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手話と聴覚障がいに対する誤解を払拭し、お互いに理解し尊重し合う、優しい社会に

言語と教授法に精通した有資格者の手話通訳士兼日本語教師

鈴木隆子

鈴木隆子 すずきたかこ
鈴木隆子 すずきたかこ

#chapter1

手話は2種類あり、どちらも大切です。聴覚障がい者には3つのタイプがあることも知ってください

 「日本には手話が2種類あり、互いにうまく意思疎通ができないことがあるとご存じですか?」と語るのは、行政や企業など各方面で活躍する手話通訳士の鈴木隆子さん。日本語教師という顔も持ち、日本語を外国人ビジネスマンに教えてきた経験を手話の指導に生かし、東京都三鷹市で「テンダー手話&日本語教室」を主宰。手話の講座や、現在日本で唯一の「聴覚障がい者のための手話でおこなう日本語講座」をしています。

 「手話が2種類あるのは、聴覚障がい者に3タイプあるためです。生まれつきまたは3、4歳の言語獲得期以前に聞こえなくなった『ろう者』、聞こえにくい『難聴者』、ある程度成長してから、何らかの理由で聞こえなくなった『中途失聴者』です」

 ろう者のうち、ろう学校で育った人やデフファミリー(家族全員がろう者の家庭)で育った人が使用してきたのが「日本手話」でした。「私はリンゴが好きです」は「私+好き+何+リンゴ+私」と伝えるなど、日本語とは語順も語彙も文法も異なり、まるで外国語と言えるほど日本語とは違います。
 テレビ番組では「日本手話」を尊重していますが、現実には若いろう者では日本手話を使わない人が増えています。
                
 一方、難聴者や中途失聴者が使う「日本語対応手話」は、【母語が日本語】の人が使う手話で日本語の語順の通りに表すものです。もともと日本語が頭に入っている人にとっては、日本語の通りに表した方が伝わります。

 「日本手話を母語(第一言語)とする人の中には、日本語対応手話は認めないという人もいます。しかし、いずれも大事なコミュニケーションツールなので、両方を習得して、それぞれ対象者に合わせて手話を使い分けることが大切です。

 「人間に上下がないのと同じように、言語にも上下はありません」と鈴木さん。「日本語対応手話」を使う人にとって「日本手話」は分かりにくく、「日本手話」を使う人に「日本語対応手話」では通じないことがあるので、手話通訳士になるなら両方を習得することをすすめています。

#chapter2

言語の専門家として言語構造や教授法を猛勉強。第二言語習得のための、論理的で分かりやすい指導が特徴

 鈴木さんは大学を卒業後、大手ゼネコンに就職。経営企画室で総合職として勤務しやりがいはありましたが、大学講師として働く母の姿や、語学が好きだったことから日本語教師を目指します。

 「勉強してみて、母語を教えるのは難しいと痛感しました。例えば『私は山田です』と『私が山田です』の違いを外国人に説明しろと言われても、私は日本語を母語として自然に獲得しているので説明ができません。専門学校で日本語の言語構造と教授法を猛勉強し、日本語教育能力検定試験に1度で合格しました。
 教べんをとるようになり、成長してから学ぶ外国語(第二言語)は、自然に身に付く母語(第一言語)とは身につける方法が根本的に違うと実感しました。母語は【獲得】するもの、第二言語は【習得】するものだからです」

 手話は「仕事に手話が必要になった元の夫の役に立てば」と、軽い気持ちで学び始めました。しかし聞こえる人たちが楽しそうに話している時に、ろう者が一人で寂しそうにしている姿を見て「一人でポツンとしているろう者に、みんなの話している内容を伝えたい」と思い、本格的に手話を学ぶことを決意しました。

 「孤独には2種類あると私は思います。【部屋に自分だけしかいない孤独】と【たくさん人がいるのに、自分だけ輪の中に入れない孤独】です。自分だけ輪に入れない孤独の方が絶対辛いはずだと思いました。独学後、市役所主催の講習会へ3年間通い、試験に受かり地域の登録手話通訳者になりました」

 2006年には、合格率約10%の厚生労働大臣認定の手話通訳士の資格を取得しました。
 手話は言語なので外国語を指導するのと同じく専門知識が必要なのに、言語構造や教授法を知らない講師が指導をしていることに、問題を感じました。
 その後2011年に先輩の代理で行った大手証券会社の手話教室で、生徒さんから「鈴木先生に習いたいです」と言われたのがきっかけで、教室を立ち上げました。

鈴木隆子 すずきたかこ

#chapter3

手話と日本語は別の言語。日本語と日本語対応手話と日本手話の違いを知り、違いを受容し、心をつなぐ

 「ろう者とは筆談で通じると思っていませんか? しかし、助詞『てにをは』を指さしやうなずきで表したり『尊敬語』と『謙譲語』の使い分けが手話にないため、ろう者は文章に間違いが多く、職場で見下されるケースが多々あります。文章に間違いがあるのは本人の能力の問題ではなく、手話と日本語は言語的に異なるためと理解していただきたいです」

 手話はようやく2006年12月に国連で言語と認められましたが、成熟・浸透しているとは言えないのが現状とか。
 「日本手話を使う人が日本語対応手話を使う人を見下したり、聴者が日本語の文章が苦手なろう者を見下したりすることがなくなりますように。自分と違う人を批判するのではなく、受容の心こそが素敵なのですから」と、鈴木さんは笑顔を見せました。

(取材年月:2023年12月)

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専門家プロフィール

鈴木隆子

言語と教授法に精通した有資格者の手話通訳士兼日本語教師

鈴木隆子プロ

手話通訳士&日本語教師

テンダー手話&日本語教室

日本語教師として外資系企業社長など欧米のビジネスマンに指導した後、手話通訳士として政見放送で首相の通訳を担当。言語構造と教授法の専門知識を活かし、大手企業での日本語研修や早稲田大学での手話指導に従事。

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