シルクのアートと被災地植樹で幸福を紡ぎ繋ぐプロ
小倉美奈子
Mybestpro Interview
シルクのアートと被災地植樹で幸福を紡ぎ繋ぐプロ
小倉美奈子
#chapter1
「繊細な表現力を備えたシルクの可能性を広げるため、多彩な作品をお届けして皆さまの心を癒やし、セミナーなどを通じて地域や産業の活性化に貢献したいですね」と語るのは、「アートシルク協会」代表の小倉美奈子さん。故郷・福島県伊達市の特産である真綿を用いた手芸の講習会を開いています。
「真綿は、繭を煮てやわらかくしたものを手で引き伸ばし、乾かして綿状にした自然素材です。絹特有の光沢に加え、保温性や吸放湿性があり、かつては寝具や衣類の材料として重宝されました。当方は真綿を染色し、ちぎって粘着シートに少しずつ貼り重ね、人物や風景を描く技法を手ほどきしています」
綿の厚みを生かして奥行きを表し、写実的で温かみのある質感を醸し出すのが特長。「絹の貼り絵」として実用新案も取得しました。
「特別な技術は必要ありません。針を使わないのでお子さんや高齢の方、手に障害のある方も制作できます。色の配置を誤っても簡単に修正でき、思いがけない味わいが生まれることもあります。肩の力を抜いて楽しんでほしいですね」
講師も育成して全国に派遣。高齢者施設や学童クラブ、親子向けのイベントなど多様な場で出張指導し、これまでに延べ1万3000人以上が体験しました。
小倉さん自身も創作を続けており、特に好評なのがペットの肖像画です。
「飼い主さんからお預かりした写真をもとに作る絵は立体的で、ふわふわとした肌ざわりが、まるで本物のペットをなでているようだと喜ばれます。額やフォトスタンドにお入れしますので、愛犬や愛猫の愛らしい姿をお部屋に飾ってもらえます」
#chapter2
以前は、川崎市内の病院でレクリエーションワーカーとして勤務していた小倉さん。病気で手にまひが生じた人もデコレーションできるよう、下絵に沿って「メタリックヤーン」という光沢のある糸を両面テープで貼る手法を考案し、実用新案を取得しました。
2011年の東日本大震災を機に、「生まれ育った福島の力になりたい」と退職。“心のよりどころ”にしてもらおうと仮設住宅などで手芸を教えるように。ふるさとの人と触れ合う中で伊達地方に伝わる真綿に目を向け、アートとして仕上げる技法を確立しました。
「川崎の自宅から月に1~2回、各1週間ほど福島県の飯舘村や伊達市、いわき市、相馬市をはじめ、宮城県や岩手県内の被災地に通いました。自宅にいる間は、東京や埼玉、川崎市内の避難者施設を訪れていました」
悲しみに寄り添いたいという思いは次第に強まり、手芸指導の枠を超えた活動へ。真綿と毛糸の貼り絵を使ってランタンを制作・点灯するプロジェクトは2016年と17年に復興庁「心の復興事業」に採択され、全国各地で開催。やさしいともし火が人々の感動を呼びました。また、地震で甚大な被害を受けた熊本・南阿蘇や新潟・糸魚川、シリアにランタンを寄付しました。
「印象に残っているのは、被災したお子さんが自作のランタンをお守りのように大切にしていた姿や、亡くなった方の新盆飾りにランタンが供えられていたことです。皆さまに、少しでも安らぎをもたらすことができたのなら本望です」
#chapter3
被災地支援に加え、子どもたちの文化活動や平和を願う活動にも力を入れる小倉さん。20色に染めた真綿と糸で、地域の景観や名産を描く「絵地図」づくりを進めています。2015年には文化庁の「子供文化育成事業」に選ばれ、伊達市内の小学校では児童とともに1.5m×1mの大作を制作し、校内に展示しました。
「みんなで和気あいあいと協力して作業する過程で親睦を深め、完成品も非常に見応えがあり達成感を分かち合いました。現在は京都に拠点を移し、京都の街のほか、戦禍に苦しむ姉妹都市のウクライナ・キーウをテーマにした絵地図を制作し、京都国際交流センターでお披露目しました」
さらに農林水産省の関連団体と連携。発光性を持つ新しいシルク素材の開発も推進しています。
「カイコを飼育して繭を生産する養蚕は衰退しつつありますが、守り継ぐべき貴重な伝統産業です。先端技術を融合させ、夜間に光って歩行者の存在を知らせるスカーフやランドセルカバーなどを構想しています。縫合糸として絹糸を用いる医療分野とも連携し、革新的な製品を世界に発信することで、日本の養蚕の発展につなげたいと思います」
今後は、シルク製品を扱うショップを兼ねた手芸教室の展開や、オンラインによる講師の通信教育にも注力する考えです。
「指先を使うアートシルクは介護や福祉の現場でも役立ちますし、副業として講師業や創作に取り組むこともできます。多くの方にシルクの魅力と手づくりの楽しさを感じていただけたらうれしいですね」
(取材年月:2025年10月)
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Profile
シルクのアートと被災地植樹で幸福を紡ぎ繋ぐプロ
小倉美奈子プロ
アートシルク講師
一般社団法人アートシルク協会
*独自性:絹と糸の貼り絵をAIで進化させ着物やペットの新アートを開拓*継続性:伝統養蚕の天蚕と特許光る蚕が共有する絹の道の植樹文化交流*多様性:多世代に好評の講習を身近で学べる教室店舗住宅運営
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