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割れてしまった器を丁寧に繕い、もう一度日常へ。金継ぎでつなぐ思い

器をより味わい深いものに修理する金継ぎのプロ

生田健介

生田健介 いくたけんすけ
生田健介 いくたけんすけ

#chapter1

金継ぎによる修理を手掛け、兵庫、東京、神奈川で教室も開講

 「割れたり、欠けたり、ひびが入った陶磁器に再び命を吹き込みます」と話すのは、「ちまはが」の生田健介さん。破片を漆でつなぎ、金粉や銀粉をまく金継ぎを手掛け、兵庫県西宮市と東京都渋谷区、神奈川県鎌倉市で技法を手ほどきする教室も開講しています。

 「金・銀の金属粉で装飾する蒔絵(まきえ)のごとく、継ぎ目が模様として現れる金継ぎは、アート的な側面はありつつも修復なので、自分の腕だけで勝負する世界だと感じています。使用する上での堅牢さや実用性の理論に基づいて取り組むことに重きをおいています」

 形状を合わせて微細な傷を埋め、乾燥により定着。手間と工数を要するのが特徴だと言います。

 「作業は10時間から20時間ほどで、待つ時間が長いので工程を終えるのに通常2、3カ月ほどかかります。破損状態によっても変動するので、お渡しまでに6カ月前後を想定してもらう場合もあります」

 顧客は料理や器が好きな40代~60代の女性がメインで、思い入れのある品が多く寄せられます。返送する際は、本来捨てるはずだった器が日常に溶け込み、愛用されることを願ってやまない生田さん。最近では海外でも「Kintsugi」として注目され、国外から引き合いがあります。

 「結婚記念日に、修理した器をパートナーにプレゼントしたいというご要望でした。ご夫婦のこれまでのストーリーがつづられたメールをいただき、私も器に思いをはせながら手を施したのを覚えています。お客さまの手元に届いた時にも感謝の言葉を頂戴し、改めてこの仕事をしていて良かったと感慨にひたりました」

#chapter2

大学時代にお茶の習い事を通じて出会った金継ぎにひかれ、本業へ

 大学時代、お茶を習っていた生田さん。師事していた先生を通じて金継ぎの存在を知ります。

 「先生がお稽古に用いる器の中に金継ぎが施されているものがありました。完全とは異なる味わいがあってすてきだなと興味をひかれ、いつか機会があればやってみたいと心に留めおきました」

 社会人になり、生田さんは東京の出版系の会社に就職。ある日、知人からもらった陶器を愛猫が蹴って落とし真っ二つに。

 「割れた姿を見て今がチャンスの時だと捉え、独学で金継ぎを始めました。趣味の一貫でしたが、コロナ禍に入ってからは家にいる時間も増えたので、ネットショップに副業のような感覚で修復したものを出品したところ、問い合わせが殺到したんです」

 以来、帰宅すると徹夜で器と向き合う生活が続きます。数々のオファーを受け、次第に本業として考えるようになり、金継ぎに集中すべく一念発起して会社を退社。2021年に「ちまはが」を立ち上げます。

 当初は修理のみを請け負っていましたが、接着から塗りを重ねて漆を固め、完成までに月日を費やすことから、時間の使い方を検討するようになります。

 「お直しだけではなく、別の手だてでお客さまのお役に立ちたいと模索し、教室を開くことにしました。金継ぎ師さんの中でもレッスンしている人が多いことを知り、自分もとりあえずやってみようという気持ちで始めました。最初は1人、2人くらいしか生徒さんがいなかったのですが、今では50人ほどの方に通っていただいています」

生田健介 いくたけんすけ

#chapter3

金継ぎのキットを販売し、手順を解説するオンライン講座も展開

 生田さんは、傷んだ物を繕い、大事にいつくしむ慣習を次代に引き継いでいきたいと、金継ぎの道具や材料を販売するオンラインサイトを運営。気軽に参加できるようにワークショップを開催したことも。教室も好評で数多くの申し込みが入るようになり、裾野をさらに広める試みとしてオンライン講座も展開しています。

 「場所にとらわれず、初心者でも金継ぎを学べるように必要なアイテムがそろったキットを送付し、基礎から分かりやすく手順を解説するカリキュラム動画を配信しています。ご自身の手で壊れた箇所を直し、お気に入りの一品を楽しんでもらえればうれしいですね」

 金継ぎ師としても意欲的に活動。マグカップや湯飲み、急須、おわん、お皿、置物とさまざまな品を手入れし、Instagramで紹介。投稿された写真を見て、「きれいな仕上がりだから」と依頼が舞い込むこともあるそうです。

 傷跡をあえて残し、それを「景色」としてめでることで、個々の思い出や家族の歴史が刻まれていくのが金継ぎの魅力です。生田さんは、偶然が作り出す唯一無二の表情を脈々と伝えていくことを目標としています。

 「形あるものですから不具合が生じるのはさだめ。愛着があるからこその勲章であり、再生して日々の暮らしに取り入れていただくことが私の本望です。大切な器があれば、末永く使えるようにしっかりと美しくお直しします。新たな記憶を紡いでいくお手伝いをしますので、損傷してもあきらめずに、ぜひご相談ください」

(取材年月:2025年4月)

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専門家プロフィール

生田健介

器をより味わい深いものに修理する金継ぎのプロ

生田健介プロ

金継ぎ師

合同会社ちまはが

金継ぎで器が日常にもう一度戻れるように“修理”として向き合うことを大切にし、より味わい深いものに仕上げます。オンラインの活用にも力を入れ、金継ぎに興味をもつ人がアクセスしやすいコンテンツを作ります。

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