過労死、過労自殺と戦う法律のプロ
光永享央
Mybestpro Interview
過労死、過労自殺と戦う法律のプロ
光永享央
#chapter1
「過労死、過労自殺はどの職場、職種でもありうること。長時間労働が原因で人の命が失われるのは絶対に間違っている。過重労働に苦しむ人や遺族を救っていきたい」と熱く語るのは、光永法律事務所の光永享央さん。九州では数少ない、働く人の側に立って過労死・過労自殺を専門的に取り組む弁護士です。
最先端の立証技術や判例、医学知識が求められ、弁護士の間でも敬遠されるこの分野に光永さんが力を注ぐようになったのは、サラリーマン時代に川人博弁護士の著書『過労自殺』(岩波新書)を読んだのがきっかけ。実はちょうどその頃、光永さんも職場で月100時間を超える残業をしていたのです。
「過労自殺をした方々の遺書に衝撃を受けました。自分を追い詰めた加害者のはずの会社に対し、『途中で仕事を投げ出してすみません』『迷惑をかけてすみません』と謝罪の言葉が並んでいたのです。これは何か間違っているし、悲しすぎる。でももしかしたら、これは10年後の自分の姿かもしれないと考えました。そして、過労死・過労自殺事件を手がける弁護士になりたいと強く思ったんです」
それからすぐに会社を退職。3年以内の旧司法試験合格を目標に猛勉強を始めます。1日15時間の勉強を自らに課し、交友も断ち切って一心不乱に勉強しました。それでも力及ばず2年連続で不合格となったときは相当落ち込んだそうですが、「自分ならできる」と言い聞かせ、1週間かけて気持ちをリセット。3年目に合格を果たしました。
#chapter2
「過労死・過労自殺事件で勝訴判決を得ることは、当該企業だけでなく、長時間労働やサービス残業を放置している他の企業への警告になります。過労死・過労自殺のない社会をつくるために全力で勝負します」と光永さん。所属する過労死弁護団の弁護士らと連携し、九州を中心に常時20件ほどの過労死・過労自殺事件に取り組んでいます。
「過労死・過労自殺事件の第1関門は、被災者の具体的労働実態に関する証拠集めです。タイムカードがない会社の方が圧倒的に多く、しかも証拠のほとんどを会社側が握っているため、その状況を突破しなければなりません。私は、裁判官とともに職場に乗り込んでパソコンのログやETC履歴等を確保する証拠保全手続を積極的に活用しています」
「第2関門は理論面です。業務の過重性、業務と死亡結果との因果関係、会社が自殺結果を予見できたか等の法的・医学的論争で勝つには、普段から地道に勉強するしかありません。私は関係する裁判例や医学論文を精力的に集め、必要なときにすぐに情報を取り出せるようファイリングして独自のデータベースを構築しています。先日勝訴したトラック運転手の心臓突然死事件では、深夜労働そのものが心身に大きな負担となることを示す医学論文を数多く提出し、判決でも採用されました」
弁護士になって7年。これまで130件以上もの労働事件(内過労死・過労自殺事件は20件)を解決してきたのは、受験勉強で見せた、あのすさまじいまでの集中力、逆境にも屈しないタフな精神力、目標への執念に加え、こうした熱い情熱と向上心を常に持ち続けているからに違いありません。
#chapter3
最近は過労死・過労自殺が広く認知されるようになりましたが、過重労働が原因とは気づかずに遺族がそのままにしているケースも少なくありません。そのため、もし故人が生前仕事で忙しそうだった場合は、過労死・過労自殺の可能性を疑ってほしい。そしてできる限り早い段階で専門の弁護士に相談してほしいと光永さんは言います。それは、先ほどの第1関門、つまり被災者の具体的労働実態に関する証拠が、時間が経つと廃棄されるなどして、確保することが難しくなるからです。
その一方で、「お世話になった会社に矛先を向けるなんて」と、周囲から反対され、労災申請を躊躇する人が多いことも指摘。それでも労災申請を考えるべきといいます。特に自殺の場合は、偏見を恐れて周囲に死因すら伏せる傾向がありますが、国が労災と認めたのであれば堂々と言えるようになります。
2014年11月、過労死・過労自殺の防止を国の責務とする「過労死等防止対策推進法」が施行されました。過重労働で大切な家族を失った人たちで構成する「全国過労死を考える家族の会」では、全国55万人の署名を集め、法律成立の原動力となりました。愛する人のつらい死を乗り越え、真剣にかつ明るく活動する遺族の姿を見て光永さんはこう言います。
「突然の死に、なぜこんなことが起きてしまったのかと、しばらく暗いトンネルの中にいる感覚を覚えると思います。しかし、労災認定を受けることで、その長いトンネルの先に出口の光が見えてくるはず。その結果、依頼者自身が新たなスタートラインに立つことができるのです」
(取材年月:2014年11月)
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誰にも負けない情熱と向上心を持って、最新の判例や医学知識を研究し、ゼロからコツコツ証拠を積み上げて成果を目指します。
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