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緩和ケアの専門医が伝える、「生きること」に向き合う大切さ

緩和ケアの経験を伝え「いのちの授業」に取り組む医師

高宮有介

高宮有介 たかみやゆうすけ
高宮有介 たかみやゆうすけ

#chapter1

30年以上の臨床経験をもとにした「いのちの授業」と「マインドフルネス」の講演で豊富な実績

 「『人の死亡率は?』と聞かれると戸惑いますが、人は誰もがいつか死を迎えます。死から生やいのちを考えてみると、人生は変わります」と話すのは、30年以上緩和ケアに携わってきた医師の高宮有介さん。

 緩和ケアとは、がん患者の身体的・精神的な苦痛を軽減する医療やケアのことです。高宮さんは、昭和大学医学部で医学教育学講座の客員教授を務めるとともに、現在も緩和ケアの臨床を担いながら、全国で講演活動を行っています。30年にわたり、2000回以上の講演実績があり、20万人以上の参加者数を誇ります。

 講演の軸である「いのちの授業」は、医療系の学生や医療者をはじめ、小中高校生や市民など幅広い層から高い評価を受け、クチコミで広がっています。
 「さまざまな看取りを経験する中で、患者さんが自分の死を意識しながら遺した言葉や行動に、人生の生き方を教わることが多くあります。私自身の心が震えた実際の経験を通して、〝限りある人生をどう生きるか〟を考えるきっかけを提供します」

 また、ニーズにあわせて「セルフケア・マインドフルネス」を取り入れることも。マインドフルネスとは、過去や未来の後悔や不安を横に置き、今この瞬間を〝ありのまま受け止める〟ことで心を整える方法です。介護や看護者向けのほか、企業での研修実績もあります。
 「瞑想体験などのワークを交えて、理解を深めます。もともと医療者のセルフケアとして学びましたが、日常生活や仕事に応用できます。いのちの授業とあわせることで、仕事の意味や自分の役割を再認識でき、社員のモチベーションアップやメンタルヘルスに有効です」

#chapter2

「心と身体の両方を支えたい」との志から、外科医から緩和ケアの専門医に

 「心と身体の両方を支えられる医師になりたい」。医学生時代の高宮さんが目指していた医師像は、小学生から続けていた剣道が原点にありました。
 「剣道を通して、心のあり方が体のパフォーマンスに影響するとの実感がありました。同じように、患者さんも心のケアを通して信頼関係を構築できれば、治療の結果や満足度は変わるのではないかと考えました」

 当時は国内で緩和ケアが一般的ではなく、外科医の道を選んだ高宮さん。多くのがん患者を担当し、看取りまで接したそう。
 「自分がメスを入れた患者さんは最期まで診る方針でしたが、終末期のケアに慣れておらず、思うように痛みを取り除けませんでした。そんなとき、イギリスのホスピスの事例を聞き、研修のため渡英。現地で目にした緩和ケアこそが、やりたかった心と身体のケアだと確信し、一生の仕事として取り組もうと決意しました」

 1992年に昭和大学病院で緩和ケアチームを立ち上げ、昭和大学横浜市北部病院の緩和ケア病棟の開設に関わりました。臨床現場で培った知見をもとに、2007年から医学部の学生や若手医療者の教育に従事。医療者の心のケアの重要性にも着目し、マインドフルネスやケアする人自身のケアのプログラム「GRACE」の知識を深めました。
 「GRACEは、アメリカの僧侶と看護師、医師が開発した、〝コンパッション(慈悲・思いやり)〟に基づいたプログラムです。意識の集中や、課題からの気持ちの切り替えなど5つのステップでケアを行うもので、『日本GRACE研究会』の代表として普及を進めています」

高宮有介 たかみやゆうすけ

#chapter3

「生きること」に前向きになれるメッセージを世界に届けたい

 高宮さんは大学を定年退職後、講演活動を本格化させました。YouTubeチャンネル「Dr.ゆうすけ 人生のトリセツ~みんなの幸せケア」でも思いを発信しています。
 「患者さんの言葉には心を揺さぶるパワーがあるので、私が伝えることで人生のお役に立てたらと考えています。最近、カナダのモントリオールでも英語で〝いのちの授業〟を行いました。世界共通のテーマとして広めたいですね」

 講演で紹介するエピソードの一つに、脳の悪性腫瘍を患ったある高校生が日記に残した言葉があります。
 「『生きる意味とは。大事なのは、今、何ができるかということではないか。(中略)一日一日を精一杯生きるという生き方に巡り合えたこと』。高校3年生だった彼は、大学を目指して勉強を続けていましたが、症状が悪化して受験はかないませんでした。健康であれば漠然と日々を過ごしてしまいがちですが、自分も限られた時間を生きていると気付かせてくれます」。数々のエピソードに、参加者から「涙が止まらなかったが、温かい気持ちになった」「自分が生きているのは奇跡だと感じた」などの声が寄せられています。死という辛いテーマではありますが、笑いのユーモアを散りばめ、希望に繋げる講演になっているそう。

 「〝死〟について考えることは、〝どう生きるか〟を考えること。生きている意味や役割、自分の可能性を見いだせ、その先の人生の指針にもなります。〝死〟と向き合うのは苦しく、できれば遠ざけたいことです。だからこそ、生きることに前向きになれるようなメッセージを届けます」

(取材年月:2024年1月)

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専門家プロフィール

高宮有介

緩和ケアの経験を伝え「いのちの授業」に取り組む医師

高宮有介プロ

医師

昭和大学医学部 医学教育学講座

緩和ケアに30年以上携わってきた医師として、「死から生やいのちを考える」をテーマに、講演を行っています。学校や医療機関などで2000回以上の登壇実績。心を整える「マインドフルネス」を取り入れた研修も。

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