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40年以上にわたる学校現場から得た、思春期の子どもに寄り添うヒント

英語教育や学校現場を知り尽くす教育アドバイザー

谷浦健司

谷浦健司 たにうらけんじ
谷浦健司 たにうらけんじ

#chapter1

独自に英訳した「火垂るの墓」の教材など、心に残る授業で学ぶ意欲を高める

 高校教諭として40年以上にわたり、教育の最前線で子どもたちに向き合ってきた谷浦健司さん。現在は大学の非常勤講師として教壇に立つ傍ら、教育アドバイザーとして教育関係者や保護者に向けた講演やコンサルティングにも力を注いでいます。

 豊富な経験を生かし、講演で扱うテーマは多岐にわたります。専門とする英語教育では、良質な教材選びによる「心に残る授業」を提案。高校の授業では、独自に工夫した教材を導入しました。特に注目されたのが、5年目で取り組んだアニメ映画『火垂るの墓』の英訳教材です。
 「英語を好きになってもらうには、『もっと読みたい』と思える教材を選ぶことが重要です。外国語を学ぶことで異文化理解が深まり、世界平和につながると考え、それまでも平和教材を積極的に取り入れてきました。その中で、テレビ放映を見た生徒からのリクエストがきっかけで、英訳テキストを作りました」と谷浦さん。

 この授業は生徒たちから大きな反響を呼び、英語が苦手だった生徒が難関大学に合格するなどの成果も見られたと言います。教材は全国の学校へと広がり、講演依頼が相次ぐように。作成した英文テキストは書籍化され、現在も教育現場で活用されています。
 さらに、2020年には、兵庫県西宮市の西宮震災記念碑公園に建立された記念碑の碑文の英訳も担当。「教育を超えた場でも活動が広がり、『火垂るの墓』は私にとってのライフワークになっています」と語ります。

 また、より良い英語教育を目指す新英語教育研究会の大阪支部「大阪英語教育研究会」に長年所属。2025年春には会長に就任し、仲間とともに〝よくわかる楽しい授業〟のあり方を追求し続けています。

#chapter2

いじめや不登校も、一人一人に丁寧に寄り添うことが解決の糸口に

 教師の多忙化や不登校の増加は、教育現場が抱える深刻な課題の一つです。教員時代、担任や学年主任として、生活習慣の確立やいじめなどの問題解決にも取り組んできた谷浦さん。「思春期の子どもたちにどう寄り添うかが何よりも大切」と語ります。

 谷浦さんの言う〝寄り添う〟とは、子どもの話にじっくり耳を傾け、できるだけ否定せずに受け止めること。「本人のやりたい気持ちを肯定して応援する。その積み重ねが、自己肯定感を育てるのです」

 印象的なエピソードの一つに、障がいのある生徒がクラス内で孤立していた時のことがあります。ふとした会話の中で「何かを作ってみたい」と語ったその生徒の思いを受け止め、文化祭でクラス全体を巻き込んだ創作活動を提案。生徒を中心に作品づくりが進み、クラスに団結力が生まれたそうです。
 「不登校やいじめのケースでも、その子の〝良さ〟をさりげなく紹介することで、居場所が生まれます。不登校の場合、『無理に登校させなくていい』という意見もありますが、学校としてできることはやりたいという思いがありましたね」

 また、生徒会や部活動、PTAや地域活動など、学校運営に関するさまざまな活動に携わってきた経験から、保護者や地域と連携する重要性を訴えます。
 「近年、PTAは不要という声もありますが、効率化を図りつつ、子どもたちの学校生活を一緒に支える仕組みはこれからの時代にも必要と言いたいですね。また、地域に愛される学校づくりが、生き残りの鍵になるケースも。開かれた学校づくりについても伝えます」

谷浦健司 たにうらけんじ

#chapter3

喜びと感謝にあふれた教職のやりがいを若い世代に伝えたい

 谷浦さんは、お世話になった先生方の影響や、教育実習で生徒と接した喜びから、教師の道を選びました。大阪府立高校での40年以上にわたる豊富な実績を生かし、定年前から大阪大学で非常勤講師として指導。現在、英語科教育法と教職論の講座を担当しています。

 教職について「喜びと感謝にあふれる素晴らしい仕事」と語ります。
 「子どもの学びや育ちを間近で応援でき、こちらが一生懸命やればやった分だけ、そのイキイキとした成長を実感できます。また、毎年新しい子どもたちと出会える機会も、ほかではなかなか得られません。若い人にもこのやりがいを伝え、熱意あふれる魅力的な先生を一人でも増やせたらいいですね」

 苦労する場面があっても、一人一人と丁寧に関わり「人として大事にしてもらっている」と伝わると、信頼関係が築けると話します。
 「教員生活で最後の卒業式を迎えた際にもらった色紙にも、子どもたちからの感謝の言葉があふれていました。卒業後にも関係が続いていくことが多く、かけがえのない仕事と心から思います」

 そのまなざしは、子育てに悩む保護者にも向けられています。PTA活動で保護者から悩み相談を受ける機会も多く、子育てをテーマにした講演依頼もあるそうです。「長年現場で培ってきた経験が、教育や子育てに悩む人の解決の手がかりになれば」と谷浦さん。教育現場や家庭、地域のそれぞれが、子どもたちのより良い未来をつくる支えとなるよう導きます。

(取材年月:2025年6月)

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谷浦健司

英語教育や学校現場を知り尽くす教育アドバイザー

谷浦健司プロ

教育アドバイザー

高校教諭40年、大学生指導の経験をもとに教育講演や教育アドバイスを行います。英語教育では、映画「火垂るの墓」を英訳した独自教材が全国で評判に。思春期の子どもに寄り添う指導法や子育てのヒントを伝えます。

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