未来に残す家族写真を撮影するプロ
井田裕基
Mybestpro Interview
未来に残す家族写真を撮影するプロ
井田裕基
#chapter1
「ご家族の思い出の場所で、大切な人や物をワンシーンに収め、未来に残すお手伝いをいたします」
そう話すのは、岩手県宮古市を拠点に活動する「井田裕基写真事務所」代表の井田裕基さん。企業や行政からオファーを受け、イベントや商品、ポスターや雑誌の撮影を請け負うほか、東北6県を対象に、出張写真館のサービスを展開しています。
「写真は、それがどこで撮られたのか、誰と一緒に写っているのかによって、その方にとっての意味や価値が変わってくると思うんです。当方では、ご自宅をはじめ、お宮参りの神社や普段散歩に行く公園など、ご希望の場所に赴き撮影いたします」
いまを切り取る写真は、現在の暮らしや気持ちを目に見える形で表してくれるもの。10年、20年と月日が流れるほどに、重みや深みが増していきます。
「お父さんがお仕事で使う道具を手に持ったり、お子さんが目指している職業の格好をしたり。アイデアを出し合いながら、ご家族ならではの1枚を一緒につくっていきたい」と井田さん。Zoomなどのビデオツールによる打ち合わせを、入念に行っているのも特長です。
「事前にお話を伺い、誰と、どこで、何を手にどんなポーズをとるのか、お客さまとともにイメージを膨らませていきます。当日も、『撮る・撮られる』という一方通行の関係ではなく、コミュニケーションを重ねながら、撮影そのものが記念日となり、記憶として心に残り、人生の1ページになるよう努めます」
#chapter2
岩手県を中心に、東北40カ所を取材で撮影して回ったことをきっかけに、井田さんは2012年に宮古市へ。独立する前に勤めていた市内の写真館で経験したことが、現在の出張サービスの原点になっていると言います。
「当時、僕は遺影写真の作成を担当していました。遺影は突然必要になる場合も多く、用意が難しい場合は、運転免許証から作ることがあります。しかし、免許証の写真はサイズが小さいため、引き伸ばすと画質が落ちる上、お顔もどこか険しくて。遺影はご親族が故人をしのぶものであり、旅立つ方も後々まで自分の姿を伝えていく大事な肖像になりますから。その方らしい写真を撮りたいと考えるようになり、自然な表情を見せてくださる家族写真へとつながりました」
挙式、披露宴や七五三といった記念写真の依頼にも応じる井田さんは、撮影時に心掛けていることがあるそうです。
「主役の方の周りで起こっていることにも、意識を向けるようにしています。例えば結婚式では、お孫さんの華やかな花嫁姿を前に、おじいちゃんやおばあちゃんが本当に幸せそうな笑顔を浮かべていたり、うれし涙を流していたりします。その一瞬、一瞬を逃さないよう、常に全体に目を配るようにしていますね」
井田さんにとって撮影の醍醐味は、カメラがなければ出会えなかったシチュエーションを丸ごと体感できること。冷静な視点を持ちつつも、黒子として現場と一体になり、「その場の空気を全身で感じられることが楽しい」と笑みを浮かべます。
#chapter3
昔から人に興味があり、人の話を聞くことが好きだったという井田さん。大学在学中に中国に留学した際は、少数民族の村で現地の人と交流しながら、何気ない日常にシャッターを切りました。宮古市に移住後は三陸沿岸の郷土芸能にひかれ、無形民俗文化財である「黒森神楽」の様子をカメラで捉えてきました。
「じっくりと時間をかけて、東北の文化と人々の生活に密着した写真集を作ることも視野に入れています。みなさんの言葉に耳を傾けながら、五感を働かせて思いを巡らせることは、僕にとって生きる喜びであり、心地よい感覚なんです」
写真だけでなく、観光用のPR映像や保存記録用のアーカイブ映像も手掛ける井田さんは、制作スキルを生かし、「何かしらの方法で中国とも関わりを持っていきたい」と展望を描きます。井田さんにとって中国は、学生時代を過ごした思い入れのある場所であり、宮古市に腰を下ろした後も、友好都市の中国煙台市を市長が訪問する際にカメラマンとして同行するなど、縁の深い場所です。
家族写真も、郷土芸能や中国での撮影も、個々が歩んできた道のりや日々の暮らし、歴史、背景に寄り添い、かけがえのない瞬間に立ち会わせてもらう貴重なひとときだと語ります。
「撮るのは一瞬ですが、それまでにどれだけ撮影させていただく方のことを考え、どれほどの時間を共に過ごしたかによって、画がまとう雰囲気や心に訴えかけてくる情感が変わります。それぞれのストーリーを丁寧に紡ぎ出す活動を、これからも続けていきたいですね」
(取材年月:2022年12月)
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Profile
未来に残す家族写真を撮影するプロ
井田裕基プロ
写真家
井田裕基写真事務所
依頼主にとって思い入れのある場所まで出張し、大切な人や物と一緒に、未来に残す家族写真を撮影する。撮影前の打ち合わせや撮影時は、家族とのコミュニケーションを丁寧にとり、「一緒につくる」ことを大切にする。
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