PROFESSIONAL
STORIES

Mybestpro Interview

山田流箏曲の師範、研究者として、歴史から学べる箏と三味線の個人レッスンを展開

生徒の「もっと深く知りたい」に応える箏と三味線の師範

衣笠詠子

衣笠詠子 きぬがさえいこ
衣笠詠子 きぬがさえいこ

#chapter1

渋谷と世田谷で箏と三味線の教室を開き、オンラインレッスン、出稽古も対応可

 「詠(ながめ)の会」は、物語性を重視した流派として江戸時代に創始された山田流の箏(こと)・三味線と、長唄三味線の教室です。主宰の衣笠詠子さんは3歳から91歳まで40人以上の弟子を抱える師範であり、箏を主体に弾き歌う箏曲(そうきょく)の楽譜の歴史の研究者でもあります。

 「お箏は触れると音が出るシンプルな楽器です。当方では弾き方を教えるだけでなく、歌詞の意味やストーリーをひもとき、理解や関心を深めてもらえるよう努めています。ご質問も多く、皆さんの『もっと知りたい』に応えるため、私自身も学びを重ねています」

 渋谷と世田谷にある教室ではマンツーマンでレッスン。生徒は初心者から音大・芸大志望者まで幅広く、箏曲の音楽性が好きな人もいれば、文学性に魅力を感じる人も。衣笠さんは、個々の好奇心を大切にしています。
 「その方が『楽しい』と思うことを見つけるのが私の役目。お稽古の曲選びは特に大事にしていて、幾多の曲の中から旋律が美しい曲、古典曲、現代曲などその方に合わせて提案します。社会科が好きなお子さんに『源義経が出てくるよ』と聴かせたことも。『興味が湧いた』『この曲を練習してよかった』と言われると本当にうれしいですね」

 長唄三味線は重要無形文化財「歌舞伎」「長唄」認定保持者である稀音家新之助 (きねやしんのすけ)氏が指導。楽器の貸し出しもあるため、初めての人もぜひ触ってみてほしいと話します。
 「教室に来られない、お箏がないという方はお送りしてオンライン受講も可能です。私がご自宅に伺う出稽古も全国各地、時間が許す限り対応しますのでご相談ください」

#chapter2

箏曲の歴史にひかれた子ども時代。探求心に導かれて箏曲家に、そして研究者に

 箏曲家としての自身を「音に対する感性より頭で考えて演奏するタイプ」と分析する衣笠さん。曲の解釈が分からないときは、作詞作曲者の意図や時代的背景などを探り、答えに近づけると大きな喜びを感じると言います。
 「『知りたい』という気持ちが強いのは幼い頃からで、遊んでいる最中に指についた虫を徹底的に調べたことも。10歳で箏曲を習い始めると、脈々と紡がれる歴史に興味を持ちました」

 今の道に進むきっかけとなったのは、高校時代の歌舞伎鑑賞。「大胆な舞いと繊細な情感が絡み合う世界に衝撃を受け、同時に『なぜ男性だけ?』『なぜこんなに分かりにくい言葉を使うの?』と多くの疑問を持ちました。生来の探求心に火がつき、自分にできることで答えを追求してみようと、より箏曲に打ち込むようになったんです」

 大学は、師事していた故・京極優一氏が教べんを執る岡山県の音楽大学に進学。卒業後、生まれ育った東京に帰郷し、プロの箏曲家として演奏活動を始めます。「詠の会」を立ち上げて弟子の指導に当たる傍ら、都立高校の専任講師に着任し、国際イベントで奏者を務めるなど活躍の場を広げていきます。

 その後、もっと深く勉強したいという思いから、東京藝術大学大学院に入学。箏曲山田流修士課程を経て、博士後期課程で音楽文化学を専攻、楽譜の研究を続けています。
 「20年以上前に譲り受けて家で眠っていた古い楽譜が貴重な資料と分かったり、学内コンペ『奏楽堂企画』で最優秀賞を受賞し学生仲間と明治時代の原譜から復曲を実現したりと、実り多い日々を過ごしています」

衣笠詠子 きぬがさえいこ

#chapter3

教室を、一人一人の目標や願いをかなえる場所にしていきたい

 長年にわたって箏曲に親しんできた衣笠さんは、歴史を学ぶことが未来につながると語ります。
 「江戸時代は男性盲人のみ職業にできた箏曲が、明治初期に晴眼者と女性にも許され、初めて教習用の楽譜が作られました。後世に伝えるべく、箏曲の世界を変えた人たちがいるんです。今日本では、伝統音楽に携わる人の数が減っていますが、文化として継承していくためにも、必要なところは進化させて形を変えながら、良いものを未来に残していきたいです」

 後進の育成については、本人から申し出があれば全力で応援するものの、自分から働きかけることは決してないとか。
 「何を目指すかはご本人次第ですから、それぞれの目的や要望によって、何を教えるかを変えています。例えば音楽家を志す若い方には、やり抜く力や生きる力を育んであげたいですし、将来収入を得る方法を一緒に考えることもあります」

 衣笠さんは数多くの人を迎え入れ、「わが子に礼儀作法を身につけてほしい」「奏者として上達したい」「趣味としてたしなみたい」など、さまざまなニーズに寄り添い、丁寧に手ほどきしています。
 「今後このお教室が、一人一人の目標をかなえる『通り道』になるといいと思います。後から振り返って『あの時頑張ったな』と前向きになれて、時々は家族に会いに来るように顔を見せに立ち寄ってくれる、そんな場所になれたらと心から願っています」

(取材年月:2024年1月)

リンクをコピーしました

Profile

専門家プロフィール

衣笠詠子

生徒の「もっと深く知りたい」に応える箏と三味線の師範

衣笠詠子プロ

箏・三味線の師範

詠の会(ながめのかい)

東京藝大の研究室で箏曲楽譜の研究をする師範が、歌詞の意味や歴史的背景を紐解きながら楽しく箏と三味線の稽古を行います。楽器の貸し出し、体験レッスンあり。渋谷・世田谷教室、オンライン稽古と出稽古も応相談。

\ 詳しいプロフィールやコラムをチェック /

掲載専門家について

マイベストプロ東京に掲載されている専門家は、新聞社・放送局の広告審査基準に基づいた一定の基準を満たした方たちです。 審査基準は、業界における専門的な知識・技術を有していること、プロフェッショナルとして活動していること、適切な資格や許認可を取得していること、消費者に安心してご利用いただけるよう一定の信頼性・実績を有していること、 プロとしての倫理観・社会的責任を理解し、適切な行動ができることとし、人となり、仕事への考え方、取り組み方などをお聞きした上で、基準を満たした方のみを掲載しています。 インタビュー記事は、株式会社ファーストブランド・マイベストプロ事務局、または朝日新聞が取材しています。[→審査基準

MYBESTPRO