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認知行動療法と実践的訓練により障がいや難病を抱える人の就労を支援

障がい者や(国指定)難病罹患者の就労から定着を支援するプロ

齋藤康生

齋藤康生 さいとうやすお
齋藤康生 さいとうやすお

#chapter1

精神科勤務20年以上の経験を生かした認知行動療法ベースの支援とリアルな仕事体験

 障がいや難病を抱える人にとって「働き続けること」には、多くの壁があります。就職できても人間関係や体調管理に悩み、継続が難しいケースも少なくありません。そうした課題に寄り添い、就労の入り口から定着までを支えるのが、就労移行支援事業所「A-Run(アラン)」代表の齋藤康生さん。精神科病棟で20年以上勤務した経験を生かし、認知行動療法を基盤にした支援を実践しています。

 「どんな仕事に就くにしても、人間関係が重要です。あいさつや雑談など職場でのちょっとした場面でも、悲観的にとらえたり誇大的に受け止めたりしてしまうと、関係が悪化してしまいます。自分の内面とうまく付き合うことが大切なのです」

 個別面談を通じて認知のゆがみを探り、「コラム法」という手法を用いて自身で「思考のくせ」を整理できるよう導きます。

 もう一つの特色は、実際のビジネスを想定した訓練環境です。かつて銀行だった建物を活用し、広い空間に複数の業務シミュレーションスペースを設置。利用者は多様な業務を体験できます。さらに、障がい福祉の現場で開発されたeラーニングシステムを導入しており、初心者でも基礎から学べる仕組みを整えています。パソコン技能検定「サーティファイ」の試験会場としても認定されており、慣れた環境での受験が可能です。

 加えて、独自のプロジェクト方式の訓練も実施。例えば「一人暮らしのための冊子作り」といった課題を利用者同士で分担し、チーム編成や段取り、意見調整を含めて企業で求められる協働力を養います。意見の食い違いをどうまとめていくかも訓練の一環だとか。
 通所が難しい人には在宅でのオンライン訓練も用意し、場所や体調の制約に左右されない、継続的な学びの実現をかなえます。

#chapter2

当事者としての経験が生む寄り添いと「失敗を恐れない」姿勢

 齋藤さんは陸上自衛隊勤務を経て看護学校へ進学。循環器内科や泌尿器科で10年、さらに精神科病棟で20年勤務しました。当時の精神科には、症状は安定しているにもかかわらず家族の事情や住居の事情で退院できない「社会的入院」を余儀なくされる患者が多くいたと振り返ります。

 「社会とつながるための支援が必要と痛感したことが、起業の原点です。生活基盤を整え、働くことにつながる支援がしたいと考えました」

 その後、齋藤さんは自身が腰椎疾患の後遺症で杖歩行となり、強度弱視の視覚障害も負いました。一時は自信を失ったものの、時間をかけて障がいを受け入れる中で「自分も当事者」として寄り添える強みを得ました。現在は障がい者スキーにも挑戦し、年に20回以上スキー場に足を運ぶほど。転んでも起き上がり挑み続ける姿を動画サイトで発信し、多くの人に勇気を届けています。
 「障がいがあるから何もできないと自身の可能性を狭めてしまっている方も少なくありません。だからこそ、動画ではあえて転んで失敗した姿もそのまま見せています」

 「失敗から生まれるものは成功」と齋藤さん。本人のやりたいことや考えを安易に否定せず、主体性を尊重する姿勢を徹底。「一日一回は笑いを取る」をモットーとし、楽しさを大切にした雰囲気づくりも欠かしません。

齋藤康生 さいとうやすお

#chapter3

高い専門性を持つスタッフとともに就労から定着まで丁寧に支援。難病支援にも広がる挑戦

 齋藤さんのもとでは、企業見学や県の短期職場実習制度を活用し、多様な業種を経験できる機会を提供。一人一人が自分に合う仕事を探すきっかけづくりをしています。

 「『自分にはこの仕事しかできない』と先入観を持っている方もいますが、実際には多くの選択肢があります。実習を通じて視野を広げてほしいのです」

 就職先は、市役所や銀行、医療機関、テレビ局、ホテル、ビル管理会社、農業法人などさまざま。就職活動では職員が面接に同行し、企業側に支援体制を説明することで疑問や不安点の解消に努めています。就職後も最大3年6カ月の定着支援を実施し、定期面談を通じて課題に対応します。

 「例えば、発達障がいの方のスムーズな通勤方法を一緒に考えたり、金銭管理をサポートしたりと、生活面に踏み込んだ支援も行っています。てんかんの持病がある方が就職した際には、企業さまに発作の特性を丁寧に伝え、安心できる環境づくりに尽力しました」

 スタッフの専門性の高さも強みで、社会福祉士やキャリアコンサルタントが在籍するほか、半数以上がジョブコーチ資格を保有。さらに、研修や勉強会で常にスキルアップを図り、医療機関や家族からも厚い信頼を得ています。

 今後について齋藤さんは「難病の方の就労支援をさらに進めたい」と話します。
 「障がい者雇用枠の制度はありますが、難病の方は一般枠で就職することが多く、支援制度が十分ではありません。専門的に取り組んでいる事業所も少ないのではないでしょうか。医療機関と連携しながら、難病の方も安心して働ける仕組みを築いていきたいですね」

(取材年月:2025年9月)

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専門家プロフィール

齋藤康生

障がい者や(国指定)難病罹患者の就労から定着を支援するプロ

齋藤康生プロ

就労系障害福祉サービス

株式会社A-Run(アラン)

精神科医療に携わった経験と、自身も障がいを抱える当事者であることを強みに、認知行動療法と実践的訓練を融合。利用者の主体性を尊重しながら就労から定着まで寄り添うとともに、雇用先企業へのサポートも行います

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