PROFESSIONAL
STORIES

Mybestpro Interview

阿波人形浄瑠璃の木偶人形を手掛け、からくりの仕掛けを楽しく解説

伝統芸能を支えるからくり人形制作・伝承のプロ

多田弘信

多田弘信 ただひろのぶ
多田弘信 ただひろのぶ

#chapter1

2代目人形健が約40年の職人技で制作のほか、傷んだ人形の修復に対応

 江戸時代から400年以上の歴史があり、国の重要無形民俗文化財に指定されている「阿波人形浄瑠璃」。その舞台に登場する木彫りのからくり人形「阿波木偶(あわでこ)」を制作する「阿波木偶人形会館」の多田弘信さんは、経験約40年の人形師で、2代目人形健として活動しています。

 「師匠は父、現代の名工で初代人形健です。私は小学生の頃から父が作る人形を磨いたり、仏像の修理を手伝ったりしていたんです。23歳から本格的に取り組んだのですが、納得のいく仕上げができるまでに30年はかかりました」

 木偶人形は、ヒノキやキリから首(かしら)と呼ばれる顔部分をノミで切り出し、胡粉(ごふん)という白い顔料を塗り重ねます。顔には複数のからくりを施し、毛髪は人毛や馬の毛を使って一本一本、丁寧に結います。手や足は、体とひもでつないで関節がなめらかに動くよう、すみずみまで精巧を極めます。

 「浄瑠璃の人形さんは何十種類もあって、顔の作りも手足の大きさも違います。私は全ての工程を一人で担っており、完成までに半年はかかります。胡粉を30回も塗るので、100年くらいは持ちます」

 修復も手掛ける多田さんのもとには、全国から浄瑠璃人形が届きます。中には虫食いや乾燥で原型がわからないほど傷んでいるものもあるそうですが、その手でよみがえらせます。

 「当て木をして補い、塗り直すとまた100年使えます。木を使えば、どないでも直せるんですよ。修理は他の人形師が作ったものを扱うので、できた時の状態に戻す、自分の気持ちを入れないよう心掛けています」と職人魂をのぞかせます。

#chapter2

併設する資料館では国内外からの訪問者を迎え入れ、自らが工程などを案内

 浄瑠璃人形の特徴の一つは、ひもを操り喜怒哀楽を表現する複雑なからくりです。
 「阿波木偶は仕掛けが多く、目の動き、眉の上げ下げ、口の開閉、首の傾きなどで表情や情感を出していきます。例えば美しい娘の人形さんが、一瞬でまなこを見開き、口が裂け鬼の形相に変わります。見る人があっと驚くように、継ぎ目が見えないようにきれいに細工するのが腕の見せどころです」

 多田さんは、多くの人に木偶人形について知ってもらおうと、工房に資料館も併設。来場者に向けて、制作工程や目や口といったパーツを動かす仕組みを自ら説明しています。
 「父が自宅を売って建てたもので、1985年に開館しました。全国各地や海外から観光の方々が訪れますが、特に子どもさんや外国の方がからくりを見て喜ばれますね。作りかけの作品に触れてもらうこともできます。県内から社会見学で来た小学生は『またお父さんを連れて来る』と言って、リピーターになってくれることもあるんですよ」と笑顔を見せます。
 
 館内には約100体が展示され、記念撮影用のジャンボ頭や、顔が鬼に変化する過程を見学できる電動の大きな酒呑童子も鎮座。趣向を凝らしたオリジナルも創作し、披露しています。

 「ひもを引くと目や耳、舌から『大吉』や『小吉』が現れるおみくじえびすさん、左右に顔を揺らすお花の妖精、目玉が飛び出る人形など、おもしろいと思うものを自分で考えてこしらえています。現代の人にも阿波木偶に親しんでもらえたら、うれしいですね」

多田弘信 ただひろのぶ

#chapter3

さまざまな人形制作のニーズに応えるとともに、伝統技術を継承していきたい

 巧みな技で徳島県卓越技能者(阿波の名工)にも選ばれ、数々の人形を生み出してきた多田さん。近年では全国から寄せられるオーダーに応じ、さまざまな人形を請け負っているそうです。

 「『大阪の道頓堀のビルに飾るタヌキの人形をお願いしたい』という注文があったので、動物園で撮った写真を参考にして、試作を重ねて完成させました。他にも、子どもたちが操りやすいように軽い素材の発泡プラスチックで人形を作ったり、腹話術用の人形を作ったり。これまではなかったような依頼が10年ほど前から増えてきました」

 丹精込めた品で、地域における浄瑠璃や芝居文化の活性化もサポート。「デッサンしたイメージを木に写すと、どんな人形でも作れる」と語り、これからも幅広いニーズに応えていきたいと意気込みます。

 活躍の場が広がる一方で、時代の移り変わりと共に人形師は後継者不足に。多田さんは、伝統の継承にも協力したいと話します。
 「人形作りは、彫りや塗りなどいろいろな要素から成り立っていて、短い期間で習得するのは難しいです。『人生をかけて本気でやりたい』という若い人がいれば、私が持つ技術の全てを伝えたいと思っています」

 制作者として、そして伝承者として、阿波木偶の魅力を発信し続ける多田さん。「当方では、徳島へ遊びに来た方々に楽しんで帰っていただきたい思いで、たくさんのゆかいな人形たちと軽快な解説トークでお待ちしています。ぜひ、お越しください」と呼び掛けます。

(取材年月:2023年10月)

リンクをコピーしました

Profile

専門家プロフィール

多田弘信

伝統芸能を支えるからくり人形制作・伝承のプロ

多田弘信プロ

人形師

阿波木偶人形会館

伝統芸能である人形浄瑠璃の頭「阿波木偶(あわでこ)」を制作。工房も備える会館では、人形師自ら、軽妙な語り口でからくりの仕掛けや制作工程を解説。全国の浄瑠璃人形や、からくり人形の制作、修復も請け負う。

\ 詳しいプロフィールやコラムをチェック /

掲載専門家について

マイベストプロ徳島に掲載されている専門家は、新聞社・放送局の広告審査基準に基づいた一定の基準を満たした方たちです。 審査基準は、業界における専門的な知識・技術を有していること、プロフェッショナルとして活動していること、適切な資格や許認可を取得していること、消費者に安心してご利用いただけるよう一定の信頼性・実績を有していること、 プロとしての倫理観・社会的責任を理解し、適切な行動ができることとし、人となり、仕事への考え方、取り組み方などをお聞きした上で、基準を満たした方のみを掲載しています。 インタビュー記事は、株式会社ファーストブランド・マイベストプロ事務局、または四国放送が取材しています。[→審査基準

MYBESTPRO