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斜面防災に携わって半世紀 住宅の石垣など石積み補強工事にも尽力

斜面防災に実績を持つ石積み補強のプロ

靏田良二

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#chapter1

地震や豪雨などで傾斜面が崩落するのを防ぐ法面工事で、豊富な実績

 三方を山に囲まれる形状から、坂の街として知られる長崎市。高低差が生み出す美しい景色を楽しみに、他府県から足を運ぶ人も少なくありません。しかし、そこで起きている斜面災害について知る観光客は多くないでしょう。

 「経年劣化した斜面が地震や豪雨で崩れ、人が被害に遭うケースが後を絶ちません。また、個人宅の石垣などが道路側に崩れ落ちて交通を妨げ、何千万円という補償を求められたケースもあります。そこにあることが当たり前になっていた『壁』が、日常を壊す瞬間を私は見てきました」

 凄惨な光景を思い返し、苦しさをにじませて語るのは、雲仙市で土木事業を営む「ケイテク」の靏田良二さん。県内の防災公共事業などで法面工事を手掛けてきた、斜面補強のプロです。

 法面工事とは、盛り土で作った人口的傾斜面や、山の側壁といった自然斜面の落石や地滑りを防ぐもので、道路や家屋を始め、さまざまな建設現場で用いられています。時にはロープ1本で急斜面を登りながら直接施工することもあり、危険性も専門性も高い業務。靏田さんは、専門学校卒業後に地元の建築会社に入社して以来、約44年にわたり斜面防災に携わってきました。

 「実績のあるところにおのずと依頼も集中し、その数に比例して背負うものも大きくなります。プレッシャーではありますが、私にとってはそれが励みにもなっている。責任が重いほど成長できると思ったので、独立に踏み切りました」と靏田さん。

 「食べていくためだけに働くのではつまらないでしょう。やりがいがないとね」と明るく笑います。

#chapter2

現場の根底にあるのは仲間との信頼関係 後進の育成で業界に恩返しをしたい

 30cm以上もある岩が崖上から自分の真横に落下してきたこともあり、肝を冷やす場面は珍しくないと話す靏田さん。常に危険と隣り合わせですが、辞めたいと思ったことは一度もないのだとか。

 「防災工事のように大規模な案件は、いくつもの会社や事務所から人員が集められ、力を合わせて作業にあたります。結局は信頼関係がものをいうんですよね。長い間この世界でやってこられたのは、私に声を掛けてくれる元請けの方々がいたからですし、私が取り仕切る現場の場合は協力してくれる皆さんがいたから。一人ではできないからこそ、いつも周囲の人のありがたみが染みます」

 靏田さんの業界に対する感謝は、日々の取り組みにも表れています。テクノロジーが日進月歩で進化する建築・建設分野において、良いと感じたものはすぐに勉強して採用。「技術は使えるようになるだけでなく、極めて、普及させることが大切」と考えていることから、若い人材を積極的に雇い入れ、自分が培ったノウハウをあますことなく教えています。すべては、後進を育てるためだと熱を込めます。

 「土木業はきつくて、いわゆる〝3K〟だなんて揶揄されていたこともありましたが、今は土日休みが基本ですし、需要も高いので頑張った分だけ自分に返ってきます。腕がある人はどこに行っても重宝され、独立もしやすく将来性もある。この仕事の良さを伝えていくと共に、業界の未来に貢献できる人間を一人でも多く輩出して恩返しをしたいですね」

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#chapter3

石積接着補強工法(モルダム工法)で、今まで困難だった狭い場所の工事が可能に

 防災工事の第一線で経験を積んだ靏田さんは、人々の生活に身近な場所にある、石垣などの石積み補強に注目。近年開発された石積接着補強工法(モルダム工法)を習得するために、一早く石積み災害防止工法研究会に加入し、現在は長崎支部長を務めています。

 「石の隙間に特殊充填剤を注入し、内部を接着させるモルダム工法は、建て替えとは異なり、景観を保ったまま強度を上げることができる画期的な手法です。中でも特筆すべき点は作業スペースの狭さです。たった1mの道幅があれば施工できるので、ミキサー車の入れない住居裏や急傾斜地、河川護岸ブロックなども対応可能になりました」

 高い有効性が認められ、補助金や融資制度の対象となっている自治体もあるそうです。

 「県内でも、内部に空洞がある危ない石垣をよく目にします。一番わかりやすい崩落サインは中央の膨らみで、見つけた際は早めに対処する必要があります。兆候がなくても、調査・見積もりは無料なので、『とりあえず一回見てもらおうか』くらいの気持ちで呼んでください」

 多忙を極めながら今も現地に赴き、自ら実務をこなす靏田さん。人の命を守る仕事に意義を見いだし、使命を抱いていることが原動力になり、自分を突き動かしていると言います。

 「交通事故は気を付けていても起きてしまうことがあるけど、防災工事はやっていたことで防げた事故がある。いわば守りの技術なんです。みなさんが不安なく過ごせるよう、これからも技能を磨いていきたいですね」

(取材年月:2022年11月)

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専門家プロフィール

靏田良二

斜面防災に実績を持つ石積み補強のプロ

靏田良二プロ

土木管理者

株式会社ケイテク

斜面防災工事の現場に立ち続けて約44年。確かな技術力と洞察力を持ちながら、新しい技術の習得にも積極的。現在は石垣等の石積み補強に注力し、石組み災害防止工法研究会では長崎支部長を務める。

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