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集客こそが肝心 ビジネスとしてのアートで日本を元気に

エンタメ空間を創造するアートディレクター

奥村昇

奥村昇 おくむらのぼる
奥村昇 おくむらのぼる

#chapter1

集客ツールとしてのアートを提案

 優雅に魚が泳ぐ海底水族館を描いた地下道、園内を見下ろす恐竜の親子のいる幼稚園。思わず足を止めて見入る「作品」を手がけているのはデザイン会社「ビッグアート」。壁画、オブジェ、デザイン塗装を組み合わせた「ウォールアート」を得意とし、建物の外観や内観、看板などに新鮮な風を吹き込みます。

 同社の社長・奥村昇さんが大切にしているのは、出来上がった制作物がきちんと顧客の求める成果につながっているかどうか。客数を上げたい、無表情な外観を変えたい、地域の安全性を高めたい。そうした課題を解決へと導くため、徹底的にヒアリングを重ね、現場に足を運び、顧客の悩みに正面から向き合います。

 いわゆる「芸術性だけの仕事はしない主義」だという奥村さん。課題解決のために作家性が“雑音”となるケースが少なくないため、「爆発力を持つアートの手綱を引き締め、デザインへ落とし込むのがアートディレクターとしての私の役割」と話します。

 芸術偏重にならない基本方針が生まれた理由は、これまでの理工学、映画、小売業、POPマーケティングという変わった経歴にありました。

「小売業の時代は『常識外れの売り方』で会社の売上記録を次々と更新しました。続いて飛び込んだのは、商品と顧客の新しい出会いの場をつくり出すPOPマーケティングの業界。そこで、全く売れなかった商品を見せ方を変えるだけで大ヒットさせる『マジック』に出会いました」と奥村さん。現場の売上を第一に考える仕事から美術畑への転身だったからこそ、今があるといいます。

#chapter2

誰も注目していていないモノの価値をすくいあげる「逆転発想」

 「アートをビジネスとして扱い問題解決の手段としてデザインをする発想は、畑違いのキャリアがあったから」と奥村さん。「見るものの視点を変える」マーケティング発想を生かし、これまで数々のデザインを手がけてきました。

 歯科医院の壁に愛らしい動物を描いたときのこと。道ゆく子どもたちが「あ、キリンのお医者さんだ!」と喜んだそうです。「別の医院に通っていた子どもが『動物の絵のお医者さん』へ移る数は次第に増えていきました。お母さんたちによると『子どもが泣きやみ、笑顔になるから』とのことで、絵の力を実感した出来事でした」

 暗くて汚れた春日部市の地下道にクジラや熱帯魚が泳ぐ海中を描き“海底水族館”に仕立てたときは「女性や子どもが怖がらずに通行できるようになった」「落書きと犯罪がなくなった」と感謝の声が数多く届きました。

 元オフィスビルだった保育園では、美観の足かせだった非常階段を逆に生かしたデザインを採用。ステップや手すりなどをピンクやブルーのパステルカラーに塗り、支柱には丸いオブジェやポップな王冠を取り付けました。無機質で殺風景な階段をカラフルに演出してあえて目立たせ、シンボルにしたのです。
建物の短所をアートでチャームポイントに変える「逆転発想」がこの仕事の真骨頂だといいます。

 「誰も注目していなかったモノの価値をすくいあげ、多くの人をわくわくさせて驚かせたい。アートは人や街を元気にします。エンターテインメントなドラマ空間をつくって多くの人を楽しませるのが使命だと思っています」

奥村昇 おくむらのぼる

#chapter3

アートの新しいビジネスモデルを求めて奮闘中

 奥村さんは、仕事を通して「アートで食べていける人を増やすこと」にも取り組んでいます。この国で美術をなりわいとするのは並大抵のことではない、と奥村さんはため息を漏らします。

 「私のところにも『絵の腕は誰にも負けない。でも食べていく方法がわからない』という美大の若者がよく相談に訪れます。それに仕事を得たとしても特需が多く作業量に比べて薄利なものばかり。年を重ねるとみんなどんどんあきらめていく。現状では、美術家として有名になる以外に未来がないと感じます」

 何万人かに一人のスターを目指すビジネスモデルではなく、手の届く夢でたくさんの人が暮らしていけるよう、自分に何ができるか。新たな市場を求め、奥村さんは奔走します。現在は、多彩な色使いを得意とした手描きならではの塗装ビジネスや、地方でも生計が成り立つ仕組みづくりを模索中。「人がどんなことに困っているか、どうしたら楽しめるか、視点をずらして考えればアートを使った市場は無限にあるはずですから」

 70歳を超えながら意欲は衰えません。まだまだこれからです、と快活に笑います。

 「景気は人の気持ちで左右されます。楽しい場所が増えれば人は元気になって経済が回る。誰もが笑い、驚き、楽しめる場所をアートの力で増やして全国を活性化させたい」

 カラーチャートを持つ手を置くつもりはまだまだない。そんな熱意が語り口から伝わってきました。

(取材年月:2021年4月)

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エンタメ空間を創造するアートディレクター

奥村昇プロ

アートディレクター

有限会社ビッグアート

アート制作が目的ではなく、アートのパワーを活用した戦略的なデザイン(しかけ)で人や社会に大きな変化をもたらし、新しい価値や新しい流れを生み出します。人がワクワク元気になるまちを目指して!

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