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かけがえのないペットのために、心と身体を癒やすオンリーワンの動物医療を目指して

グリーフケアでペットと飼い主の心を癒やす獣医師

阿部美奈子

1_阿部美奈子先生
2_講演会

#chapter1

医療者と飼い主が連携して、生前からのグリーフケアを

 医療でも重要性が見直され、知られるようになった「グリーフ(悲嘆)ケア」。その大切さは人間だけにとどまりません。犬や猫などの身近なペットにとっても、心のケアは欠かすことのできないものです。
 ペットが病気にかかったり、最期を迎えたりするときのグリーフケアを提唱している第一人者が、獣医師の阿部美奈子さんです。15年前からグリーフケアの普及に努め、今年5月にはペットライフのトータルコンサルタント会社として「合同会社Always」を設立。現在はマレーシアと日本を往復しながら全国津々浦々を飛び回り、診察やカウンセリング、講演・セミナーなどに奔走する日々を送っています。

 阿部さんの考えるグリーフケアは、ペットとの別れを体験する人のペットロスに限りません。例えば、生みの母親や仲間との別離といった喪失体験や病気(=健康の喪失)によって、当たり前の日常が変化してしまうことをペット目線でグリーフと捉え、ペットの生前を中心に、ペットや人に幅広くはたらきかけるものです。
 当初、動物医療から始まったグリーフケアは、トリミングサロン、しつけのクリニック、ペットショップなどでも可能性が広がっています。
 会社の設立を機にさらに一歩進んで、さまざまな形でグリーフケアを提供し、伝えていきたいと意欲を見せる阿部さん。来年には、グリーフケアの資格を取得できる通信講座の立ち上げも視野に入れています。

#chapter2

ペットに関わる人たち全員に伝えたい、グリーフケアの大切さ

 昨今、動物病院の数が増える一方、ペットの頭数は減っています。「最期がつらかったから、もう二度とあんな悲しい思いをしたくない」と思うあまり、飼えない人が続出しているためです。「従来の動物医療が“病気を診る”ことに終始し、飼い主の心のケアを怠ってきたのが原因では」と阿部さんは指摘します。
 動物が生きていく上で、グリーフに直面するのは避けられないこと。グリーフが大きければ大きいほど、飼い主にとってペットが大事な存在である証しです。医療者もグリーフに寄り添い、治療と心のケアの両面から守れたかを真剣に考える――今、そのような動物医療が必要とされています。

 ペットが亡くなっても病院で「おくりびと」をし、その死を悼みながら「この子と出会い、共に過ごせたことが幸せ」と感じられる場としての動物病院。飼い主の中には、グリーフから立ち直って「次のペットを飼いました。きっと前の子の弟・妹なのね」と報告してくれる方もいるのだとか。ペットが人と人をつなげて、ご縁は続いていくもの。心の医療ができるかどうかは、次の命のバトンタッチへと結ぶ経営にも大きく関わってきます。

 グリーフを癒やされた飼い主が、新しいペットを飼う。ペットの数が増えると、結果的に動物医療も経済的に潤う。「これが目先の利益にとらわれない理想の経営であり、プラスの循環を生みだすのではないでしょうか」と、阿部さんは経営セミナーでもグリーフケアの重要性を説きます。

3_待合室診療

#chapter3

ペットにとって心安まる安全基地となれる動物病院

 飼い主にとってペットは「ファーベイビー」、つまり“毛皮を着たわが子”と呼べる、かけがえのない存在です。阿部さんがグリーフケアに開眼したのも、動物病院での勤務や11年にわたる子育ての経験を経て、「自分が正しい、相手を救うため」という独善的な自己満足ではいけないと気付いたからでした。
 待合室を見ると、誰も笑っていない。悲しみのあまり、今にも泣きそうな飼い主。ペットも疲れ切った表情で、緊張して震えている。「病院へ来ているのに楽になっていない。身体の痛みを取っているはずなのに、なぜ?」
 阿部さんは「病気だけを診て、患者を診ていなかった」という反省に立ち、グリーフケアを学問として作ることを決意。師として敬愛してやまない、「人間を診る医療」を提唱した故・日野原重明氏にも学び、「ペットと飼い主を幸せにする動物医療」を実践してきました。

 待合室診療では、動物の表情を見ながらその子の名前を呼んで話し掛ける。診察時には、ペットが使い慣れたブランケットや飼い主のにおいの付いた衣服を持参してもらう。また、家で薬の入ったごはんを無理やり食べさせないようにもアドバイスし、ペットがストレスを感じないように配慮しています。
 ペットにとって、家や病院は安心して暮らせる“安全基地”にほかなりません。病気で生じたグリーフを癒やすケアは安心感と笑顔を取り戻し、心にエネルギーを入れて病気に立ち向かう勇気を持つためになくてはならないもの。

 「出会ったペットが寄ってきたり、『先生が来てくれてよかった』と言っていただいたりして、逆に私自身もエネルギーをもらっています」と語る阿部さん。「そばにいる人や動物を癒やせれば、孤独にならない。そしてまた、隣りの人へ……。巡り巡って誰もが幸せになれる、グリーフケアの輪ができればいいですね」と、壮大な願いを語ってくれました。

(取材年月:2019年8月)

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専門家プロフィール

阿部美奈子

グリーフケアでペットと飼い主の心を癒やす獣医師

阿部美奈子プロ

獣医師

合同会社Always

「ペットと人のハッピーライフを出会いからエンディングまで」を合言葉に、治療と心のケアの両面から診療を行います。飼い主と共に連携し、ペットが生きている間から行うグリーフケアの大切さを提唱しています。

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