実務と人間関係の構築の両面から組織を守る労務管理のプロ
山口正起
Mybestpro Interview
実務と人間関係の構築の両面から組織を守る労務管理のプロ
山口正起
#chapter1
「もっと早く相談すればよかった」。労務トラブルに直面した経営者の多くはこう振り返ります。問題が長期化すれば、企業の信頼にも影響を及ぼしかねません。社員と真摯に向き合い、良い会社にしたいという思いはあっても、法律への理解が十分でないために、対応に苦慮するケースは少なくありません。
2008年から熊本市の「山口逸男社会保険労務士事務所」で企業の労務相談に応じる山口正起さんは、さまざまな案件に携わってきました。例えば、ある経営者は、労働基準法で定められた労働時間を超えた場合に割増賃金の支払いが必要であることを十分に理解しておらず、従業員から未払い賃金の請求を受けました。
「経営者は『月給を十分に払っているし、待ち時間や休憩時間も多い。実労働時間は5~6時間のはずだ』と考えていました。しかし、タイムカードには、法定労働時間を超える1日10時間の勤務が記録されていたのです」
他に労働時間を裏付ける資料がなかったため、山口さんは、他の従業員の平均労働時間や日報を基に実態を検証。経験年数から推測できる業務量を踏まえ、双方が納得できる労働時間を導き出しました。一定の未払い賃金を支払うことで事態を収拾させ、勤怠管理ツールの導入を提案。再発防止の仕組みづくりにも取り組みました。
「トラブルの芽は採用時の面接から始まっています。労働条件の明示は大前提ですが、一緒に働ける人材かを見極める経営者の感覚も重要です。自ら選んだのであれば、問題が起きても責任を持って向き合える覚悟が生まれます。その姿勢が結果としてトラブルの予防につながります」
#chapter2
近年、相談が急増しているのがハラスメントに関する問題です。
「かつては教育の一環とみなされていた厳しい指導も、現在では受け止められ方が変わっています。ネット検索で同業他社の労働環境が分かり、自分が置かれた状況と比較できるからです。その指導を「きつい」と感じるかどうかは、その人の職務経験や価値観などにもよります。だからこそ、上司と部下の関係性が重要になります。何でも率直に言い合える環境があれば、その場で解決できる場合もあります」
山口さんは、相手の長所を認め合うコミュニケーション手法にも関心を寄せています。研修などに取り入れてもらえれば、相手の考え方や感じ方の違いを可視化することができ、トラブルの火種となる認識のずれの解消につなげられるのではないかといいます。
トラブルが発生した場合には、事実確認を公平に進めるためのシナリオを提示しますが、面談への同席は行いません。ハラスメントは当事者同士のデリケートな問題であり、外部の人間が介入するよりも、会社が主体的に事実を確認し、誠実に向き合った方が社員の納得感を生むと考えているためです。
さらに、経営者が当事者と面談する際のロールプレイングにも対応。感情的な言動や不用意な発言による事態の悪化を防ぐため、事前に対話のシミュレーションを重ねます。
「経営上の数字や勤怠データからは、社内の空気や社員の本音は見えてきません。『急に目を合わせなくなった』『人間関係にぎくしゃくした様子がある』といった小さな変化に気づいた際には、早めに対応することが重要です」
#chapter3
さまざまな価値観が存在する今、良かれと思って掛けた言葉が、ハラスメントになっていないかと不安に思う経営者もいます。面談を重ね、注意すべきポイントを具体的に伝えています。
その上で重視するのが経営者としてのあり方です。相手への敬意を払い、最後まで話を聴いて言葉を選ぶこと、自らの思いを社員に伝えることの重要性も強調します。実際に経営者が創業の思いを共有したことで、社員の共感が生まれ、職場の雰囲気が改善した事例もあります。その経営者は孤独感を抱えながら経営に向き合っていましたが、思いを伝えたことで関係性に変化が生まれたといいます。
「これはハラスメント問題に限った話ではありません。経営者も従業員の前に一人の人間として立つこと。その瞬間から本当の意味での関係性づくりが始まります。信頼の土台があれば、どんな課題に直面しても共に乗り越えていけるはずです」
この言葉には、労務管理とはルールで縛ることではなく、経営者と従業員の認識のずれをなくし、共に歩むためのものだという山口さんの見解が表れています。その判断のよりどころとなるのが法律です。
「経営者である以上、法律に基づいて判断し、行動しなければなりません。『知らなかった』では済まされません。少しでも不安なことや心配なことがあれば、早めにご相談ください。状況に応じて対応を一緒に考えていきます」
(取材年月:2026年4月)
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実務と人間関係の構築の両面から組織を守る労務管理のプロ
山口正起プロ
社会保険労務士
山口逸男社会保険労務士事務所
長年の知見に基づき、実務対応と人間関係の構築の両面からアドバイス。従業員との面談に備えたロールプレイングも行い、経営者の孤独や不安に寄り添いながら課題解決を支援します。
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