働く人に寄り添い職場環境を整えるプロ太田秀明

働く人に寄り添い職場環境を整えるプロ

太田秀明

メンタルケアだけにとどまらない広い視野の従業員支援

　「ジャパンエンタープライズ」が提供するEAP（Employee Assistance Program/従業員支援プログラム）は、企業で働く人のメンタルヘルスや職場環境の改善を支援する仕組み。アメリカでは業務パフォーマンスの向上や組織改革など幅広い目的で活用されています。

　「当方では組織全体の健全化を目指し、ハラスメントや人間関係の改善、制度や環境の見直しなど、個人と組織の双方を支えるプログラムを設計します」と話すのは、代表取締役CEO 兼 EAPコンサルタントの太田秀明さんです。

　同社は経営者や人事担当者が抱える人材・労務課題の解決を包括的に支援。2022年改正の、いわゆる「パワハラ防止法」に対応したコンサルティングや社内研修、ストレスチェック、カウンセラー派遣、社外相談窓口の設置などを行っています。プログラムは対面とオンラインを使い分けて実施。東北や九州など、全国にクライアント企業を抱えます。

　「精神疾患での労災認定件数の増加や、若手社員の早期離職、働き方改革への対応といった経営課題を自分事としてとらえきれていない企業や、対策に迷う中小企業は多いのではないでしょうか。労働環境の悪化や離職の原因になりえる“組織の常識と現在の社会の常識”のずれをチェックし、助言と調整を行うのが私の役割です」

　経営者としての経験も豊富な太田さんは、会議は30分程度に短縮、残業や休日出勤もほぼゼロ、年間休日は131日（2025年度実績）、社員それぞれの事情に応じて在宅勤務も許可するなどと、過去の常識に捉われない組織体制を形成し、社員への指導や教育方法も現社会の常識と合わせていった結果、大幅な業績向上と低離職率を実現。こうした体験から、信頼と自主性を尊重する労働環境づくりを提案しています。

波乱のキャリアの先でたどりついた「相談できる誰か」になる夢

　太田さんの起業の背景には、自身の波乱万丈な歩みがあります。
　東京都江戸川区で生まれ、5歳の時に群馬県に家族で引っ越してきました。中学時代には、いじめによる登校拒否も経験。地元の高校を3カ月で退学後に東京の高校に再入学し、学費や生活費をアルバイトでまかないながら大学進学を果たしました。
　その後は大手出版社に入社するも、1年で退職。転職先の大手派遣会社では、入社時から朝6時に出勤して夜10時で帰る日々が続きました。土日に出勤する事も多く、入社3年目に体調に異変が現れ、内科を受診。症状が改善せず精神科を受診すると、パニック障害と診断されました。
　病と闘いながら、営業所長職や本社の派遣管理業務に携わりましたが、リーマンショックを機に会社側から勧奨退職を迫られます。結局、自身で群馬県高崎市に人材派遣会社を起業。しかし、順調に進んでいた会社も、2011年の東日本大震災による業績悪化、ビジネスパートナーの急死など、試練が続きました。そこで、一度立ち止まり、もう一度学び直すべく会社を休業させて、中堅の派遣会社に転職しました。太田さんの能力の評価は高く、わずか1年で営業所長となり、派遣・請負業務及びマネジメント経験を再度積みました。

　2017年にEAPコンサルタントの認定を取得すると、ファイナンシャル・プランニング技能士、メンタル心理カウンセラー、メンタルヘルス・マネジメントⅡ種、第一種衛生管理者など多彩な資格を取り、知識と実務経験を組み合わせた従業員支援の専門家として活動を本格化させてきました。

　「私自身、抱えきれない不安に直面し、誰かに相談したいときに話せる相手がいなかったのです。いないなら、私がその“誰か”になろうと考えました」

「埋もれず、声を上げて」　悩みながら働く人へのメッセージ

　「働く人が、会社のハラスメントや長時間労働を強いられたりして困ったとき、どこに相談すればいいのか分からないという声は少なくありません」と太田さん。
　これまで同社のEAPサービスは企業との契約が中心でしたが、今後は個人からの相談にも積極的に応じていく方針です。Zoomや電話を使えば全国どこからでも相談でき、直接会うことに不安がある方や、多忙で移動が難しい方にも対応可能。

　「労働基準監督署は専門的な指導や是正勧告を行える一方で、個人が自分で状況を整理し、証拠を揃えてから相談しなければ対応が難しい場合があります。弁護士事務所は費用や敷居の高さが障壁となり、電話相談では話は聞いてもらえても、具体的な解決策まで結びつかないこともある。そうした中で状況の整理から伴走し、現実的な解決策まで導けるのがEAPだと思っています」

　「辛いときは、逃げてもいい。逃げるのは生き物にとって、生きるための行為です。まずは自分を守って、そこから一緒に道を探しましょう」
　誰もが安心して働ける環境づくりを理念に掲げ、太田さんは組織と個人をつなぐハブとして新たなステージに踏み出しています。

（取材年月：2025年8月）

「働きにくさ」を生む組織の常識と社会の常識のずれをチェックし調整

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