糸の開発も含めて快適性や機能性の高いニット製品を作る専門家重文字貴

糸の開発も含めて快適性や機能性の高いニット製品を作る専門家

重文字貴

受託製造のOEMや糸の開発・開拓、パートナー企業との生産事業に注力

　「VERYTEX」の代表としてニット製品を専門に扱う重文字貴さん。スポーツやアパレルのブランドが展開するセーターのOEM（顧客商品の受託製造）、その素材となる糸の開発・開拓や販売、中国のパートナー企業との生産活動などが主な事業です。

　「日本各地の個性的な糸を見つけて海外の展示会で紹介したり、中国の提携先と特殊な糸を生み出してニット製品に仕上げたりしています。OEMの主力製品はゴルフウエアで、皆さんが知っているブランドのほとんどと取引しています。アレンジが難しいセーターアイテムですが、独自の素材や編み方などで動きやすさや強度を追求し、パフォーマンスを発揮できる着用感には自信を持っています」

　昨今はファッション性も兼ね備え、日常使いできる“スポーツミックス”を「URBAN ACTIVE」と新しいカテゴリーとして名づけ生産依頼が増えているとか。信頼する中国メーカーは高品質な製品づくりとバランス取れたコストを特長とし、日本産の糸も巧みに扱うと言います。

　「国産の有名な糸は堅牢でカーテンや車のシートに活用されている糸を私はアレンジして衣服に用います。用途を広げる一方で、優れた技術を持ちながらも、地方の繊維会社やニットづくりに携わる会社は減少傾向にあり、たとえ注文を受けても応じるキャパがありません。私は日本の技術を絶やさないよう、海外でも日本の知見を継承しています」

　重文字さんは地域の事業者の存続、発展を支えるため、「自社の糸にプライドを持っているがアピール方法が分からない」「上質な素材を国内外にプロモーションして販路を広げたい」といった関係者と、新たなチャレンジを共にすることを本望としています。

繊維商社でニットに特化して経験を積み、作り手の思いを代弁できるのが強み

　重文字さんは大学時代に交換留学でオーストラリアに滞在。現地で親しくなった同世代の日本人に影響され、商社に興味を持ちます。

　「彼から商社という業界を教えてもらい、世界中を飛び回る仕事があることを知りました。私も国際協力を専攻していましたが、ビジネスよりもボランティア寄りの意識だったので刺激を受けました。改めて自己分析し、ファッションが好きだと気付いて洋服を扱う商社を目指すことにしました」

　化成と繊維の専門商社に入社し、ニット製品の営業担当としてキャリアをスタート。当初は国内業務に専念していましたが、入社5年目に初めて海外出張の機会を得ます。

　「納期が遅れている商品を受け取るため中国に行きました。現地で工場の大きさと関わっている人の多さ、またニットという限られた衣類の一分野でも世界を飛び回れるのだと知りました。1本の糸からセーターを作り、ゆるめたり詰めたり、編み目も自在に組める自由さに改めて驚きました」

　会社の先輩を手伝うために転職し、さらに個人事業主として中国のパートナー企業と取引を開始。コロナ禍には“3密”を避けられるゴルフが人気を博し、ニットウエアの受注も増え、ゴルフウェアを主要事業に掲げVERYTEXを立ち上げます。

　「ニットに特化して経験を積んできたのは私の大きな強みです。ニットというニッチな世界はデザイナーさんにとって色や形はイメージできても、適切な糸の選び方や編み方が分からず、苦手意識を持っている方が多いようです。彼らと工場との間に入り、試行錯誤するのが面白いですね」

日本には世界に誇る糸も編機もある。若手が育つ環境を整え、挑戦を後押し

　重文字さんにとって仕事の醍醐味は、ニットで顧客の願いをかなえること。柔らかい肌触りで着心地がいい、伸縮性、保温性といった機能面も含め、漠然とした要望をくみとって具現化することを得意としています。

　「日本の優れた糸を海外に広めることも使命です。例えばあるメーカーでは、通常は断面が丸いポリエステルの糸を十字状にできます。肌に当たる面積が減るので軽さと涼やかさを実現できます。また、静岡の製紙会社では糸をパルプで作成し、軽量かつ涼感をもった糸を開発しています。北陸のピンタイプ仮撚（かりより）という技法はポリエステルの糸にストレッチ性や膨らみを持たせることができます。いずれも国際競争力が高いと認識しています」

　さらに、セーターの世界的に有名な編機メーカーのうち、一つは日本のメーカーです。ものづくりの環境が整っているにもかかわらず、重文字さんは世界的なデザイナーやブランドが育っていないことを危惧します。

　「日本のアニメやゲームは世界で評価されているのに、ニット業界は国内の小さなパイを奪い合い、海外に挑戦する気持ちが少ない気がします。チャンスを思い描けないのはもったいないので、皆さんと一緒に盛り上げたいですね」

　若手の台頭や新進気鋭のブランド創出を後押しする一環として、日本から数社しか参加していないというイタリアのニット糸の展示会「Pitti Immagine Filati」に連続で出展。本場ヨーロッパのトップブランドに認められ受注を獲得し、後進が続く足跡を残すのも大切なミッションだと話します。

（取材年月：2025年1月）

ニット製品を構想段階から支援し、日本の糸や繊維の技術を守るため世界に発信・展開

受託製造のOEMや糸の開発・開拓、パートナー企業との生産事業に注力

繊維商社でニットに特化して経験を積み、作り手の思いを代弁できるのが強み

日本には世界に誇る糸も編機もある。若手が育つ環境を整え、挑戦を後押し

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