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低コスト、省エネ、メンテナンスも容易なブレーキ機構を開発。日本の“ものづくり”に再び勢いを

摩擦に頼らない革新的なブレーキ機構を生み出したプロ

島田利晃

島田利晃 しまだとしあき

#chapter1

摩擦の力を用いるのではなく、偏芯軸機構で動きを止める「万能セルフロック機構」を開発

 自動車産業を中心に、溶接や制御装置の分野で革新的な製品を生み出している「アイエス」の代表・島田利晃さん。1986年、加圧式電動チップドレッサーを開発しました。

 「金属を溶かす際に使われる電極の先端部分を修正するための装置で、すり減って形が崩れたら切削や研磨を行い、溶接性を回復させます。かつては手作業でしたが、現在では業界におけるグローバルスタンダードになっています」

 同社の最新のアイデアは「“ブレーキ革命”を起こすだろう」と期待を寄せる「万能セルフロック機構」。従来のように摩擦を用いる仕組みとは異なり、力学的機構を巧みに利用して物体の動きを止めるものです。

 「これまでの油圧式や空気圧式のブレーキは摩耗したパッキンの交換などが不可欠で、コスト増や見落としによる事故につながっていました。一方で『万能セルフロック機構』は力学的な構造により、素材の強度までロック可能で、通常はメンテナンスも不要です。事故の原因となるものを極力排除したシンプルなメカニズムです。当社のホームページに法政大学機械工学科による機構解説動画を載せているので、ぜひご覧ください」

 「メンテナンスも容易で低コスト」「電力不要でカーボンニュートラルに貢献」「多様なサイズに対応」「加速性能を保ちつつ減速比を調整可能」などが特長で、小型モーターとの相性も良好。島田さんは産業用ロボットアームに搭載するのが現実的だと話します。

 「実用化や量産化に向けて共に研究を進めてくれるパートナーも募集しています。本格的に浸透すればブレーキの概念そのものが変わると信じています」

#chapter2

父親の背中を追い電気工学を専攻。ブレーキの不具合による事故やコスト増を解消するのが使命

 島田さんは大学の電気工学科を卒業後、電気設備や制御装置の技術者としてキャリアをスタート。父親が同様の仕事に携わっていた影響もあり、物心ついた頃には電気学会の資料に目を通すなど、自然に興味が芽生えたと言います。

 「6年にわたる企業勤めを経て、当社の前身となる『システム・エンジニア』という会社を1972年に立ち上げました。地元広島の大手自動車メーカーや都市ガス会社を主要顧客に、チップドレッサーの他、エネルギーを機械的な動きに変換するアクチュエータも開発してきました」

 1988年に装置の販売会社として「アイエス」を設立し、2003年に両社を統合。「独自発想・自社開発」を掲げ、製造現場における操作性や安全性、作業効率の向上にまい進する中、「デメリットの多い油圧ブレーキは減らしていくべき」との記事を読み、共感して「万能セルフロック機構」の研究を始めました。

 実際に「油圧系のトラブルが原因」「ブレーキを踏んだが効かなかった」と報道されるトラックやバス、飛行機などの事故も多く、背景にある点検や整備の難しさも現在のブレーキの課題だと話します。

 「記事の内容が頭から離れず、試行錯誤を重ねてきました。当社では固定ギアを持たず、ベルトやチェーンでスムーズに自動車の速度を変えられる無段変速機も開発してきたため、ロック機構のアイデアが生まれた次第です。私も若くないので、この新しいメカニズムを次の世代にバトンタッチするためにも挑戦をやめるわけにはいきません」

#chapter3

気掛かりは日本の技術革新の進み具合。「万能セルフロック機構」を成功・普及させこの分野の手本に

 「万能セルフロック機構」は、開発を共に進める法政大学機械工学科からだけでなく、2023年のアメリカ機械学会(ASME)主催による「IDETC-CIE(設計工学技術・工学におけるコンピュータ国際会議)」でも好評を博したとのこと。

 「力学的な観点からすると新幹線や戦車の動きも短時間に止められます。電力も不要なのでインフラが未発達、あるいは不安定な地域でも普及できるでしょう。新しいアイデアで社会課題の解決を目指すのが私のモチベーションの原点であり、絵空事で終わらせるつもりはありません」

 島田さんが研究者として憂うのは、近年の日本人からチャレンジスピリットやハングリー精神が控えめになってきているのではないかということ。また意欲に満ちた若者たちが社会に出たとき、従来のやり方や価値観を大切にするあまり、新しい発想を十分に生かしきれない場面もあるように感じると言います。

 「私のアイデアを疑問に思う専門家もいるかもしれません。しかし、保守的な姿勢が技術革新の遅れを招き、少子高齢化が拍車をかけて国力が低下している気がします。果敢に挑むことを恐れず、日本が活力を取り戻すためにも私はプロジェクトを成功させ、次世代の“ものづくり”を担う方々や子どもたちの手本になれたらと思います」

 電磁ブレーキに代わる「万能セルフロック機構」は省エネルギーにも貢献。小型から大型まで対応し用途も多様。「大学、研究機関、メーカー、商社など、ぜひ皆さん一緒に“ブレーキ革命”を起こしましょう」と呼び掛けます。

(取材年月:2025年3月)

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専門家プロフィール

島田利晃

摩擦に頼らない革新的なブレーキ機構を生み出したプロ

島田利晃プロ

製造業

株式会社アイエス

圧接などの摩擦を使わず、偏芯円運動を応用した「万能セルフロック機構」でブレーキの仕組みを根本から変える機構を開発。チップドレッサーを生み出した発想力を柱に社会課題の解決を目指す。

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