故人の顔を復元するラストメイク・死後処置のプロ鈴木雪乃

故人の顔を復元するラストメイク・死後処置のプロ

鈴木雪乃

特殊メイクの技術で顔色やふっくら感を表現し、傷や皮膚の欠損にも対応

　「人生最期の身支度を心を込めてお手伝いします」。そう話すのは、甲府市の「ティアドロップ」のスタッフ鈴木雪乃さん。長期の病気療養で以前と風貌が変わった故人や、事件や事故で顔に損傷を受けた故人に特殊メイクの技術を用いた「ラストメイク」を施し、家族が心穏やかに故人を見送ることができるようサポートしています。

　「看護師さんや介護士さんが故人の体をふいたり、ひげをそったりして整える『エンゼルケア』がありますが、ラストメイクは、ご家族に生前の様子を伺ったり写真を拝見したりしながら、元気だったころのお顔に近づけます」

　療養生活が長く、顔の色が変わったり痩せたりしている場合も細やかに手入れします。

　「通常の化粧品は体温に反応して肌に定着するようにできています。亡くなった方には専用の化粧品があり、体温がなくてもきちんと肌に乗り、ツヤや血色を良くしてくれます。またお口の中に綿を入れたり、美容医療に用いるプロテーゼを注入したりしてお顔をふっくら生き生きと見せることもできます」

　事件や事故で顔に大きな傷が生じ皮膚が欠損している場合は、映画業界でも使われている人工皮膚を用いて補います。

　「投与された薬の影響や事故による内臓損傷などで、逝去された後も鼻や口から出血が続くケースがあります。血液や体液を見てショックを受けるご家族もいらっしゃいますので、小さな傷はお薬で人工的なかさぶたを作り、傷口をふさぎます。出血の量が多い場合は吸引器で取り除くこともあります。故人さまが安らかな表情で、ご家族とお別れのひとときを過ごせるよう、力を尽くします」

自宅やホールへ搬送し、体の手当てや着替え、ラストメイクを施して安置

　昨今は、人手不足などを背景に自社搬送が難しくなっている葬儀社もあり、ティアドロップでは、故人を病院や施設から自宅やセレモニーホールへ搬送しています。シンプルなデザインの軽バンを使用し、周囲の目に触れることなく運ぶことができます。

　「こぢんまりと家族葬を執り行いたいといった理由で、ご近所に知らせたくない方もいらっしゃいます。料金の面も、大型の霊きゅう車を使うより費用を抑えられます」

　24時間態勢で対応し、体の手当てと保全、着替え、ラストメイクで整えて故人を希望の場所へ安置。火葬で荼毘（だび）に付すまでの間、化粧直しにも応じ、旅立ちのときを迎えます。

　「病院や施設は臨終後、長くは安置できず、なるべく早く故人を運び出す必要があるため、ご家族は比較検討する間もなく葬儀社を決めなければなりません。当社を利用していただければ、とりあえず自宅などに故人を移し、落ち着いた状態で葬儀会社を探すこともできます」

　同社は、美容業界と葬儀業界を経験した代表者が「故人さまの身のまわりをお世話し、ご家族の心身の負担を軽くしたい」と2021年に創業しました。経験豊富なスタッフがそろい、家族から葬儀に関する幅広い疑問に答えられる点も重宝されています。

　鈴木さんは以前、別の業界で働いていましたが、「新しい仕事に挑戦したい」と葬儀業界で働く姉の紹介でティアドロップに入社しました。

家族に寄り添い、生前のエピソードを聞きながら顔の再現に生かす

　「当初は亡くなった方にメイクすることについて想像がつきませんでしたが、在りし日を思い浮かべながら、故人さまをしのんでいただけることにやりがいを覚えました。まだ経験は長くないですが、先輩の指導を受けながら技術の向上に努めています」と鈴木さん。遺族に寄り添う姿勢を何よりも大事にしていると言います。

　「大切な人を亡くしたご家族は悲しみに暮れています。つらい気持ちが少しでも和らぐよう、お話にじっくりと耳を傾けることを心掛けています。会話の中から『おしゃれが好きな人だった』『スポーツが好きだった』といった、お顔の再現に生かせるエピソードが出てくることもあります。できるだけ生前のお顔に近づけられるよう、ご家族と一緒に考えながらお化粧しています」

　鈴木さんが以前手掛けた事例は、生前は体格が良かったという男性。最後はあまり食事を取れず、亡くなった際は頰がこけ、目がくぼみ、顔の印象が大きく変わっていたそうです。家族の話や写真をもとにラストメイクを施し、健康的な顔立ちに。家族から「いつものお父さんだ」と喜ばれました。

　「涙を流しながら感謝の言葉がいただけたことがうれしく、この仕事をしていて本当に良かったと感じました。時にはご家族から『私の時もメイクしてほしい』と言ってもらえることもあります」

　最近は葬儀会社からの依頼に加え、家族から直接ご依頼を受ける機会も増えているそうで、「思い出を刻むエンディングの儀式として、ラストメイクを多くの方に知ってもらえたら」と語ります。

（取材年月：2025年1月）

人生最期の身支度としてラストメイクを施し、故人が元気な頃の顔立ちに

特殊メイクの技術で顔色やふっくら感を表現し、傷や皮膚の欠損にも対応

自宅やホールへ搬送し、体の手当てや着替え、ラストメイクを施して安置

家族に寄り添い、生前のエピソードを聞きながら顔の再現に生かす

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