文化や歴史を背景に人々の思いを中心に建築設計を行うプロ
平井良祐
Mybestpro Interview
文化や歴史を背景に人々の思いを中心に建築設計を行うプロ
平井良祐
#chapter1
建築家の平井良祐さんは、京都市内で「HANA architects&associates 一級建築士事務所」を主宰。店舗や飲食店などの小さなスケールの設計から、共同住宅や学校校舎などの大きなスケールの設計も手掛けています。
「施主自身がどういう思いでこの空間を作ったのかを話せる建築にすることをモットーに設計しています」
ヒアリングでは、施主との何気ない雑談からキーワードをすくい上げ、設計の方針を決めます。
「とある飲食店の設計で、テナント内で屋台をコンセプトに店舗を考えたいという話をいただきました。『屋台とは何か』について話し合い、『屋外』『客同士の距離感』『暖簾をくぐる』『勾配屋根』など、屋台を体現する状況や行為を言語化・抽出し、設計を行いました」
平井さんは、入り口に扉を設けず前面歩道から店内が連続する計画とし、店内は全てカウンター、天井からは屋根を吊り、暖簾をかけ、テナント内でありながら屋外屋台に居るような空間に仕上げました。
他にも、大阪市内に曼荼羅をコンセプトとしたサロンを計画したり、京都市内に古民家の様相を取り込んだレストランを計画したり、文化や歴史を取り入れた案件も。
「建築は文化や歴史にも依存します。人々はこれまで培ってきた文化の中で、無意識的に発動する感覚を遺伝子レベルで持っています。例えば日本人は森に囲まれた神社を訪れた時、何か心の中で感じるものがあると思います。また、建築は歴史が積層された都市の中にあります。そのため特に建築の外観は、都市の文脈を読む必要があります。このように外的環境もコンセプトと共存させながら設計をすることも大事にしています」
#chapter2
平井さんは京都大学工学部建築学科に進学、同大学大学院を修了後は各国の建築を見るために海外へ渡ります。アジア圏を中心に、中東、ヨーロッパ、アフリカへ。1年間で36カ国を巡った中での大きな収穫は、建築よりも文化とそこに根ざす人という存在の偉大さでした。
「いち日本人ということと建築を学んできたことだけを持って海外を渡り歩けるのか、自分というものが試されていました。しかしどの国でも現地の人々は仲良くしてくれて、家に泊まらせてくれたり、街を案内してもらえたり。この旅で、人との対話とお互いの理解が何より大切なのだということに気付かされました」
建築とは、訪れる人々とその人々を取巻く環境や歴史によって成り立っていくものだと感じた平井さん。
「『建築=architecture』には人・場所・文化・歴史・環境全てを含み、ただの物質としての建築は『建物=building』となってしまいます。『建築』を設計する建築家の職能は、建物の構造原理を熟知することはもちろん、その建築がある場所や環境、文化や歴史を内包したその建築を取巻く人々のことを理解することがより重要なのです」
建築家として自らの指標を見いだし、帰国後3年間、アトリエ設計事務所で修業の後、2016年に独立しました。
#chapter3
平井さんは学生時代から「ゆくゆくは海外で仕事をしたい」という思いがありました。
「学生の頃、資本主義によって世界各地の大都市の様相が近代化の過程で均質化されたことを知りました。例えば東京でも上海でもバンガロールでもケープタウンでも、同じようなビルが立ち並びます。そんな都市のあり方から脱却できないかと、卒業設計では新たなオフィスビルのモデルを考え、オフィスを利用する人によって用途が生成されるような場を設計しました」
平井さんはそもそも用途の生まれ方に違和感を持っていたようです。
「例えば、河川敷に木があったとします。天気の良い日は心地よい木陰ができ、そこでコーヒー片手に友達と喋ったり、本を読んだり、休息をとる人々が現れます。そこに椅子を置くとどうなるか。まさにそこでは『カフェ』という用途が生まれていると思うんです。本来用途とは、ある場の力により、そこでの人々の行為が繰り返され慣習化し、その行為の濃度により現れるものなのです。これが本来の場の生成の仕方だと思います」
一方で、近年めまぐるしく発展・成長する技術革新にもアンテナを張り、今後の人々の変化も考えているそうです。
「最近注目をしている場所としてアフリカ、特にケニアのナイロビがあります。実は先進国よりも既得権益が少ない分、キャッシュレス化が進んでいたりドローンの普及もしていたりと、技術の浸透が速いんです。今後アフリカの各地でこのような現象が起こっていきます。基盤がまだ不安定なアフリカでは、これから都市をデザインできる可能性があるんです」
文化や言葉を超えて世界を旅した平井さんだからこそ、自身の思い描く場の生成原理で建築や都市のデザインができる日は近いのかもしれません。
(取材年月:2023年9月)
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Profile
文化や歴史を背景に人々の思いを中心に建築設計を行うプロ
平井良祐プロ
建築家
HANA architects&associates 一級建築士事務所株式会社
これまで数多くの文化圏・宗教圏の人々と出会い対話してきました。建築は、まず人を知ることが重要で、その上に場所や環境、歴史などの条件が付加して成立します。そこに建築の本質があると思います。
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