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楽しい、心地よい身体運動を通じて、子どもの心身の発達を促す

テニスを通じて子どもの心身発達を支援するプロ

吉田洋一

吉田洋一 よしだよういち
吉田洋一 よしだよういち

#chapter1

テニスを素手で楽しむことから始め、運動能力の基礎づくりをサポート

 世界中で幅広い年齢層に親しまれているテニス。中世ヨーロッパで発祥した、ラケット状の道具でボール打ち合う「ジュドポーム」という球技が原型だとか。
 「ラケットもなかった時代は、布で包んだボールを素手で打ち合っていたようです。私のクラブでも、当時のようにテニスの楽しさを思うままに味わってほしいですね」。そう話すのは岩手県にある「JSTC」代表の吉田洋一さん。「JSTC(ジュドポーム シンセシス テニス クラブ)」は、「ジュドポームに現在のテニスを統合する」という意味です。

 市役所の職員として障がい福祉に携わり、児童相談所にも務めた吉田さん。20代の頃からテニスを教えてきた実績をもとに、退職後の2020年8月、テニスを通じて子どもの心身の発達を支援する同クラブを設立しました。

 「昔は外遊びで運動能力の基礎が作られていたけど、今はゲームなどが充実して室内遊びが中心になりました。体力の低下だけでなく、心の成長にも影響があるのではないかと心配しています」

 運動によって脳が刺激され、ドーパミンなどの神経伝達物質が分泌されることで意欲が高まると言われています。吉田さんはテクニックを優先するのではなく、まずは素手で軟らかいボールを打ち返すことからスタート。子どもはわが身がどのように動くのか理解できると、ラケットも体の一部と捉えてられるそう。吉田さんは全身を使ってボール投げるという“身体を動かす感覚”を顕在化する指導法を見出したといいます。

 「『好きにやっていいよ』というと、みんな目を輝かせます。ここでは、ハードな練習や型を教えるのではなく、心地よい身体運動を体験することで子どもたちの心と体を育みます」

#chapter2

スポーツの勝利至上主義に疑問、自律性を育む指導に転換

 吉田さんのレッスンの特徴は、ラケットの持ち方やフォームなど型にはめず、また勝敗を意識させないところ。

 「日々、厳しいトレーニングを積んでいる選手やコーチが、『勝ちたい』を願うのは当然です。私もテニスプレーヤーだったので、その気持ちは痛いほど分かります」。以前は県内小学生の監督を務め、教え子を全国大会へと導いたこともあります。

 「対戦相手は同じ小学生なのに、ベンチコーチがついていませんでした。何をどうすべきかすべて自分で考え、実践に移していたんです。休憩時間には他県の選手とおしゃべりしていて、大舞台なのに『とても落ち着いていているな』と感心しましたね」。主体性にあふれ、縦横無尽にコートを駆け回る姿がとても新鮮だったと言います。

 「相手の子は勝ち負けよりも、自分の考えでプレーしているのに、私は『ああだ、こうだ』と、指示しているだけなのではないか。子どもには誰しも潜在的な能力があるのに、『勝ち負け』や『できる、できない』で判断すると、十分に本領が発揮できなくなる。勝敗ではなく、まず本人の意思で行動できることが必要ではないかと思ったんです」と吉田さん。

 ティーチング(教えること)ではなく、主体性を助長するコーチングが重要。子どもたちが自身でプレーする喜びを知れば積極性が生まれ、自ら判断して行動するようになると、気づいたそうです。

吉田洋一 よしだよういち

#chapter3

自己肯定感を育てるために、自ら子どもが取り組む姿勢を尊重することが大事

 吉田さんは、「Jr-Open」も主催しています。これは、子どもたちが自己決定と自己責任で事を成す取り組み。また、人と関わることが苦手な子がテニス仲間と触れ合う中でコミュニケーションを学んだり、レギュラーになれない子が試合経験を積んでモチベーションアップにつなげる目的で、早朝から夕方までおのおのがプレーを楽しんでいます。

 「結果を重視するものではありません。子どもたちが、自分自身の課題を解決する手段として毎月開いています。子どもが主役で、ベンチコーチなど大人のサポートを借りずに自分の力でどこまでできるか、いわば日頃の活動の成果を自身で確認する場です。新たな目標を設定し、達成に向けて試行錯誤することで、社会を生きていく上で最も大切な力を養うことができます」と吉田さん。同クラブのホームページには、大会の概要、次回開催の案内も掲載しているので、興味がある人はぜひチェックしてほしいと言います。

 「実はスポーツを運動に変換したいんです。それも楽しい、心地よい運動に。そんな運動を通じて『自分の体っていいな、私って素晴らしい』と自己肯定感を高めてほしいですね。自分の価値を認めるには、子ども自ら『分かる』『できる』を感じて、物事に率先して取り組む姿勢を、私たち大人が尊重してあげなければなりません。優劣を競わないというのは団体スポーツでは難しいかもしれないけど、個人スポーツの指導者の中には、共感してくれる方もいるのではないでしょうか」

 今後は、スポーツや運動の種類や県内外を問わず、子どもたちの可能性を引き出すサポートの輪を広げていきたいと熱意を語りました。

(取材年月:2022年3月)

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専門家プロフィール

吉田洋一

テニスを通じて子どもの心身発達を支援するプロ

吉田洋一プロ

心身発達の心理士

一般社団法人JSTC

子どもがテニスを通じて、身体の動かし方や潜在的な能力を引き出し、運動の基礎づくりをサポート。さらに子どもが主体的に取り組む大会を企画開催し、その中で対話的な深い学びを習得し、自律性を高める指導を行う。

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