医療機器の正しい使い方が医療ミスを防ぐ。コスト削減しながら安全確保を守る

医療ミスを防ぐ医療機器安全コーディネーター（R）

田中嘉一

#chapter1

頻繁に使わない医療機器、きちんと点検・管理・使用できていますか？

　医療機器安全コーディネーター（R）という仕事をご存知でしょうか。
　主に300床以下の病院の医療機器をメーカー問わず定期的に点検・管理し、常に緊急対応できるような体制を整えトラブルにも対処。そして、スポットで使うような医療機器のレンタルも行い病院側のメンテナンス負荷を軽減、さらにはコスト削減にも貢献しています。また、病院内で医療機器の取扱指導を実習型研修として実施、誰もが自信を持って使えるように導いています。

　こうしたきめ細やかな外部サポートを入れることにより、臨床工学技士を置けない病院や、頻繁に医療機器を使用しない病院などは、「医療機器の適切な運用」「医療機器の誤操作による医療ミス防止」「コスト削減」を実現することが可能になります。

　「MEテック・ラボラトリー合同会社」代表の田中嘉一さんは、「医療機器の安全管理という文化を根付かせたい」という志を掲げ、医療機器安全コーディネーター（R）として様々な病院で、医療機器の点検・管理・研修などに携わっています。そのきっかけは、ある病院での事例が大きく影響しているそうです。

　「月に2回訪問してサービスを提供する、臨床工学技士さんが在籍していない病院でのことでした。私が訪問した時、患者さんに人工呼吸器を使用されていましたが、現場を見てとても驚きました。ある重大な取り付けミスをしたまま使用されていて、誰もその間違いに気づかず、すでに3日間が経過していたのです。すぐに正しい取り付け方に変え、病院側に説明。幸いにも難を逃れましたが、あのままにしていたら患者さんの命はどうなっていたことか…。その時、私自身猛省しました。月に2回の巡回ではこのような事例を発見できないことがある、と」

#chapter2

現場の声を吸い上げて医療機器を安全に使うサービスを構築

　田中さんはこの時の衝撃から、「医療機器を年に数度程度しか使わない病院にとって、管理・使い方においてどうしても潜在的な不安を持っている。スタッフの方達が適切に自信を持って使えるようにしなくては！それも、経費削減にも繋がらなければ本当には役立つことはできない」と思い至ったそうです。

　「そこから私の模索が始まりました。定期的な点検は必須ですが、それだけでは使用ミスを防ぐには足りません。そこで現場の不安や悩みを探るために、多くの病院でアンケートを実施しました」と言う田中さんは、アンケートからある事実が浮かび上がったと語ります。

　「医療機器を使うのは主に看護師さんや臨床工学技士さん、臨床検査技師さん、放射線技師さんなどです。技師さんは自分が使う機器に関して熟知していますが、看護師さんは多忙な看護業務の中で医療機器を使わねばならず、機器の技術的な知識不足を感じながら使っているケースが多いと分かりました。常に患者さんと密に関わる看護師さんが一番精神的負担を抱えながら、患者さんに医療機器を使っていたんです」。
この事態を早急に改善しなくては、と強く感じた田中さんは、その後行動に移します。

　病院スタッフの方々向けに使い方研修を何度も実施、レンタルの医療機器用測定装置で機器の状態が正常かどうか判断できない医療機器の使用を防ぐなど、多角的に安全対策ができるようにサービスを拡充していきました。

#chapter3

コスト低減・管理・現場スタッフ良し、何より患者良しの四方良しサービス

こうした現場の声を反映したサービスは、病院来訪時に直接喜びの声をもらうそうで、嬉しそうにエピソードを話してくれました。

　「研修では、機器の取扱説明をデモンストレーションという形で皆さんにお見せし、実際にその場で操作していただきます。看護師さんたちは、『田中さんの研修の日を待っていたんですよ。これで自信を持って適切に使えます！』など仰ってくださるので、やりがいを感じます。また、前職から独立する際に、ある病院で事務局の方に最後のご挨拶にお伺いしたところ、『このままお願いしたいから、立ち上げる会社に新規契約するよ』と言っていただいたり…。会社の看板とかではなく、私を選んでいただけることに大きな喜びを感じます。そしてその分、責任を感じ心が引き締まりますし、皆さんの期待が私の原動力にもなります」

　医療現場をよりよくしたい、という熱い想いを胸に秘め邁進する田中さんに、今後の抱負をうかがいました。「日本の医療は欧米に比べ、医療機器の保守点検や適切な取扱指導などの考えが遅れています。医療機器のずさんな管理や不適切な使用が医療ミスにつながり、それが患者さんの人生や命を奪うことにつながるという事実の認識が、残念ながら低いのです。そこを理解していただきながら、安全管理・正しい取扱方法の普及に努め、なおかつコストダウンを提案していく。これが私のミッションです。このミッションに従い活動することが、患者さんを間接的に救うことになると信じています」

（取材年月：2017年10月）

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専門家プロフィール

医療ミスを防ぐ医療機器安全コーディネーター（R）

田中嘉一プロ

臨床検査技師

MEテック・ラボラトリー合同会社

医療機器保守点検・安全管理のエキスパート。300床以下の病院を対象に、「医療機器安全管理と運用」「コストダウン」「丁寧な病院内研修・指導」の3本柱で、病院の医療ミス防止の一翼を担っている。

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