大切な愛車を工夫で美しく仕上げる洗車・コーティングのプロ津久井勝也

大切な愛車を工夫で美しく仕上げる洗車・コーティングのプロ

津久井勝也

左腕一本に魂を込めて1台1台丁寧に磨き上げ、個人やディーラーから受託

　「リーズナブルな価格で、仕上がりは丁寧に」をモットーに、オーナーの大切な愛車をケアするのは、広島県福山市の「CARクリーニング『まごころ』」の代表、津久井勝也さん。手業による洗車とコーティングで、ツヤと輝きのあるボディーをかなえています。

　「こだわりの高級輸入車やアウトドア志向の四輪駆動車、普段使いのファミリーカー、現場用の軽トラックなど、車種も仕様もさまざまな車を手掛けています。お客さまの中には遠方からお越しくださる方もいて、当方を頼りにしてくださるのはありがたい限りです」

　津久井さんは交通事故により右腕が自由に動かせませんが、左腕1本に魂を込め、1台1台を丹念に手入れしています。「1人でやっていますし、台数をこなすことは考えていません。お客さまに満足していただきたいので、一手間二手間かけることを心掛けています」

　洗車であればエンジンルームやフロントグリル、ホイールの奥、給油口の内部など、細かい部分まで徹底して洗浄。「ここまできれいにしてくれるの？」と驚きの言葉をもらうことがうれしいと、満面の笑みを見せます。

　コーティングでは、長く美しい状態を保ちたい顧客のため、耐久性や防汚性などを十分に考慮したメニューを案内しています。「通常、磨くと保護膜がはがれてしまいますが、当方が採用している溶剤であれば、施工から1～2年後に洗車傷などを取るために研磨してもはがれません」と自信を見せます。

　コーティングは、個人だけでなく自動車ディーラーからも依頼があり、平均すると月に約25台も請け負っているそうです。

片腕が使えなくても周りに元気を与えられる人間になりたいと前進

　津久井さんが交通事故に遭ったのは高校生のとき。右腕は一生動かせないと告げられた際は動揺したそうですが、間もなく現実と向き合えるようになったと言います。

　「両親や友人、親身になって看護をして下さった看護師の方がいてくれたおかげです。この体で生きていくなら、周りに元気を与えられる人間になりたいと前を向くことができました」

　高校卒業後は身体障害者の職業訓練校に通い、機械設計について勉強。機械設備の設計会社やカーディーラーを経て、地元の大手鉄工会社で職人として働き始めます。最初こそ、簡単な作業しか担当できませんでしたが、真面目に励むことで次第に複雑かつ重要な仕事を任されるように。10年がたった頃には、最も難しい工程を担うまでに成長しました。

　「責任とともに体への負担は重くなりましが、やりがいはありましたね。ただ、もし自分が再起不能になったら家族はどうなるだろうと不安を抱くようになりました。自分の力で家族を養うことができ、人に喜んでもらえることは何か考え、たどり着いたのが趣味でもあった洗車です」

　津久井さんは友人や知人の愛車を定期的に洗浄してテクニックを養い、徐々に道具もそろえます。約9年間試行錯誤し、高い要望にも応えられるようになったところで転職を思い立ちます。

　「求人募集をしていた会社に電話をして施工を披露したところ、『これだけの情熱と道具を持っているのだから自分でやりなさい』と社長さんにアドバイスをいただいたのです。自分自身の目指すべく目標と夢が見え、家族も背中を押してくれたお陰で、独立を決めました」

自分と同じようにハンディキャップのある人を応援していくことが目標

　津久井さんが新たな一歩を踏み出そうとしたタイミングは、情勢が不安定なコロナ禍。周囲からは「もう少し待つべきでは」という声もあったそうですが、「景気が戻った時すぐに対応できるよう、少しずつでも実務を重ねて準備しておきたい」と、2022年に開業を果たします。

　屋号の通り「まごころ」をもって取り組み、以前から付き合いのあった友人・知人を通じて評判が広まり、利用者が増えていきました。「2024年6月からコーティングをしたお客さまに向けて、1カ月後に無料で洗車するサービスを始めました。車は相棒として長く使うものですし、一度施工したら『それでおしまい』にはしたくないと、ずっと思っていました。なかなか時間を確保できませんでしたが、ようやく段取りを付けられました」

　津久井さんは、日頃のメンテナンスで気になることや心配な点を聞き取り、アフターフォローに反映。足を運んでくれる顧客への感謝を忘れず、「心技一体」で車の美観を高め、豊かなカーライフを支えていきたいと語ります。

　今後は、自分と同じようにハンディキャップがある人を応援することも目標に掲げ、ガレージを拡張して迎え入れたいと考えています。「頑張りたくても頑張れる環境に恵まれない方へ、私の元で明るい未来が見せてあげたいのです。私と同じ作業はできないかもしれませんが、例えば施工の様子を動画で撮影してもらうとか、お願いしたい仕事はたくさんあります。バリアフリーの快適な職場で仲間を増やしていきたいですね」

（取材年月：2024年7月）

手仕事による洗車とコーティングで愛車の美観を高め、豊かなカーライフをサポート

左腕一本に魂を込めて1台1台丁寧に磨き上げ、個人やディーラーから受託

片腕が使えなくても周りに元気を与えられる人間になりたいと前進

自分と同じようにハンディキャップのある人を応援していくことが目標

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