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1日1組限定。天然トラフグを中心に厳選した食材だけを扱う

40年以上の経験を持つふぐ調理師

熊澤彰

熊澤彰 くまざわあきら
熊澤彰 くまざわあきら

#chapter1

フグを調理して40年以上。大きさや身の締まり具合に応じて包丁の入れ方を変えて提供

 「ぎんざ姿」は、1日1組・最大6名限定で天然トラフグを中心としたコース料理を提供する和食料理店です。料理長の熊澤彰さんが自ら全国の産地を訪ね、厳選した食材だけを扱っています。

 「例えば、港を訪ねる際には付近の自然環境がどんな様子かはもちろん、冷凍・冷蔵倉庫の規模や処理場の環境まで実際に見て確認します。食材の鮮度や流通の状況をできるだけ正確に把握し、安心して提供できる料理づくりにつなげています」

 熊澤さんはフグを調理して40年以上の経験を持つ人物。2009年に東京都ふぐ料理連盟の理事に就任し、2021年からの2年間は東京都ふぐ調理師試験の試験協力員としても活躍しました。

 そんな熊澤さんは、一匹一匹異なるフグの大きさや身の締まり具合に応じて包丁の入れ方を変え、最高の状態になるようさばいています。「ふぐ調理師の試験では毒の除去法は問われますが、おいしくさばく技術は問われず、それは経験でしか身に付きません。私は独自の方法を含め、5~6種類のさばき方を習得し、使い分けています」と語ります。

 店内の空間づくりも大切にしている熊澤さん。店内には古伊万里の皿や棟方志功の版画・肉筆画を飾り、料理は古伊万里の器で提供しています。「大切な人との特別な時間を、ぜひゆっくり過ごしてほしいと思います」

#chapter2

体調を崩しがちだった父を助けるため大学を中退して実家の厨房に立つ

 熊澤さんは1964年にフグ料理店「すがた」の長男として生まれます。高校を卒業後、早稲田大学へ進学しますが、体調を崩しがちだった父・勲さんを助けたいという思いが膨らみ大学を中退。実家の厨房に立つようになります。

 「意外と知られていないのですが、ふぐ調理師の有資格者が一人いればその店では別の従業員がフグをさばいても問題ありません。私自身は大学在学中から父を手伝っていましたので、本格的に修行を始めた頃にはすでにフグをきれいにさばけていたと思います」

 熊澤さんも26歳のときにふぐ調理師の資格を取得し、2年後には勲さんから経営権を引き継ぎ、二代目に就任。以来、おもてなしの心を大切にしながら、勲さんが築いた大切なお店を守ってきました。

 2012年には近隣一体を含めた再開発の話があり、新宿区にあった店舗を銀座に移転。これに伴い、店名を「ぎんざ姿」としました。もともとは1日1組に顧客を限定していませんでしたが、2022年の店舗改装をきっかけに、1組の顧客に最大限のおもてなしをしたいと考え、現在のスタイルになったといいます。

 料理人として40年以上のキャリアを持つ熊澤さん。フグをさばく技術とともに、おもてなしの心も培ってきました。

 「お客さま同士の会話が途切れて重苦しい空気になりかけたとき、失礼にならない範囲でフグや器の話をしたり、盛り上がり始めたときにはすっと引いて口を閉じたりします。おかげさまで、当店を商談にお使いいただく常連さまもいらっしゃいます。接客のスキルを磨くため、世界大手のホテルチェーンに所属するコンシェルジュとも交流を重ねてきました」

#chapter3

家庭で同じ味が楽しめるオンラインショップの運営に注力

 熊澤さんがこれから力を入れていきたいのがオンラインショップの運営です。天然トラフグの切り身や養殖ふぐちりセット、近江牛のしゃぶしゃぶ・すき焼きセットの他、自家製のポン酢などを販売。いずれも、同店で提供している品と変わらない品質だといいます。

 「当店は1日に1組の方しかご来店いただけませんが、オンラインで商品をお買い求めいただければ、お店と同じ味をご家庭でお楽しみいただけます。オンラインショップを介して当店のファンをつくり、お店に足を運んでいただける方が増えてくれたらうれしいですね」

 2024年に還暦を迎えた熊澤さん。今後は後進の指導にも力を注いでいく方針です。「これまでに培ったノウハウを、若い世代に伝えたいという思いが最近は強くなってきました。まずは息子からです」と笑顔を見せます。

 熊澤さんの息子である勝さんは、いくつかの職を経験した後、「ぎんざ姿」の三代目となるべく鋭意修行中だそう。自分と同じふぐ調理師の道を選んでくれたことが熊澤さんにとっては非常にうれしく、日々の指導にも熱がこもります。

 もちろん、熊澤さんもまだまだ現役。「フグをさばくのはかなり力がいるので、体への負担は正直小さくありません。ですが、包丁に見放されるまでは厨房に立ち続けたいと考えています」

 40年以上の経験を経た今も、仕事への情熱は若い頃から一切変わっていないという熊澤さん。今日も、厨房で包丁を握る手に力を込め、自分にできる最大限のおもてなしを提供しています。

(取材年月:2025年10月)

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熊澤彰

40年以上の経験を持つふぐ調理師

熊澤彰プロ

ふぐ調理師

ぎんざ姿

ふぐ調理師として40年以上の経験を持つ。自ら日本全国を渡り歩いて選んだこだわりの食材だけを使用。1組の顧客に最大限のおもてなしをしたいという思いから、1日1組最大6名に顧客を限定している。

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