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金蔵の棚田でとれた自慢のお米を全国に届けたい

奥能登の棚田で美味しいお米を生産するプロ

山下祐介

山下祐介 やましたゆうすけ
山下祐介 やましたゆうすけ

#chapter1

未経験に等しい青年が稲作農家に転身、奥能登へ移住

世界農業遺産にも認定され、かけがえのない里山里海が広がる奥能登。過疎化や農業人口の減少など深刻な問題も進んでいますが、そんな限界集落に移住し、米作りに情熱を注ぐ青年がいます。のと栄能ファームの山下祐介さんです。山下さんは輪島市にある金蔵地区の棚田で収穫した自慢のお米を全国に届けるため、きょうも汗を流しています。

日に焼けたスポーツマンのような表情が印象的な山下さんは金沢市の出身。大学で経営を学び、大学院を卒業した後、司法試験の合格を目指して勉強していました。人生の転機が訪れたのは二十九歳の時。輪島市町野町金蔵の棚田で米作りをしていた祖父が入院。田んぼを続けることができなくなったのです。

「もう祖父の作ったお米を食べることができないなんて…何とかしなければと思ったのです。子供の頃から田植えや稲刈りは手伝っていましたが、不思議と『楽しい』と感じていたんですよ。金蔵の風景も大好きでした」

山下さんは周囲の反対を押し切って金蔵へ移住。農業の世界に転身し、祖父の田んぼを受け継いで米作りをすることを決心しました。しかしそこには、想像もしなかった苦労が待ち受けていたのです。「最初はどれが自分の田んぼかも分かりませんでしたね(笑)どうやって水を引くの?トラクターはどう使うの?知らないことばかりで、近所の人たちに聞きながら試行錯誤していました」と当時を振り返ります。

#chapter2

「こんなに美味しいお米は初めて」東京のイベントで大好評

金蔵地区の棚田は整備されておらず、コストも労力もかかる小さな田んぼばかり。農機具を入れることも容易ではありません。田植え機が泥にはまって身動きできなくなることもしばしば。「一日やってこれだけしか進んでいないのか」と心が折れそうになったことは数え切れないと言います。

しかし、そんな最初の一年間、たった一人で最後までやり遂げ、約六十俵のお米を収穫した時の感慨は一入。「自分もやればお米が収穫できるのだと自信になりました」。知人らにそのお米を食べてもらったところ「やっぱり金蔵のお米は美味しいね」と言われ、手応えを感じました。

以来、金蔵の棚田に愛情を注ぎ、「今年は昨年より美味しいお米を作ろう」と工夫を重ねて稲作を続けています。当初0.8haだった田んぼもいまでは十倍の8haに。お米のブランド化にも取り組み、収穫したお米は「金蔵米蔵金」とネーミング。金の延べ棒のようなインパクトのあるパッケージにして売り出しています。

金蔵米蔵金は、品種で言えば能登ひかりとコシヒカリの二種類。能登ひかりの方は粒も大きめで香りが良く、比較的さっぱりしていて、冷めても美味しいのが特徴。コシヒカリの方は、お米本来の甘さが強いことが特徴です。

「味には自信がある」と言う山下さん。実際、金蔵米蔵金を食べた人から「いままで食べた中で一番美味しい!」という声が届いており、大好評。東京の新宿駅で開催された「TOKYO三ツ星バザール」に出品した際は、試食した年配の主婦が「こんなに美味しいお米なら、この値段の価値がある」と感激し、後日、贈答用にまとまった注文をしてくれたそうです。

山下祐介 やましたゆうすけ

#chapter3

金蔵米蔵金を食べて奥能登の素晴らしさも知ってほしい

山下さんはいま、次のステップへと足を踏み出しています。「金蔵産のお米の認知度はまだまだ低いのが現状。作るだけでなく、どのように販売するのかが重要です」。愛情たっぷりに育てたお米をどう知ってもらうかが課題の一つ。

さらに、いま山下さんの元には耕作できなくなった農地を任せたいという依頼が寄せられており、耕作面積は年々増えていますが、それに伴って高額な農機具も導入しなければなりません。田んぼを改修する費用も莫大。奥能登は消滅可能性都市にも該当しており、少子高齢化に解決の糸口は見えていません。若い世代の人材確保は難しく、問題は山積しています。
しかし、そんな話をする山下さんの表情に暗さはなく、目はむしろ輝いていました。「奥能登には、ここにしかない宝の山がたくさんある。里山里海はもちろん、勇壮な能登のキリコ祭りもその一つ。金蔵のお米を食べてくれた人がこの土地を訪れて、奥能登の素晴らしさを実感してもらえるようにしたい」。お米には、山下さんが願うメッセージも込められていたのです。

やったことのない農業なんてできっこない。経験もない若者が美味しいお米なんて作れるはずがない。そんな声を真に受け、失敗することを恐れていたなら、いまの山下さんの姿はなかったでしょう。何かをイノベーションしてくのは、山下さんのような情熱を持った人。金蔵米蔵金の名を全国に響かせる挑戦は、まだ始まったばかりです。

(取材年月:2019年7月)

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山下祐介

奥能登の棚田で美味しいお米を生産するプロ

山下祐介プロ

農業

のと栄能ファーム

当初農業の知識はなかったが、だからこそ従来の方法に縛られず、独自の発想で新しい稲作に取り組むことができた。コストや労力がかかる棚田での米作りを逆に特徴と捉え、他と差別化したブランド米を生産している。

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