老舗の食品加工技術で新商品をブランディングするプロ
箱﨑陽介
Mybestpro Interview
老舗の食品加工技術で新商品をブランディングするプロ
箱﨑陽介
#chapter1
箱﨑陽介さんは、「6次産業化」のプロ。生産者(1次産業者)が、加工(2次産業)と、流通・販売(3次産業)までも行い、経営の多角化を図る、最近知られるようになったビジネスのスタイル。「6次産業化」の語源は、この1次、2次、3次のそれぞれの数字を掛け算することによる。この名称通り、箱﨑さんは、長い歴史で培った食品加工の技術と、生産者作り上げた農作物を、何倍もの価値ある商品に生まれかえるプロである。
1885年創業のハコショウ食品工業は、もともと食品の製造と販売を手掛ける会社であった。それが、「6次産業化」へ大きく舵をきいたのは、現在の代表取締役である箱﨑陽介さんが実家の家業を継いだことがきっかけとなっている。
箱﨑さんは、高校卒業後地元を離れ、東京の大学へ進学。卒業後、岩手県に戻ってきたが、地方銀行で働いていた。
「私としては、銀行の仕事が好きだったんです。営業、融資を経験して、仕事の面白さもようやくわかってきた頃、実家に戻り家業の食品加工会社へ転職することになりました」
食品加工の現場に入ってみると、銀行員時代にはわからなかったモノが見えてきた。「銀行では、数字だけの稟議書を書くことが多かったですが、事業者の現場ではそこに見えないことがあり、大きなギャップを感じました。数字だけでは計りきれないものが沢山あるんだなぁとあらためて感じました。実務を経験した今、銀行員に戻ったら、良い融資担当者になれたんじゃないかと思います」
箱崎さんは、まったく畑違いの業種ではあったが、銀行員の経験が、現在の経営に活かされていると話す。「家業に携わって気になったことは、材料の農作物を遠く離れた県外から仕入れることが少なくなかったことです。近くに農家さんが沢山いるのに、なぜだろうと感じました」。その後、箱崎さんは、新しい食品加工物の商品開発を行う過程で、地元の人たちから「近くでこんなものを作っているよ」と教わるようになった。そこで、箱崎さんは、身近にいる農家の力を借りて、もっと活かせないか?と考えるようになった。
故郷の魅力が見えてきた箱崎さんは、自分の足元に埋まっていた「宝物」に新たな息吹を吹き込むようになった。ハコショウ食品工業は、大きく変わり始めた。
#chapter2
思い立ったら、即行動。箱崎さんは、家業を継いでまもなく、東北大学の「地域イノベーションプロデューサー塾」に通い始めた。すると、食品加工ビジネスの可能性に目覚め、地域資源を生かした新商品開発の面白さに取りつかれるようになった。そんな折、岩手県から6次産業化研修受け入れの依頼が寄せられた。これを機に、新しいビジネスへ踏み出すことを願う農家たちが、ハコショウ食品工業へ、集まるようになった。「行動」「知識吸収」「交流」が相互に噛み合い、商品に新たなアイディアを吹き込む仲間が増えていった。
その成果の一つが、「呑んべえ漬」である。お酒好きの先代社長が考案した「呑んべえ漬」は、ぱりぱりとした甘辛いきゅうりと、見た目には想像できないほど激辛が絶妙で、酒好きの人がやみつきになると評判の漬物である。1980年頃発売され、根強いファンがいながらも、売上が伸び悩んでいた。そこで、箱崎さんは、商品の見直しに着手した。「呑んべえ漬は、商品の特徴が際立っており、味に対しても高い評価を得ています。そこで自分たちの商品をもう一度深掘りしたところ、ブランディングができていなかったことに気づいたのです」
大学の講座に通っていた箱崎さんは、ブランディングの重要性、デザイン思考について、学んでいました。「ここ花巻市は、南部杜氏の里でもあり、お酒の文化が色濃く残っている地域です。そこで、花巻ならではのお酒に合う漬物という位置付けを明確にしました。パッケージデザインは、呑んべえの手土産風のデザインへ変更し、『旨き酒 生まれる処に 旨き肴あり』というヒトコトを入れました」。商品の特徴が際立つようになった「呑んべえ漬」は、「平成27年度いわて特産品コンクール希望郷いわて国体お土産品部門」で最高賞を獲得するなど、ひときわ注目を集める存在になりました。他にも、「みそ屋の甘辛大根」は、東北各地から集まった漬物たちで競われる「T―1グランプリ東北ブロック大会」で最高金賞を受賞。次々に結果を残すようになった。
「長年販売してきた商品をもう一度見つめ直し、新しいアイディアを組み合わせることで商品の魅力が増していく」。そして、箱崎さんの挑戦欲は、ますます高まるばかりである。
#chapter3
6次産業化が次々形になっていき、箱崎さんは「地域再生に向けた取り組みのプロ」という一面も加わってきた。
「花巻で栽培された食材がうちに集まり、それを加工し、魅力溢れる商品にブランディングする。地域の生産物が集まり、特産品が産まれるプラットフォームのような存在になるのが理想です」。箱崎さんは、新たな価値が吹き込まれた製品をもっと作り出していきたいと考えている。
箱崎さんのアイデアの源泉は、ふるさと花巻への思いである。田舎に見切りをつけた人たちが県外へ出て行ってしまい、過疎化・高齢化が進む現状がある。そこで、「儲かる産業」を生み出すことで、歯止めをかけたいと、箱崎さんは言葉に力を込める。
「一緒に取り組む仲間たち、出会った地域の人たちを豊かにしたいと、心底思っています。魅力ある商品が生み出されれば、仕事が増えて、雇用機会も増える。そうすれば、この地域に残りたいという人も増えるでしょう」。箱崎さんは、新しい価値を生むものを作り出して、どんどん社会に還元できる仕組みになることを願っている。そして、販売エリアは、日本全国にとどまらず、海外にも目を向けている。そのために、韓国で開催される商談会にも自ら参加し、先頭に立って、販売チャネルを広げている。
また、箱崎さんは、花巻市の温泉宿が連合して取り組む「はなまき朝ごはんプロジェクト」にも参加している。旅館と農家が一緒になって花巻の魅力を発信する取り組みである。その一つが「てるけんのまるごとパプリカ」である。花巻市内の生産者が育てたパプリカの中に、花巻産のミニトマトを入れた商品で、ピクルスに仕上げている。地域の恵みと、老舗の味を驚きと共に味わえる商品であり、ここにハコショウ食品工業の加工技術が生かされているのだ。
新しい取り組みによって、アイディアが閃き、ビジネスの可能性が広がる。その魅力に引き込まれ、箱﨑さんは、走り続ける。農業に対する思い、栽培方法のこだわり、生産物をどのように生かしてほしいか?様々な悩みを抱える生産者の方々にとって、箱崎さんは、頼りになる存在だ」
(取材年月:2019年9月)
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Profile
老舗の食品加工技術で新商品をブランディングするプロ
箱﨑陽介プロ
漬物・醤油・味噌製造販売
ハコショウ食品工業株式会社
創業130年を超えるハコショウ食品工業は、漬物加工と味噌・醤油醸造のプロ。地域の資源である農作物を、独自の加工技術を生かし新商品へ生まれかえるアイデアが豊富。
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