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「居場所をなくした人を誰一人取り残さない」社会的弱者を人間的強者への伴走者を目指す

生きづらさを抱えた人の居場所をつくり人生を再び輝かせるプロ

杜宙樹

沖縄ダルク森代表
森さん2

#chapter1

依存症や精神疾患などをケアする「絆愛(はんな)こころクリニック」を開院

 2023年1月、青い海と空が広がる沖縄県中頭郡北谷町に、この地域では初となった精神科、心療内科及び精神科デイケアを備え、依存症など生きづらさのカウンセリングと治療、居場所の提供を行う「絆愛(はんな)こころクリニック」が開院。
 アルコールや薬物、ギャンブル、ゲームといったさまざまな依存症をはじめ、統合失調症、不安障害やうつ病、発達障害などがある人に、外来診療やデイケアで寄り添っています。
 
 運営するのは、県内外で生きづらさからの回復支援を行う「財団法人DARC大きな和」。設立者の杜宙樹(もりひろき)さん自身も回復者の一人で、本人や家族へのピアカウンセリング、コーチングでサポートしています。

 「教会の建物を利用したカフェのような雰囲気の院内では、医師による診療だけでなく、アートや音楽、運動、瞑想といったセラピーも実施しています。ほとんどのメディカルスタッフが、なんらかの心の問題を抱えながら立ち治ってきたリカバリング当事者。白衣や制服姿ではなく、利用者さまと同じ目線で、心許せる居場所づくりに力を注いでいます」

 杜さんらのもとでは、同クリニックのほかにも、県内と鹿児島に拠点を置き社会的弱者を支える4団体と、グループホームや訪問看護ステーション、生活訓練施設など7事業を営んでいます。

 多様なセクシュアリティを持つ“LGBTQ+”や精神疾患など「助けを必要としているのは依存症の人だけではない」と、2020年には、就労支援施設「NEW REVIVAL ACADEMY」を宮古島に設立。家庭や社会以外の第三の場所として、仲間と共同生活をしながら、段階的に社会との関わりを取り戻すための拠点となっています。

#chapter2

第三の人生をかけて、同じ苦しみの中にある人に手を差し伸べ、明るい方へと導く

 20代から30代半ばまで、杜さんが陥った薬物とアルコールへの重篤な依存。家族や財産、信用も全て失った暗闇の中から、ダルクでの回復プログラムをきっかけに新たな光を見いだします。

 現在の道へと己を突き動かしたのは、「同じ苦しみの中にある人に手を差し伸べ、明るい方へと導くこと。それが、一人の人として生きなおすことができた者の責務」との思い。
 スタッフとして赴いた沖縄ダルクでは、約15年の間に延べ1500人ものケアに携わりました。

 自らの「第三の人生をかけて」取り組む北谷のクリニックと宮古島のアカデミーは、偶然にも長く祈りの場であった建物の一部にあります。

 「暗闇にうち沈んでいた頃は、仮面をつけたままのような生き方の自分が好きになれませんでした。今でも、ふとしたことで後戻りするのではという不安は皆無ではありません」
 
 杜さんの穏やかな毎日は、「苦しみもがいてきた過去があるからこそ、ほかの誰でもない今のあなたがある」と繰り返し投げかけてくれる、パートナーの言葉に支えられていると言います。
 彼女もまた、心の問題を克服してきた同じ痛みを持つ同士。互いを認めあいながら、杜さんの個人的な活動の片翼を担っています。

 「人は、ありのままの自分を受け入れてくれる人の心を通して、周りの人や社会、自然とつながることができると知りました。利用者さんや仲間たちと触れ合い、みなさんの力になることで、私自身も生涯付き合っていくべき心理的な課題に向き合うことができているのかもしれませんね」

沖縄ダルクの玄関

#chapter3

祈りの場が、周りの人や自然とつながり自分を取り戻すための出発点に

 「宮古島の美しい海を臨む古い修道院に導かれるように、念願のアカデミーを設けることができました。この場所が、傷ついた心を休め、自分を取り戻すための出発点となれるよう大切に形作っていきたい」と語る杜さん。

 1万9000坪の広大な敷地には、EM(有用微生物群)農法の農場や牧場、養鶏・養蜂場などを開き、依存症の回復者や、精神障害などによって一般就労が難しい人の訓練や学びの場に活用。性別や年齢、障害に関係なく、居場所をなくした人たちを広く受け入れ、仲間や自然との共存を目指します。
 
 また、「誰一人として取り残さない」を目標に掲げ、保護犬、保護猫と一緒に暮らせるペット共生型グループホームや、LGBTQ+の人のための専用ハウスなど、それぞれの状況やニーズに合わせた福祉サービスも展開しています。

 60代の節目を迎え、個人としても次なるステップに歩み出そうとしています。「長い時間をかけて得た生きる意味や、社会とのつながりについての気づきを、迷いの渦中にある人のために提供したい」と、心豊かな生き方を伝えるライフコーチとしての活動もスタート。
 思いを同じくする公認心理師・精神保健福祉士であるパートナーとともに、魂や自然への回帰を図る試みで、新しいケアの形を探ります。

 「どんな自分でも受け入れてくれる存在があれば、人は何度でも立ち上がることができます。人生を再び輝かせるために、私たちがそんな存在になります」と、南国の日差しのような明るい笑顔で呼び掛けます。

(取材年月:2023年6月)

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専門家プロフィール

杜宙樹

生きづらさを抱えた人の居場所をつくり人生を再び輝かせるプロ

杜宙樹プロ

カウンセラー・コーチ

一般財団法人DARC大きな和 絆愛(はんな)こころクリニック

依存症や性的マイノリティ、精神障害.貧困、DVなどさまざまな理由で居場所を失った社会的弱者を医療的ケア、福祉サービスでの就労支援、居宅・相談支援、カウンセリングやコーチングなどのアプローチでサポート。

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