開かれた寺を目指して積極的に情報発信を行うプロ
若松慶隆
Mybestpro Interview
開かれた寺を目指して積極的に情報発信を行うプロ
若松慶隆
#chapter1
「少子高齢化や過疎化の影響で、お付き合いが希薄になって存在感も薄くなり、お寺はもはや風景の一部となりつつあります。一つ一つの寺には歴史や魅力がいっぱいあるのに、それが時代と共に埋もれてしまうのは大変残念です」
そう話すのは、岡山県瀬戸内市邑久町にある「朝日寺」の15代住職、若松慶隆さん。多くの人に朝日寺のことを知ってもらいたいと、2007年にホームページを立ち上げ、積極的に情報発信しています。
「当方は瀬戸内海に面したのどかな田園地帯にあります。南にふた山越えた尻海は、江戸時代に物を運送する廻船業が栄えたところ。海で亡くなった人を供養するために始まった『投げ銭供養』は、約300年前から当寺で続く伝統行事で、市の無形民俗文化財に指定されています。ホームページやSNSでその様子を紹介すると、数多くの人が訪れるようになりました」
寺に入った時に父親である先代から言われたのは、行事は好きに開催していいということでした。
「盛大に催して人を呼び入れることで、地域の活性化につながるのではないかと考えています。檀家さんには、たくさんの人が集まるお寺だということに誇りを持っていただければ」
周囲に比べて檀家数は多いそうで、「ひとえに檀家さんの信頼があってこそ」とブレない信念を語ります。
「葬式、法事などの檀務を流れ作業にするのではなく、それぞれの家庭の事情に寄り添い真摯(しんし)に向き合ってきました。お寺はお悔やみをするだけの悲しい場ではなく、楽しい所なのだとイベントなどを通じて伝えていきたいですね」
#chapter2
以前は銀行員として働いていた若松さん。父が体調を悪くしたことから、2006年に実家に戻ります。先代が存命の間は、塾の非常勤講師を13年間務めました。
「純粋に研さんを積んだ人も必要ですが、私は多様な価値観を持つ住職になりたかったんです」。銀行で培った金銭管理のノウハウをはじめ、対話力や提案力は住職になってからも生かされていると言います。
「特に子どもたちとの関わりは、とてもいい刺激になりました。人を指導する時、人に理解を求める時、どういう話し方や言葉遣いをすれば伝わるのかを学びました。おかげで、仏事の相談に応じる際に大いに役立っています」
時には、通夜の後「墓の建立か、永代供養か」で意見が食い違う親子と、夜中まで話し合うこともありました。それぞれが納得する形に導くには、「傾聴し、多角的な視点で捉える事が大切」と親身に耳を傾けてきた若松さん。幼い頃は、周りからの「継ぐのは当たり前」という期待をプレッシャーに感じたことも。将来は、わが子も含めて地元から親しまれる人に継承してほしいと願っているそうです。
「寺が世襲制になったのは、妻帯が認められるようになった明治以降のことです。政治家や企業なんかは、一族で基盤を継ぐことに反感もあるようですが、お寺は世襲が望まれているんです。檀家さんから見れば、全く知らない人がよそから来るよりも、小さい頃から顔なじみの子が継いでくれる方が安心するのでしょう。寺を心の支えにしている人は多いのかもしれませんね」
#chapter3
国内の寺院数はコンビニエンスストアの数を上回るといったデータもあります。しかし近年、寺院では後継者がいなくて存続が危ぶまれるケースも増えており、いかにして生き残るかが大きな課題となっています。
「寺離れ、宗教離れと言われるようになって久しいけれど、お正月にはみなさん初詣にお出掛けされますし、四国八十八カ所の霊場を巡るお遍路のバスツアーが人気というニュースも見聞きします。世間が思っているよりも、人々の関心は薄れていないようにも見受けます。マスコミが取り上げるのは、規模が大きくて有名な神社仏閣が中心ですから、田舎の古刹(こさつ)は目に留まりにくいんでしょうね」
地方の小さな寺にも参拝の足を向けて、風情を味わってほしいと呼び掛ける若松さん。若い世代が進学や就職で都市部に出て、そのまま拠点を移すなど過疎化が進むことも心配しています。
「檀家さん同士の結び付きがなくなってしまうと、地域のコミュニティーが成り立たなくなりますし、その土地ならではの文化や習慣も途絶えてしまいます。大切に受け継いでいくために、ふるさとを同じくする人たちが気軽に集える場を提供することも、私どもの役割だと思っています」
広く門戸を開くことで「近寄りがたくて、入りにくい」というイメージを、何とか変えていきたいと気概を示す若松さん。「お寺は特別な場所ではありません。人々が触れ合い、コミュニケーションを深めていくところなんです」と、穏やかな笑みを浮かべます。
(取材年月:2022年9月)
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開かれた寺を目指して積極的に情報発信を行うプロ
若松慶隆プロ
住職
朝日寺
元銀行員という異色の経歴を持つ住職。多様な価値観でそれぞれの家庭事情に真摯に向き合い葬式や法事などを執り行う。寺の歴史や伝統行事などをHPやSNSで情報発信し、檀家外の人も集う開かれた寺を目指す。
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