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メンタルヘルスの視点を取り入れたセミナーで、薬を“リスク”にしない方法を説く

医薬の知見とカウンセリングの融合で健康的な社会を目指す薬剤師

伊藤俊彦

伊藤俊彦 いとうとしひこ

#chapter1

働く人のためのカウンセリングや若年層に向けた薬物乱用防止セミナーを開催

 「“薬”を逆から読み “クスリはリスク”などとする考え方が、私はあまり好きではありません。薬にはリスクの側面はあるものの、人の役に立つ目的のものであって、リスクにしてしまうのは“人”の問題です。薬を適切に使うことによって薬の価値を最大化したいと思っています」

 そう話すのは、「アムズメディカル」代表の伊藤俊彦さん。薬剤師の資格を持ち、薬機法の知識を生かして、医薬品や医療機器などの有効性や安全性を適正に表現する薬事・景品表示法のコンサルティング、医療機器である補聴器の製造販売をしています。また食品・化粧品の開発にも携わり、プロモーションにおけるリーガルチェックをしています。

 「当方は、主に働く人の心をケアするEAPメンタルヘルスカウンセラーでもあります。不調を抱える従業員とその家族、企業・組織に対しても、カウンセリングや研修を実施し、ご本人の復調や職場環境の改善をお手伝いしています」

 薬剤師、カウンセラーの顔を持つ伊藤さんが今、最も力を注いでいるのが薬物乱用防止セミナーです。10~20代の若年層に向けて学校などで講話しています。

 「中高生は家庭や学校以外に居場所を求め、仲間とのつながりを感じるため薬物に手を出す場合があり、芸術系の学生では創作活動のために使用するケースがあります。セミナーでは薬物の怖さはもとより、インターネットで気軽に入手できてしまう現状や、背景にある若者の心情にも触れています。薬物の誘惑を防ぎ、乗り越える方法を考えるとき、結局は人間関係や目標設定といった、生き方や心の問題につながっていきます」

#chapter2

命を救ってくれた薬が適切に使われる社会を目指し、会社員から薬剤師に

 国立大学の人文学部で学んでいた伊藤さんが薬剤師を志したきっかけは、21歳の時に経験した交通事故。出血が多く、輸血が検討されましたが、担当医が輸血は行わないとの判断を下し、服薬と食事療法で命の危機を乗り切りました。

 「ちょうどその頃、メディアでは血液製剤による薬害の問題が取り沙汰されていました。人の血液から作られた血液製剤が手術や治療に使われた際、製剤にウイルスなどが混入していたことで、多くの感染者を出してしまったのです。一つ何かが違えば、私も輸血用血液製剤がもとで、病気にかかっていたかもしれない。そう感じたとき、薬を危険なく服用できるように力を尽くしたい、薬に関わる仕事をしようと決意しました」

 新卒時に薬の卸商社に就職。営業職として病院や薬局などに必要な薬を届けました。数年後には、社会人入試で新潟薬科大学薬学部に合格。大学を卒業し、薬剤師免許を取得した後は、医薬品の治験、免疫学の研究に取り組むかたわら、東京大学大学院で医療ビジネスを学びつつ、医業経営コンサルタントの資格を取得。また代替・補完医療や再生医療について探求しました。

 「研究・開発に従事し、食品や化粧品などさまざまな分野の企業とコラボレーションすることで、視野と人脈が広がりました。病院や薬局で目の前の患者さまに向き合うのも大切な仕事ですが、食品、化粧品を手掛ける企業に対して正しい知識やモラルを広めれば、より多くの人が薬を適切に使える社会につながるのではないか。そんな思いで、コンサルタントとして起業しました」

#chapter3

カウンセラーとして、テレワーカーや在留外国人など悩める人をサポート

 伊藤さんは企業に向け、メンタルヘルスケアのプログラムも提供。コロナ禍を機に、テレワークを導入した企業から依頼が増えていると言います。

 「自宅で働ける便利さの反面、孤立化し、自分自身も気づかないうちに鬱(うつ)に近い状態に進行してしまうケースも見受けられます。突然の休職や離職を防ぐためにも、予防策を講じることが重要です」

 約60分間のセミナーは、オンラインでも実施。座学だけでなく、自らを見つめるマインドフルネス瞑想などコンディションを整えるワークも行います。

 近年は外国人材の採用や結婚による在住者も多いことから、カウンセラーとして日本で生活する外国人を支援するNPO法人に所属。個別面談のほか、技能実習生や受け入れ先企業に向けて、講師として活動しています。

 「外国人の中には、退職や離婚で在留資格を失うことを懸念してストレスを我慢し、メンタル不調に陥るケースもあります。心配ごとや困りごとに耳を傾けるとともに、休業補償など労働に関する法律を知ることで不安や負担が軽減する場合があります。在留申請や在留資格の変更といった入管業務を担う行政書士、通訳とも連携してフォローしています」

 伊藤さんは、薬剤師を対象に心のケアに関するセミナーを開くことも視野に入れているそう。

 「薬の相談を通して信頼関係を築き、お客さまの悩みにアプローチできる薬剤師を増やしたいですね。これからも“薬”と“カウンセリング”を通して、心身の両面から健康をサポートしていきます」

(取材年月:2024年12月)

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Profile

専門家プロフィール

伊藤俊彦

医薬の知見とカウンセリングの融合で健康的な社会を目指す薬剤師

伊藤俊彦プロ

薬剤師/カウンセラー

株式会社アムズメディカル

医薬品の品質のみならず、服薬または薬物を使用する人の“心”に着目し、薬が適切に使用される社会の創造を志向。薬物乱用防止やメンタルヘルスの知識を広めるセミナーを通じて、心身の健康をサポート。

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