包丁選びとメンテナンスのプロ辻元明

包丁選びとメンテナンスのプロ

辻元明

刃物専門店4代目が、顧客の声に応え開発した新商品が話題。プロから家庭用まで、満足の1本が見つかる

　「祖父が始めた当店は、神戸市中央卸売市場の開設と同じ昭和7年（1932年）から、市場で店を構えています」と語るのは、堺正元刃物店の4代目、辻元明さん。堺打刃物を中心に高品質の包丁を種類豊富に扱い、勲章料理人の大田忠道さんをはじめ、多くの料理・調理・加工のプロが足を運んでいます。

　幼少から店に出入りしていた辻さんは、刃物の深い造詣と目利きの力、顧客と作り手双方の広い人脈が魅力です。さらに、大手企業の営業マンや大学・大学院で培った経営学の知識と視点を活かしながら、料理人や加工職人など現場の声を反映し、包丁関連の職人たちとコラボをして、欲しいと思わせる包丁を次々に開発しています。

　「柄とさやを9種類から選べる銘木シリーズは、カウンターやオープンキッチンの飲食店が増える近年、『料理人も魅せる時代』という大田さんの助言から生まれました。盛箸の柄も揃いにでき、好評をいただいています」

　ほかにも、まな板製造会社と共同で、厚生労働省が2018年に定めた食品の衛生管理（HACCP）対応の衛生面に優れた丈夫な樹脂柄の包丁も誕生。刃は従来から店で扱う堺打刃物なので切れ味も抜群です。まるごとさび止め液につけられ、食洗器でも洗えるなど手入れも楽。加工業や販売業など大量に食材を切る職人から注目を集めています。

　「プロ用の包丁は高額と思われるかもしれませんが、三徳包丁といわれる牛刀は約1万3000円～、出刃包丁や刺身包丁は約8000円～で揃います。料理人はもちろん、加工工場の職人や経営者、料理や魚釣りが趣味の方、家庭用まで、多くのお客さまにお気軽にお越しいただければうれしいです。店はイオンの向かいの大通りに面し、市場の駐車場も利用できます」

良い包丁は作業ストレスやコストも軽減。一人一人に合った本当に切れる包丁を長く愛用してほしい

　「量販店やネットショップで、包丁は安く買えます。確かに良い包丁は買う時は高く感じるかもしれませんが、ご家庭で約30年愛用している方がいらっしゃるように、長い目で見ればコストダウンになります。省エネエアコンやLEDライトに似ているかもしれません」

　切れ味が長続きするので、仕事効率が向上し、作業ストレスも軽減。加工工場などでは働き方改革にもつながるため、ぜひ経営者の方も足を運んでほしいそう。良い包丁は食材の繊維をつぶさず味も良くなるそうです。

　一方で、「高額な包丁が満足する1本になるとは限りません」と辻さん。産地やブランドで選んでも玉石混合なうえ、高級な青鋼の刃は硬く長切れする反面、研ぐのが難しいなど、その人に合う合わないがあるからです。だから辻さんは、お客さまのご要望を聞いたうえで、一人一人が求める包丁を提案してくれます。

　とくに包丁は種類が豊富。刃部分のチョイスだけでも鋼の配合などで10数種類はあり、鍛錬や仕上の方法、職人の腕なども加えると、選べる数はかけ算で増えていきます。サイズや重さ、切る食材、衛生重視、見た目の好みなど要望をプラスすると、数にきりがないでしょう。だからこそ、包丁のプロの知識や目利きが頼りになります。

　「多数ある包丁を実際に見て選べるのも、実店舗である当店ならでは。メンテナンスもしているので、本当に切れる包丁をぜひ長くご愛用ください」

ハサミや手カギ、抜き型など、クオリティの高い刃物と料理用品が充実。お客さまオリジナル商品も作製

　堺正元刃物店は包丁以外にも、刃物や料理用品が多数扱っています。「ハサミは切れ味が長続きするだけでなく、研ぎなどのメンテナンスもでき、裁縫関係、お花屋さん、植木屋さんなどに好評です。肥後守のナイフは、カッターナイフのように刃が簡単に折れないと愛用者が絶えません」

　魚や荷物をつかむ手カギもサイズや材質など種類豊富で、水産や港湾の関係者の間で人気商品だそう。地元神戸はもちろん、噂を聞きつけた横浜の倉庫・運送会社でも利用。天然氷で有名な日光の老舗氷室でも、全国を探して堺正元刃物店に行きつき愛用しているそうです。

　料理用具では抜き型が評判です。種類とサイズの多さだけでなく、材質が硬くて丈夫で切り抜きやすいと絶賛。さらに硬い素材の型や、大量に押しても手が痛くならないよう加工した型もあります。硬くて丈夫、長さも選べる魚串、目立て直しができる銅製おろし金などもあります。

　ほかにも、まな板も人気です。食材を同じサイズで切れる目盛り付きほか、層状のまな板の中心部にイラストや文字などを入れたオリジナルをオーダーで作れるそう。

　「お客さまオリジナル商品にも力を入れ、2年前にレーザー彫刻機も導入。包丁やハサミ、キーホルダーなどに、文字やロゴ、写真を刻印できます。個人はもちろん、お店や企業、調理学校などでもご利用いただきたいです」

　そんな辻さんは、現在は力が弱い人でも握りやすい柄の包丁を開発中だそう。温故知新を心掛け、業界に新風を巻き起こしている老舗刃物店の4代目の活躍に目が離せません。

（取材年月：2019年11月）

プロが認める刃物専門の老舗。本当に切れる包丁を、一人一人に合わせて提案

刃物専門店4代目が、顧客の声に応え開発した新商品が話題。プロから家庭用まで、満足の1本が見つかる

良い包丁は作業ストレスやコストも軽減。一人一人に合った本当に切れる包丁を長く愛用してほしい

ハサミや手カギ、抜き型など、クオリティの高い刃物と料理用品が充実。お客さまオリジナル商品も作製

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