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根羽スギなど地域の自然素材を使い、環境と共生するサスティナブルな家づくり

地域産材を使い健康的に暮らせるおしゃれな家を設計するプロ

松下重雄

松下重雄 まつしたしげお
松下重雄 まつしたしげお

#chapter1

風や日差しなど「微気候」にまでこだわった、環境にも住む人にもやさしい家を設計

 長野県飯田市を拠点に40年以上。方位や地形、風の流れ、日差しなどの「微気候」に配慮し、環境にも住む人にもやさしい家づくりに取り組んでいるのが、「みすゞ設計」代表の松下重雄さんです。

 例えば、飯田市を一望する高台に建つ家は、空のように清涼な青と、スタイリッシュな長い片流れの屋根が印象的。リタイア後の人生を楽しみたいという施主のために、眺望を最大限に生かす大きな開口部や開放的な吹き抜けを設け、スギや鉄平石といった地域産材や珪藻土などの自然素材で室内を演出。気密性の高い木製サッシや輻射熱を利用した床暖房システムを採用し、省エネルギーも目指します。

 雨雪や日射から建物を守る深い軒を設けるのも特長。軒先の広いぬれ縁で庭を眺め、小鳥のさえずりや蝶のたわむれを楽しむことができます。

 「建材としてよく用いるのがスギで、断熱性に優れ、はだしで過ごせるほどです。中でも、根羽村産の『根羽スギ』は赤みがかった温かみのある色合いが魅力で、日本農林規格(JAS認定)を取得し全国的にも知られるようになりました」

 村の森林組合に協力してともに根羽スギの「ブランド化」にも尽力。
 「浴室の壁や天井の防腐・防カビを研究し、壁内に腐朽菌がはびこらない<みすゞ仕様>ディテールを考えました。大型乾燥換気扇を活用し、手入れしやすく木の香りが豊かな『温泉気分の癒しの湯』だと大好評です」

#chapter2

高度経済成長期の東京で修行。信濃の風景を守るため開業し受賞歴も多数

 松下さんは、3歳の時に東京から母親の郷里である飯田市に疎開。自然の中で昆虫に夢中になる少年時代を過ごします。

 「手先が器用だったことから、高校では建築科を専攻しました。教わった先生も『君は設計に向いている』と、当時はまだ珍しかった東京の設計事務所を勧めてくださいました。結局、設計の道へ進んだのはクラスで一人だけでした」

 1960年、高校卒業後に上京し、建築設計事務所へ入社。時代は高度経済成長期で、さまざまなプロジェクトに携わる中で、もっと専門性を追求したいと考えるように。事務所を移り大学へ進み、勤めと両立させながら勉学に励みました。
 「こうして長い間に都会的なセンスを身に付けたのだろうとよく言われました」

 東京での修行を経て、36歳で家族の病気のため帰郷。産業化の波で牧歌的な雰囲気が失われつつあることに驚いた松下さんは、都市と農山村の懸け橋となるべく、1980年に開業しました。

 住宅のほか、公共施設、医療・福祉施設などを手掛け、「環境・省エネルギー建築賞」財団理事長賞(2001年度)、「JIA(日本建築家協会)環境建築賞」住宅部門優秀賞(2013年度)、「“信州の木”建築賞」最優秀賞(2016年度)など、受賞も多数。
 「『第11回木の建築賞・大賞他(2016年度)根羽村高齢者福祉施設ねばねの里「なごみ」』ではじめて日本一の賞をいただき、村にも恩返しができました」

 また日本建築家協会・長野県地域会会長や、長野県住宅審議会会長、信州大学工学部非常勤講師などを歴任。80歳を超えた今も、業界をリードし若手の建築家を育成しつつ現役で住宅などを設計して、感性を磨き続けています。

松下重雄 まつしたしげお

#chapter3

「古さこそモダンな家づくり」をテーマに、次代に引き継ぐため古民家を再生

 故郷に戻って以来、力を入れてきたというのが古民家再生。施主の要望や建物の状態に合わせて、どの程度手を入れるかはケースバイケース。ただ古い建物を元通りに新しく復元するだけの仕事はしないように心掛け、必ず今の時代に合った空間設計や温熱環境の整備、耐震補強を施します。復元するだけでは、次の代に引き継いだ時に「古くて住みにくい」と、取り壊される可能性があるからです。

 「25年程前のある時、築150年程の家屋で、設計中に施主の息子さんが結婚されたんですが、お嫁さんとなる方も再生前の家をご覧になっていて、再生後竣工した家を見るなり『なんてモダンになったのかしら!』と大変喜ばれました」

 この言葉から、「古さこそモダンな家づくり」というテーマを着想。信州の農村風景に溶け込み、現代の機能性も備えることで古民家の資産価値を高めてきました。

 「これらの古民家の再生活動に対して2020年『第一回吉田桂二賞・入賞』という大変尊いありがたい賞をいただけたのは光栄であり、今後の励みとなりました」

 開発側にいる建築家こそが、環境や景観を守っていかなくてはならないと考える松下さん。飯田市の天然記念物に指定され、絶滅が心配されている「ギフチョウ」の保護活動にも長年従事しており、自身の素養の一つとなっていると話します。

 壊して建てる「スクラップ&ビルド」ではなく、自然と共生し、未来につながるサスティナブルな建築や、つくった建物の延命を探求しています。「生きた化石」と呼ばれ絶滅を免れてきたギフチョウのように長く社会貢献すべく、健康に留意し生涯現役を続けたいと話します。

(取材年月:2024年2月)

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専門家プロフィール

松下重雄

地域産材を使い健康的に暮らせるおしゃれな家を設計するプロ

松下重雄プロ

一級建築士

有限会社 みすゞ設計

17年間の東京での活動後、長野県で40年以上建築家として活動。その間対極の自然保護も進め、環境にも住む人にとってもやさしい家を設計。更に伝統とモダンを融合させ資産価値の高い古民家も多数手掛けています。

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