芸能・音楽を志す人を支える質店3代目店主谷口大地

芸能・音楽を志す人を支える質店3代目店主

谷口大地

「お客さまの大切な品」を預かる仕事を肝に銘じ質屋を営む3代目

昭和22年に創業した「谷口質店」。品を預けることで現金の借り入れができる「質預け」で、70年以上にわたり地域の人たちの困りごとに応えています。
最大の特徴は、貴金属や腕時計などだけでなく「楽器を扱う質店」であること。楽器の質預け、買取・販売に定評があり、東京都のほか神奈川県や千葉県など他県から訪れる人も少なくありません。

この歴史ある質店を切り盛りするのは、3代目で“楽器もわかる店主”の谷口大地さん。「楽器は一度売ったら取り戻すことができません。それに、新しいものよりビンテージの方が出来がいいことがありますし、直し直し使うのが楽器を持つ楽しみであったりもします。『このギターは絶対に売りたくないけどお金は必要』、そんなときは質預けを試してみませんか？」と笑顔で話します。

同店で楽器の質預けを始めたのは谷口さんの父で、かつてはプロのミュージシャンとして活躍し、楽器をこよなく愛する2代目の邦夫さん。音楽を志す人たちの苦しい現状などをおもんぱかり、楽器の取り扱いをはじめたそうです。そして、この思いは谷口さんにも引き継がれています。

「僕も大学時代は学生演劇に力を注いでいました。ミュージシャンと役者は通じるものがあって、私も夢に向かって努力している人を応援したい気持ちが強くあります」

親子の固い意志は、2人で運営するギターショップ「cnio(クニオ)」のホームページ内の「音楽を愛し、楽器を大切に扱ってくださる方に、思わずサービスをしてしまうようなお店です」という言葉からもうかがえます。口コミやcnioのサイトを見たミュージシャンの卵や音楽家が質預けを利用していて、リピーターも多いそう。

質を利用するお客さまを祖父、父と同じように細やかにサポート

大学卒業後は、憧れの広告業界でバリバリ働いていたという谷口さん。ぼんやりと「家業」を考えることはあったものの、当時は広告の仕事を続けていくつもりでした。それでも質店を継ぐ決心をしたのは、長く勤めていた番頭さんの引退が決まったときでした。

「店はどうなるんだろう？と不安になりました。同時に、祖父が創業した店で父親と一緒に仕事をするってロマンがあるな、と思いました」

そんな谷口さんが、質店で働きだして最初に感じたのは「命を守る医師のようだ」ということ。「みなさん、その品を手放したくないから質屋にくるわけです。お客さまが命のように大切にするものを預かるのですから、この仕事は『単なるビジネスとは違う、真摯に向き合わなければ』という使命感が芽生えました」と当時を振り返ります。

また、アメリカを代表するギターメーカー「Fender」には「pawn shop（質屋の意味）シリーズ」という名前のギターがあるくらい、古くから質屋とギターは親和性があると話す谷口さん。
「こだわりの一本を探しているプロから、これからギターをはじめてみようという中学生まで、購入を目的に来店する方もいます。買い替えを考えている場合、状態によっては修理の提案もしています」

谷口質店では、リペアマンと提携するなど来店者の要望に細やかに対応。「修理から戻ってきたら音がよくなった」と驚かれることもあるそう。

「年月を経るごとに希少性が高まる楽器はたくさんあります。使い込んでいても問題ありません。押入れの奥にしまってあった楽器が思わぬお宝である可能性もあります。ぜひ一度お店にお持ちください」と呼びかけます。

質預けを利用する人たちの力になるためにFP資格を取得

家業を継いで2年目、谷口さんは「2級ファイナンシャルプランニング技能士」資格を取得。質預けを利用する人たちの悩みに寄り添いたとい考えたのがきっかけだと言います。

「ご利用いただくお客様にお話を聞くと、『家族や友人にもなかなかお金のことは相談できない。だから質屋さんを頼って来たんです』とおっしゃる方も少なくありません。そういうお金にまつわる悩みを一緒に解決したい。単に『このお品物は査定額が5000円なので、5000円貸せますよ』というだけでなく、『行政が行っているサービスはご存知ですか？』とか『生命保険など必要以上に契約してませんか？』とか、より深く相談に乗れるように知識を身につけたいと思いました」

そして、「これが3代続く谷口質店の原点」だと言葉を続けます。

「中古品の売り先も買い先も、今ではたくさんあって、これからも出てくるでしょう。競合が増える中で、ここ成増で質屋として永く商売させていただくからには、祖父や父がやってきたような対話を大切にした『血の通った商売』を継続することが大事だと考えています。理想論に聞こえるかもしれませんが、お金に関する悩みを気軽に相談できる場所になれたらいいですね」

40代を迎え、家業に力が入る谷口さん。「当店は、スーツ姿で茶髪の若い鑑定士がいる店でも、しかめっ面のおじいちゃんがデーンと座っている店でもありません。初めての方、また幅広い年代の方にとって利用しやすいお店づくりを心がけています。ぜひごひいきに」と話してくれました。

（取材年月：2021年1月）

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