掛軸という日本の伝統文化の技を伝えるプロ
富田圭介
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掛軸という日本の伝統文化の技を伝えるプロ
富田圭介
#chapter1
かつての日本家屋には、必ずと言ってよいほど、床の間がありました。床の間は和室の一角に作られた一段高くなった場所であり、慶弔の演出には欠かせないものでした。床の間の壁を飾る掛軸は日本の伝統工芸品として千数百年の歴史があり、ふだんは巻物として大切に箱に入れて保存され、必要に応じて「壁に掛けて拝する」という、一般的な絵画とは異なる独特の扱いをされてきたのです。
しかし、日本家屋の減少とともに床の間のある家も少なくなり、掛軸の必要性も薄れてきました。本巣郡北方町にある伝匠堂株式会社の富田圭介さんは「日本の伝統工芸品である掛軸を後世に伝えたい」と、12年間勤めた会社を辞めて4年前に独立。前職で培った自前のネットワークを生かし、最も需要の多い仏事の掛軸に特化した事業を全国に展開しています。
「伝匠堂」の一番の強みは掛軸の製造アトリエと提携し、1幅ずつ手作業で丁寧に仕立てた3枚裏の商品をお客様に提供できること。
掛軸は巻いたり伸ばしたりすることが多いだけに、すぐに破れてしまっては使い物になりません。そのため、軸の裏には和紙を使用する裏打ちと呼ばれる技法を施すのですが、「伝匠堂」では作品の完成までに3度、裏打ちをします。まず、掛軸の絵が描かれた本紙に和紙を裏打ち、さらに裂地などを貼る切り継ぎの工程が終わったものに中裏打ち、仮張りした後に耳折などの処理を行ってから3枚目の総裏の和紙を裏打ちし、掛軸の強度などを確かめます。見た目は機械仕立ての2枚裏と変わりませんが、3枚裏は温度や湿度の変化に強く、掛軸の持ちがまったく違います。
「掛軸はとてもデリケートなもの。裂地によって裏打ちに使用する和紙の番手(厚み)も異なるため、色柄共に細部に気を遣い、製造中も適度な湿度を保ちながら作業しています。また、掛軸をしまっておく桐の箱も、日本の気候風土に合ったものが良いので、国内加工したものを使っています」と、富田さんは伝匠堂のこだわりについて話してくれました。
#chapter2
富田さんのルーツは不破郡垂井町にあります。祖父母の富田稔さん・蔦子さん夫妻は日本画家で、山水画や花鳥・動物画など絵を描くことを生業としており、父の康和さんは揖斐川町谷汲にある掛軸の製造・卸会社に勤務。富田さんにとって、幼いころから日本画や掛軸は身近な存在でした。
富田さんも20歳で父の勤める会社に入社。最初の1年は社内のアトリエで掛軸の絵の製造補助、次の1年間は表具部門で掛軸の製造に携わった後、営業職へ。北は北海道から南は九州まで全国を回りました。
2013年に独立して「伝匠堂」を創業。当初はそれまで勤めていた会社の敷地内で営業していましたが、2016年に自宅のある本巣郡北方町に社屋を移転しました。
社名には、伝統的な匠の技を後世に伝えたいという富田さんの願いが込められています。
#chapter3
伝匠堂では掛軸の卸や小売りだけでなく、掛軸の修復も請け負っており、時には掛軸に描かれた書画の修復を依頼されることもあります。これまでに丈が12尺(約3.6m)もの涅槃図の修復を行いました。
これも富田さん自身の掛軸製造に関するネットワークがあったればこそ。また全国各地の様々な霊場とも取引があり、霊場向けにグッズなどの企画提案なども行っています。
「ネットの影響もあってか様々な価値観が氾濫している世の中ですが、日本の伝統文化にもっと目を向けてほしいですね。今の私達の生活があるのは先祖のおかげですから、先祖に対する感謝の気持ちを忘れてはいけないと思います。掛軸を掛け、仏事を勤めることで、仏教文化や思想をより身近なものとして感じて頂けると嬉しいですね。それに掛軸の文化がなくなれば、それを受け継いできた職人の伝統技術も途絶えてしまいます。匠の技を絶やさないためにも、自分がお客様と職人との懸け橋になれればと思います」という富田さん。増加する輸入住宅に対応するため、洋室にも合うインテリア用掛軸や仏事掛軸の試作も行っているそうです。
社屋の2階のオフィスには、「お客様の想いをしっかりと受け止め その想いを「匠(かたち)」にし お客様の心の支えとなり 感動を与えられる商品を提供致します」という経営理念とともに、社訓として感謝の文字がしっかりと刻まれていました。
(取材月日:2017年3月)
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Profile
掛軸という日本の伝統文化の技を伝えるプロ
富田圭介プロ
表具師
伝匠堂株式会社
お客様がどんな想いでどんな商品を作ってほしいのか、また、どんな思い出の物をどのように蘇らせてほしいのかを職人に直接伝えて製造する事でお客様の要望により近い商品を提供出来る。
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