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輸入原料が大部分を占める菜種油市場で、純系種子の生産から製法まで国産に取り組み続ける

菜種の栽培から搾油まで国産にこだわる精油のプロ

狩野道雄

狩野道雄 かのうみちお
狩野道雄 かのうみちお

#chapter1

松の薪で焙煎した伝統製法の国産菜種油

 国産菜種油を製造し70年以上の歴史を誇る「影山製油所」。代表を務める狩野道雄さんは、海外産原料を用いた製品が国内市場の大半を占める中、国産原料にこだわった製造を続けています。

 「当社では、採種した国産菜種を契約農家へ届け、圃場で生産された菜種を全て買い取って油にしています。原料を松の薪で焙煎し、圧搾機で丁寧に搾るなど、昔ながらの工程を今につないできました。そうした取り組みが評価されて、原材料名欄に『国産菜種』と表示することを許されており、昔から継続して選んでくださるお客さまも多く、料理の現場でも使っていただく機会が増えています」

 開花時期には原種隔離圃場にネットを張り、ハチなどによる他品種との交雑を防止。栽培を依頼した農家へ足を運びながら収穫した菜種を買い取り、製油工程に移します。菜種は直径約1.5mの平釜に入れ、火力の強い松の薪で焙煎し、その日の温湿度に応じて加熱時間と火力を調整します。搾油機で少量ずつ潰し、摩擦熱による品質の変化に配慮しながら搾っていきます。精製はお湯を混ぜて1週間置き、不純物を沈殿させる工程を2度行い、20枚重ねた和紙でろ過すると、落ち着いた黄金色を帯びた菜種油ができあがります。

 「国内では、かつて菜種に含まれるエルシン酸が問題となり、菜種油の印象が下がった時期もありました。しかし現在は、品種改良や品質管理の取り組みが進み、お客さまの受け止め方にも変化を感じています。原料由来のビタミンEが豊富なことや、日々の料理に使いやすい点が、選んでいただく理由の一つなのかもしれません。当社では『ななしきぶ』『キラリボシ』といった国産品種のみを扱っていますので、ぜひ試していただきたいですね」

#chapter2

チューリップ農家に生まれ農業指導員に。「国産の食」を支えたいと事業を継ぐ

 狩野さんは出雲市内のチューリップ農家に生まれ、ヤギと過ごすなど、幼い頃から農の営みが身近にありました。小学校の登下校前後にヤギを連れ、堤防で草を食べさせてから帰宅。朝と夕には乳を搾り、新鮮な味わいを楽しんだ記憶が残っています。

 「将来も農に関わる仕事に就きたいと、島根大学で花や野菜について学びました。卒業後は島根県の農業指導員となり、県内の農家を回って栽培技術や経営の知識を伝えてきました。とくに県立農林大学校での勤務が長く、学生と一緒に手を動かしながら技術を深めた時期でした」

 2009年に定年退職後は、しまね農業振興公社で農地を貸し出す業務に従事。就農希望者への農地の斡旋や国の補助金を活用した研修の実施など後継者育成にも注力しました。

 「影山製油所には以前から足を運んでいて、国産菜種を守りたいという前社長の思いに触れてきました。その熱意に共感し、2013年に入社しました。薪をくべる炉が老朽化していたときには、左官工に築炉を依頼するなど、当時からこの場所を支えたいと考えていました。『国産菜種の火を途切れさせてはならない』という気持ちは今も大切にしています」

 入社後は、受け継がれてきた技術を学びながら、原種隔離圃場の土づくりや原料確保に注力。代表となった現在は、地域との連携にも視野を広げ、国産菜種の生産体制を未来につなぐ役割を担っています。

狩野道雄 かのうみちお

#chapter3

「おいしい」の声が励みに。毎年4月には契約農家と催しを開催

 消費者との交流も多く、顔を合わせて「おいしい」「香りがいい」と言葉をもらえる瞬間が大きな力になるという狩野さん。なかでも、揚げ物をあまり口にしてこなかったという少女が、自社の油で調理した料理をうれしそうに味わっていた姿が印象に残っているといいます。

 「機械化によって生産量を増やす方法もありますが、品質に責任を持つためには、私たちの目が届く体制が欠かせません。当社の製品には、菜種を育ててくれた農家の名前も記載しています。一本一本に関わる人の姿が見える今のやり方を、これからも続けていきたいと考えています」

 菜種油は同社のサイトで購入できるほか、製油所を訪れれば狩野さんの説明を聞きながら直接購入することもできます。

 「近隣の保育園で給食に使っていただいたり、小学生が見学に訪れて搾りたてを味わったりする機会があります。大人になって『ここで味わった油をまた買いに来ました』と足を運んでくださる方もいるんです。油粕を肥料や飼料として生かす取り組みもあり、食の循環の一端を担いたいと考えています」

 毎年4月の第1日曜には契約農家の敷地を会場に「菜の花まつり」を開催。菜種油で揚げたサツマイモの天ぷらやフライドポテト、農家手製のおにぎりや豚汁がふるまわれ、周辺ではチューリップ畑や河川堤防の桜並木も見頃を迎えるとのこと。2026年は10回目を迎える見込みで、準備にも一層熱が入っています。

(取材年月:2025年11月)

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狩野道雄

菜種の栽培から搾油まで国産にこだわる精油のプロ

狩野道雄プロ

食用油脂製造業

有限会社影山製油所

純系の国産菜種を採種し、契約農家で育てた菜種を全量買い取って食用油を製造。昔ながらの圧搾法で仕上げ、原料由来の風味とビタミンEを活かしている。家庭でも使いやすいのが特長

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