伝統文化をつなぐ表具のプロ
岩崎正克
Mybestpro Interview
伝統文化をつなぐ表具のプロ
岩崎正克
#chapter1
砺波インターから五箇山方面へ車で10分ほど走ると、右手に砺波平野の伝統建築「あずまだち」を思わせる堂々とした佇まいの建物が目に入ります。この建物は、表具師・岩崎正克さんの店舗「表具一式 岩崎精正堂(せいしょうどう)」です。8年前にリニューアルオープンし、家族で営まれています。
表具師とは、屏風や掛け軸、額などの仕立てや修復する人のことをいいます。岩崎さんが修復に使用している「糊」は、本人の手により作られたもの。10年間寝かすことで粘着力を抑え、作品に対し優しい糊に仕上げています。現在、こうした糊を使って修復している表具店が減少傾向にあることからも、岩崎さんの修復への強い信念が伝わってきます。
「屏風を額に作り替えるなど、生活様子の変化に合わせた修復も行っています。また、数百年以上経過した掛け軸を修復する場合は、新しい裂地を使うと趣や調和がなくなるため、当時の良さを守るため補修し再利用することもあります。この仕事は、伝統文化を守り継ぐということ。使命感と誇りを持って取り組んでいますが、お客様から学ぶことがすごく多いですね。」
以前、評価に値しない屏風の修復を依頼されました。修復は安い金額ではありませんが、お客様が「直す姿を息子と孫に見せる。家を守り継ぐ心を育てるのだ」と言われたのです。家への想いに強く感動しましたね。日々勉強させていただいております。」
#chapter2
岩崎さんは、表具師である父親の背中を見て育つうち、表具という仕事は世の中に役立つ仕事と思うようになりました。中学校2年生の時、父親に跡継ぎになることを宣言したのが、表具師の道に進むことになったきっかけです。高校卒業後、京都の名工の表具店で7年間の修業を経て、平成14年には大樋長左衛門の出入り表具師、同20年には株式会社大和の出入り表具師となりました。百貨店に出入りできるということは、表具師として一流と認められた証といわれています。香林坊大和では、平成23年3月から年に1〜2回のペースで「表具という仕事展」を開催。1日に訪れるお客さんの数は約300人と大好評であることから、平成26年の開催も決定しています。
「表具という仕事を知ってもらうために展覧会を開いているのですが、表具師のことを「おもてぐし」と呼ぶお客さんがいらして知名度の低さを実感しました。富山は持ち家率の高さから、人口比率でいうと全国一表具師の多い県なのですが、今はほとんど跡取りがいません。しかし、私は世の中に必要な仕事だと思っているので、こうして残っています。県内には若い表具師が何人かいるので、みんなで結束してこの業界を守っていきたいと思っています」
岩崎さんがこれまでに手がけた仕事の中で一番喜びを感じた仕事は、修復に伴い歴史的発見に繋がった金沢市「専光寺」所蔵の掛け軸です。岩崎さんは、掛け軸を預かってからの3ヶ月間、博物館や資料館・図書館などを訪ね歩きました。多くの方々からの協力を得て、その作品が幕末維新期の掛け軸で加賀藩前田家の藩主など12人の寄せ書きであると解明。お客様の期待に応えることができました。
「歴史と文化のそばに立ち会えるのが、この仕事の魅力。表具師は、いわゆる鑑定はできませんが、橋渡し的なことであれば精一杯務め、そのような役割も果たしていけたらと思っています」
#chapter3
歳月を経ると、掛け軸などに現れる茶色い斑点「しみ」。そのしみ抜きは、どんな表具師でもできるというものではありません。岩崎さんのもとに文化財や名品を預ける県外客が多いのは、「しみ抜き」が得意だからです。
「作品にもしもの事があれば全責任を負わなければならない。相当な覚悟が必要です。しかしそのまま放っておくと作品が死んでしまいます。そうならないためにも、今心底欲しいのは、より高い技術。技術を磨くには仕事を重ねるしか方法がありませんが、そうした経験を与えてくれるのがお客様です。「お任せします」と言ってくださるお客様の存在は本当に有り難いですね。これからも、少しでもご期待に応えられるよう研鑽を重ねていきます。表具師の仕事を通して、日本の素晴らしい伝統文化をお伝えしていきたいですね」
(取材年月:2013年12月)
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伝統文化をつなぐ表具のプロ
岩崎正克プロ
伝統工芸
表具一式 岩崎精正堂(せいしょうどう)
伝統に培われた技術力で掛け軸や屏風、額などの仕立てや修復を行う。「染み抜き」に関しては、県外から文化財や名品を預ける顧客が年々増えています。
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