金継ぎで”思い”を未来に引き継ぐ漆芸家
萩原裕大
Mybestpro Interview
金継ぎで”思い”を未来に引き継ぐ漆芸家
萩原裕大
#chapter1
器の破損した箇所に手を施してよみがえらせる「金継ぎ」は、経年変化に美が宿る“侘び寂び”の精神を体現した伝統技法です。物を大切にする先人が生み出した知恵と工夫、日本ならでは美意識は海外でも高く評価されており、訪日外国人が体験に訪れるなど関心を集めています。
「金継ぎの魅力は失敗がないことです。繊細に紡いだ細い線も、力強く描かれた太い線も、すべてがその人の味となります。同じものは二つとしてなく、唯一無二の存在で人間にも通じます」
そう話すのは、「金継ぎ暮らし」の代表・萩原裕大さん。東京都を拠点に教室事業を展開し、都内では自由が丘、六本木ヒルズ、府中、埼玉県では大宮教室を開いています。
また、器の修理や金継ぎに関する講演業も手掛け、2022年には「八意(やごころ)」として法人化。各種メディアからの要望で、ドラマや書籍の監修も数多く行っています。
「当方では二つのクラスを用意しています。漆を使った古典的な技をマンツーマンで手ほどきする4回コースの『本漆金継ぎ』と、2時間で1回コースの『簡易金継ぎ』です」
1日で完結するワークショップなどは、参加しやすいことから人気がありますが、思わぬ落とし穴があるので注意が必要だと言います。
「簡易金継ぎでは接着剤などを使用するケースが多く、食器として使えなくなってしまうんです。当方では試行錯誤の上、食品衛生法の基準をクリアした材料を用いています」
美しく直した器は、今後も生活の一部として持ち主と共に時間を重ねていけるように。萩原さんはそう願っているのです。
#chapter2
祖父が書道家、父も絵画をたしなむという環境で育った萩原さんは、幼少期より美術への造詣を深めていました。
「昔から教師になりたいという気持ちもあり、悩んだ末、大学は教職が取れる学科へ進みました。学業のかたわらボランティアに励み、美術館や介護施設の絵画教室でスタッフを務めました。かねてより目指していた“指導者”と長く親しんだ“芸術”、どちらも取った形ですね」
卒業後は、焼き物で有名な滋賀県の信楽町にある美術館に就職。そこで価値観を変える習慣を目にします。
「陶芸が盛んなその地域では器に割れなどが生じると、購入先の窯元さんに金継ぎを頼んで使い続けるというサイクルが根付いていました。例えば、時計や靴をリペアサービスに出すでしょう、あんな感じですね。この景色を、日本中で当たり前のものにしたいと 感銘を受けました」
志を新たにした萩原さんは東京に赴き、金継ぎの老舗として知られる「播与漆行」で修行。壊れたものを修繕する尊い文化を知ってもらいたいと、2019年に開室しました。
技術力を頼りに、修理だけで月100件以上の問い合わせが舞い込むまで知名度を高めていますが、萩原さんは教室であることに重きを置いています。
「単にノウハウを教えるのではなく、自分の手で傷んだところ繕う中で自分自身と向き合い、多くの気付きを得られる時間を提供したいと考えています。金で飾り、命を吹き込むという作業で器と共に過ごした月日を慈しむ。そんな場所であってほしいですね」
#chapter3
金継ぎに携わっていると、器に替えの利かない思い出を見る持ち主に出会うことが多く、毎回心が震えると語ります。
「あるとき湯のみをお預かりし、きれいに直し送ったところ、後日手紙をくださったんです」
中には仏壇に供えられた湯のみの写真があり、亡き夫の形見の品だとつづられていました。
「主人愛用の湯のみでまたお茶を入れてあげたいという願いをかなえてくれ、ありがとうございますと感謝の言葉が添えられていました。私たちは“物”ではなく“思い”を扱う仕事なのだと感じ入りました。うれしく誇らしく、同時に身が引き締まりますね」
萩原さんと依頼主とのエピソードは、金継ぎにまつわる物語を集めた小説「金をつなぐ」(著・山本瑤)のモデルにもなっています。
現在は簡易キットの制作・販売や、金継ぎアクセサリーブックの出版、世界的な観光誌・ミシュランガイドに掲載されたレストランとコラボするなど、裾野を広げるために多方面で活動。
教室に通うのが難しい人のために出張レッスンも実施し、誰もが気軽に取り組める仕組みを作りたいと熱を込めます。
「金継ぎにひかれるのは、そこに人生の哲学があるからではないでしょうか。挫折した分だけ人間に深みが出るのと同じく、器に傷がつくのは愛着を持って使ってきた証拠。だからこそ“金”という目立つ方法で直しているのだと私は思います。今のあなただからこそ素晴らしいというメッセージを、金継ぎを通じて伝えていきたいですね」
(取材年月:2023年11月)
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Profile
金継ぎで”思い”を未来に引き継ぐ漆芸家
萩原裕大プロ
金継ぎ師
金継ぎ暮らし
食品衛生法基準をクリアした材料を使用し、食器として使える金継ぎ教室を開催。メディアでの監修経験もある優れた講師陣を配し、器に込められた思いを慈しみながら命を吹き込む金継ぎ体験を提供している。
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