手抜きしない・優しい料理で食卓に「おいしいね」を届けるプロ渡辺貴子

手抜きしない・優しい料理で食卓に「おいしいね」を届けるプロ

渡辺貴子

地元でとれる季節の食材を用い、「ごはんの種をまく日々」と題した料理教室を主宰

　「みんなで『おいしいね』と言いながら食卓を囲む光景を、私は『幸福の図』と呼んでいます。料理を通し、小さな幸せがある日常を広げていきたいなと思っています」

　そう語るのは、九州最大の一級河川として知られる筑後川に程近い一軒家で、料理教室を主宰する「フードアトリエ湖舟」の渡辺貴子さん。
　食という尊い営みをつないでいきたいとの意を込めて、「ごはんの種をまく日々」と題したレッスンを各生徒月1回のペースで開催。「からだによいものを家族に食べさせたい」「習ったことをわが家の献立に生かしたい」など、数多くの人が足を運びます。

　「私がお伝えするのは、『手抜きをしない料理』です。扱う食材は、地元でとれる季節のものが中心。お味噌など保存がきく発酵食品も紹介しています」

　春が訪れたある日は、旬の竹の子を使った煮物と玉ねぎこうじのスープ、だし唐揚げや豆腐のおやつなど7品を作ったそう。

　「素材そのものの風味を引き出し、大地の恵みや四季の移ろいを感じてもらうことを心掛けています。昨今は、何事にも効率性が重視されますが、『豊かな時間、豊かな生活、そして丁寧な暮らし』、そんな価値観を大切にしていきたいですね」と渡辺さん。

　オリジナル商品「想ふ種」もプロデュースし、地域の農産物を使ったジャム、ペーストなどをアトリエとネットで販売。地元メーカーともコラボレーションし、ぬか床と杉箱をセットにした「ぬか漬けキット」や、老舗の酢蔵で醸成された果実酢とドライフルーツを組み合わせた「フルーツビネガーキット」を開発しました。

20代後半で食の道へ、大病を患い健康のありがたみを実感したことからアトリエをオープン

　「子どもの頃から食に興味があって、スーパーに並ぶ商品を見比べて、原料などを調べるのが好きでしたね」と渡辺さん。

　大学卒業後、いったんは別の業界に就職しますが、20代後半で「本当に好きなことを仕事にしたい」と転身を決意。一念発起して沖縄に身を移し、縁あって郷土料理店を切り盛りすることになりました。
　「地元のオバアに教わって、ゴーヤーチャンプルーを作る毎日で。豚バラのブロックを2時間ゆでて作る伝統的な調理法で、本場の味を学びました」

　1年間の修業の後、さらに専門性を高めるため大阪の調理師専門学校に入学。懐石料理店の料理人を経て、調理師学校で講師として勤めていた時、転機が訪れます。
　「大腸がんが発覚したんです。母を亡くし、父を亡くした直後というタイミングでした。両親の死と自身の大病から、健康の有り難みを身をもって知りました」。からだの中に取り入れる食べ物についてもこだわりは増し、『まわりの人たちには、失う前に気づいてほしい』との思いで2014年、アトリエをオープンしました」

　以来、からだに優しいメニューを提案。時短ではなく、手間暇をかけ丹念に仕上げるため、一つ一つの工程が分かりやすいのが特長で、農薬や添加物についても触れ、知識を共有して食材選びまで提案しています。

　受講者からは、「料理の作り方だけじゃなく、私たちが口にするものについてきちんと教えてもらえる」「じっくり作る一品一品がとにかくおいしい」といった声が寄せられているそうです。

企業とのタイアップや古民家でのイベントやレッスン、脱プラにも尽力

　料理教室の運営やオリジナル商品の販売に加え、渡辺さんが力を入れているのが企業とのタイアップです。
　「果物の卸業者さんからお声を掛けていただき、ジャムのレシピを監修しました。九州の湧き水を展開する企業さんからは『率直な感想をCMで伝えてほしい』と依頼があり、撮影にお伺いしました。今後も各方面の方と協力して、食について情報を発信していきたいですね」

　他に、製糖メーカーと著名な料理人によるデモンストレーション企画に参加したことも。布小物を手作りしているショップには、エプロン制作についてアドバイスするなど活躍の場を広げる渡辺さん。友人が福岡県うきは市で再生した古民家では、2022年末からイベントもスタート。「暦おぜん」と名付けて、友人と共同主催で時節にちなんだ献立を振る舞っています。
　「12月はクリスマス編、3月は桃の節句編でお膳をご用意しました。古民家で眠っていた漆器に盛り付けており、和の趣ある空間で食事を楽しんでいただけます。また、うきは教室としてレッスンも開きますので、ぜひ足をお運びください」

　今後の展望として総菜店のオープンも視野に入れているそうです。
　「合成保存料や香料などを使わない、素材の持ち味を生かしたおかずやおやつを提供できたらいいなと考えています。さらにプラスチックごみを減らすために、ラップの代わりにさらしやガーゼを用いたり、保存容器として瓶を使用したり、『脱プラ』にも取り組んでいます。多くの方に共感していただき、生活習慣として浸透することを願っています」
　
（取材年月：2023年4月）

手抜きしない、からだに優しいメニューで「おいしいね」と食卓を囲む幸せな日常を提案

地元でとれる季節の食材を用い、「ごはんの種をまく日々」と題した料理教室を主宰

20代後半で食の道へ、大病を患い健康のありがたみを実感したことからアトリエをオープン

企業とのタイアップや古民家でのイベントやレッスン、脱プラにも尽力

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