とした空気が好きでした。古民家に心をひかれるルーツはここにあるのでしょう」

 建築系の専門学校を卒業後、いくつかの事務所に勤め、ビル設計や歴史的建造物の修復などに携わり実務力を養います。その後、視野を広げたいと現場管理に3年間従事しました。

 「机の上で計画を練っても、ものづくりの過程では想定外のことが起こります。図面という絵を描くことが目的にならないよう、現場を見るべきだと感じました。作業の流れを学んだことで整合性の高い図面を引けるようになり、古民家をよみがえらせる上で大いに役立っています」

#chapter2

景観を守りながら、快適で心地よい暮らしをかなえるプランを提案

 古民家の活用は空き家対策としても期待が高まっていますが、越田さんいわく、実際に取り組む建築士はそれほど多くないそうです。
「天井をはがしたら劣化が進んでいて残す予定だった梁が使えない、床下の建材が腐食していて基礎をやり直す必要がある、といった事態が起こり難しいんです」

 着工してみるまで何が起こるか分からない案件は、時間もコストも大幅にかかるリスクがあり、参入したがらない傾向にあるとか。
 
 「追加工事や工期延長はお客さまにも大きな負担ですが、最もつらいのは『できる』と言っていた仕様ができないこと。場当たり的なプランでは変更の連続ですから、イメージされている住まいにならない可能性があります。ミスマッチを減らすには、正確に製図することが重要なんです」

 金沢市認定の歴史的建造物修復士の知見も生かし、クライアントの理想と職人の技術をつなぐ設計図を目指す越田さん。予期せぬ苦労も多い古民家再生事業ですが、心地よい暮らしを実現したいとの思いが原動力となっています。

 「景観保全のため、『窓枠はアルミサッシではなく木製で』という約束事もあります。築年数を経ると木がやせて隙間ができ、寒さを我慢して過ごしているんです。家は住む人のためのものですから、快適でなければなりません」

 越田さんは、外観はそのままに内窓を設ける二重構造で気密性と断熱性を高める方法を提案。クライアントからは「建て替えなくても違う家みたいに暖かくなった」と喜びの言葉をもらったそうです。

#chapter3

日本家屋ならではの良さを残しつつ、能登の景色を主役にしたシンプルな住まいへ

 越田さんはインテリアコーディネートも手掛け、観葉植物を扱うなど空間デザインにも力を入れています。純和風から和モダン、北欧調など、クライアントの要望に応じたテイストをかなえる中で、意識しているのは引き算だと言います。

 「昔の住居は、田の字づくりといって各部屋が壁ではなくふすまで仕切られているので、冷暖房の効率も下がりますし、設備が古く実用的ではありません。しかし、全面改修は費用がかさみますから、家族構成や用途を踏まえ、リビングや水回りを中心にするなど施工範囲を縮小するのも有効です。使わない場所は作り替えず、収納として利用するのも一案です」

 引き算の美学は内装でも同様です。日本家屋は彫刻を施した欄間や、掛け軸・生け花を飾る床の間といった装飾が特長ですが、良い部分だけを選び“見せ場”を演出。古民家らしいたたずまいを残しつつ、現代的な要素をプラスして洗練された雰囲気に仕上げます。

 「僕がシンプルに整えることに前向きなのは、能登の美しい景色を主役にした家作りを大事にしているから。一番のぜいたくはこのロケーションなので、余分な装飾はいらないんです。地域の魅力を伝えるためにも、古民家をホテルや週末別荘に生まれ変わらせ、足を運んでいただく機会を増やしたいですね」

 海岸沿いの住宅では大きな窓を配置して室内を磯の風景で彩り、宿泊施設では縁側から田園風景を優しく取り込む越田さん。「伝統と自然を愛する能登の価値観を具現化していきたい」と語ります。

(取材年月:2023年6月)

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越田純市

景観保全しながら快適で現代的な空間を構築する古民家再生のプロ

越田純市プロ

一級建築士

奥能登アーキ

能登の自然との調和を大切にした古民家リノベーションを提案。条件の難しい景観保全区域の古民家も多数手掛け、住む人の安全性・快適性を諦めずにスタイリッシュな家作りをサポートします。

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