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幸せな事業承継のコツを伝える「継承学」で、地域の未来をひらく

地域の未来を育む後継者支援のプロ

小村圭介

小村圭介 こむらけいすけ

#chapter1

自らの体験をベースに後継者目線で伝える「継承の知恵」

 日本には創業100年以上の企業が3万社以上も存在すると言われ、これは世界全体の中でも突出した数。多くは中小企業で、地域に根ざした存在として、技術や信頼、雇用を引き継いできました。しかし現在、中小企業の約6割が後継者不在という課題に直面。特に地方では人口減少や若者の都市流出により、家業の継承が困難になっています。

 こうした現状に対し、「継承には後継者のための学びが必要」と提唱するのが、青森県三戸郡五戸町で歯科医院を営む小村圭介さんです。
 現役の歯科医師として診療にあたる傍ら、全国の中小企業の後継者に向けて事業承継に関する講演活動を行い、2024年には著書『家業を継ぐ前に知っておきたい 「継承学」』(サンライズパブリッシング)を出版。歯科業界の継承セミナーから始まった活動は、現在では業種を問わず、オンライン・対面の両形式で広がりを見せています。

 伝えているのは、「感謝」と「準備」、「対話」を軸とした“後継者のための継承支援”。
 「顧客、スタッフ、経営方針、地域との関係性など、“引き継ぐべきもの”が多いのが家業の継承。ゼロから始める創業との違いを意識しないと、スムーズな継承が難しい一方で、事業や組織の引き継ぎについて学ぶ機会が少ないのが現状です。一度始めれば後戻りのできない“一発本番”でもあるだけに、事業継承を成功させるお手伝いができればうれしいですね」と小村さん。自らの体験をもとに、次の世代が少しでもスムーズに、幸せに継承へ踏み出せるよう、実践的な知見と言葉を全国に届けています。

#chapter2

「何を変え、何を守るか」 感謝・準備・対話で乗り越えた事業承継

 小村さんが地元・五戸町にUターンしたのは2017年、29歳のときです。歯科医師として青森県外で経験を積んだ後、副院長として診療に加わりました。2020年には院長の職を引き継ぎ、翌2021年には旧医院の隣に新たな医院を新築移転。まさに“現場の真ん中”で、家業の継承に取り組んできました。

 「何を変え、何を守るか。その判断には大きな責任が伴います」と、小村さん。当初は多くの葛藤を抱えていたと言います。

 「何か変えようとすると、スタッフを戸惑わせてしまう。けれど、何もしないままでは時代の変化に対応できない」。
 そうしたジレンマを乗り越えるために意識したことがありました。まずは、先代やスタッフ、地域への敬意と感謝の気持ちをしっかり持つこと。そして、継承の意図や自分自身の思いを、日々の対話の中で伝えること。さらに、いきなり変えるのではなく、今ある仕組みに共に向き合いながら、必要な改革を段階的に進めることです。

 「先代のやり方を否定せず、“なぜ自分が継ぐのか”という軸を共有することで、職場の空気は徐々に変わっていきました」。
小村さんはそう振り返ります。

 また、医院の“2代目”として地域に受け入れてもらうために、町の行事や健康講話などの場にも積極的に参加。診療以外の場面でも自身の存在を知ってもらうことで、患者や地域住民との信頼関係を少しずつ築いていきました。
 「最初の3年間は、継承の準備というより、地域の一員として認知されるための時間だったと思います」と語るように、現場での丁寧な関係づくりが継承の基盤となっていきました。

#chapter3

あなたの一歩が、地域の30年後を変える。未来をつなぐ継承を一緒に

 「家業を継ぐことは、地域の未来を継ぐこと。地方都市では、地元の中小企業が地域経済と暮らしを支えており、その存在は単なる“会社”以上の意味を持っているからです」と小村さん。
 幼い頃から歯科医院を訪れる町の人々と父との親しい姿を見て育ち、自身が地域の行事などに関わるようになった今は、医院が単なる医療機関ではなく、町の一部として根付いていることを実感しています。
 「だから家業を継ぐということは、“つながり”の継承でもあるんです」

 この10年で、日本の地域社会を支えてきた中小企業の多くが世代交代の時期を迎えています。けれど、その継承は「育てる」ことが前提の創業とは違い、「受け継ぎ、変化に対応しながらつなぐ」力が求められます。
 後継者の学びや対話の場が、これからの日本社会に不可欠だと感じ、「継承学」を広げてきた小村さんがセミナーで伝えるのは、成功談ではなく、むしろ失敗や葛藤を含めた“継承のリアル”です。

 「あなたの継承は、あなただけのものではありません。それは、あなたの家族、スタッフ、地域、そして未来へとつながっていくものです。誰もが初めて継ぐ。だから迷っていいし、時間がかかってもいい。悩みは、一人で抱え込まなくていい。30年後、“継いでくれてありがとう”と言ってもらえる継承を、一緒につくっていきましょう」
 小村さんは今日も、静かに、しかし確かな言葉で全国の後継者に呼びかけ続けています。

(取材年月:2025年6月)

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小村圭介

地域の未来を育む後継者支援のプロ

小村圭介プロ

事業承継講師

自身の継承経験をもとに、後継者に必要な準備や心構えを伝える講演活動を展開。後継者が自信と誇りを持って未来へ進めるよう支援します。

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