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令和時代の町の写真屋が提案する、新しい写真との関わり方

思い出をカタチに。写真の新しい愉しみ方を提案する専門家

鈴木貴美子

鈴木貴美子 すずききみこ
鈴木貴美子 すずききみこ

#chapter1

整理サポートやフォトブック作りなど、写真を軸にした柔軟なサービス展開

 名古屋市にある「タクミカメラ」は、戦前から続く老舗の写真店。カメラ機器販売から始まり、写真の現像や建築写真撮影など、時代のニーズに合わせて事業を拡大してきました。現在もしなやかに変化し続けながら町の写真屋として地域に寄り添っています。

 「スマートフォンの普及で手軽に写真を撮れるようになった一方で、現像して手元に残す文化は失われつつあります。見返すことで、その瞬間を追体験できるのが写真の魅力。写真との関わり方を見直す機会を届けられたらと思います」
 そう語るのは鈴木貴美子さん。3代目店主でありカメラマンである夫の慎二さんと共に店を引き継ぎ、新しい顧客体験を提供しています。

 例えば幼稚園や小学校や旅行会社に出向いて行う出張講座では、カメラの構え方やピントの合わせ方など使い方の基本を伝えるだけでなく、愉しい写真の撮り方と見返し方、日常生活での写真の活用方法まで伝えています。

 また、写真整理上級アドバイザーとして、顧客の性格やライフスタイルに合わせた整理方法を探る写真整理相談も展開。さらに、依頼者に代わり写真を見返しやすいカタチにするフォトブック・アルバム代行作成サービスもスタートしました。
 「家じまいを機に、長年住んできた家の写真でフォトブックを作りたいとのご相談を受けたケースもあります。建築写真を撮り続けてきた店主が、思い出の品々とともにお家を撮影させていただき、私が依頼者から預かったデータも織り交ぜながら、ご家族の営みが感じられるフォトブックを作成。今後も、大切な思い出をカタチに残すお手伝いとして、撮影からフォトブック作成まで一気通貫でサポートできるオススメのサービスになればと思っています」

#chapter2

臨床心理士+写真屋へ。被災地の話から知った、思い出をカタチにする写真の真価

 今でこそ写真の魅力を伝えることに情熱を注ぐ鈴木さんですが、もともとは家業を継ぐつもりはなかったといいます。

 「父は建築写真撮影、母は現像と店頭対応に大忙し。慌ただしい両親の姿を見て育ったので、家業にネガティブな印象がありました。そこで私は臨床心理士資格を取得し、心理職の道を選びました」

 しかし、父が思いのほか早く他界。実家に戻ると、かつての賑わいは一変。デジタル化が進み、現像を依頼する人は激減。店を継ぐと決意してからも、自らの役割を模索する日々が続きます。そんな中で転機となったのが、著名な写真家が語った被災地の風景でした。

 「DVDやCDが瓦礫として散乱する中、写真だけは「大切なもの」として拾い集められ、ボランティアの方々による写真救済プロジェクトが始まったそうです。1枚の写真が持ち主のもとに戻ったとき、持ち主の方は本当に喜ばれたと。写真が持つ力を最大限にするには、カタチに残すことだという話を伺って、町の写真屋の存在意義を再確認し、写真の持つ力を最大限にするお手伝いを続けられたらと思いました」

 以来、写真の本質的な価値を伝える取り組みへと舵を切り「写真のある生活」を提案するようになります。

 「写真の良さは、自分を外から見返すことができること。育児に不安を抱えるお母さんが、写真に写った"わが子に向ける自分の笑顔"を見て、『不安は尽きないけれど、この笑顔の瞬間があるなら、何とかやっていけそうと思えた』という話を聞いたことがあります。ぜひ、整理して見返しやすいカタチで手元に置いて、時に触れ、見返して欲しいですね」

鈴木貴美子 すずききみこ

#chapter3

臨床心理士の知識が融合する「自分を知る」写真ワークショップ

 「写真には自分が写し出される」。そんな気づきをカタチにしたのが、心理学の知見を生かした鈴木さんのワークショップです。写真を気づきと対話のツールとして活用し、自分を知る機会を提供しています。

 例えば「自己理解ワーク」では、日ごろ撮っている写真の中からお気に入りの写真を持ち寄り、並べたり、タイトルを付け合ったりします。「選ぶ」「並べる」「見返す」ワークを通して、自分への気づきが増えるだけでなく、他者からの視点にも気づくことができ、自分の世界の捉え方を拡げることができる仕組みです。

 「写真という間接的な媒体があることで、客観的に意見しやすくなるため対話が促され、お互いの視点や価値観を知るきっかけになります」

 家庭でも、写真は会話を生み出す存在です。1枚の家族写真を通して生まれる「愉しかったね」というやりとりが、家族のつながりを記憶する機会となり、心の成長にポジティブな作用を与えることも。鈴木さんは「こうした体験の積み重ねが、家族の絆をより強く育んでいく」といいます。

 「記憶は薄れてしまうものですが、その瞬間を捉えた写真を見返すことで愉しかった出来事を思い出すきっかけになる。家族旅行の思い出など、親御さんのスマートフォンに入れっぱなしにするのではなく、ぜひ家族みんなが見返しやすいカタチにして時おり見返してほしいですね」

(取材年月:2025年7月)

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Profile

専門家プロフィール

鈴木貴美子

思い出をカタチに。写真の新しい愉しみ方を提案する専門家

鈴木貴美子プロ

写真店

合同会社タクミカメラ商会

写真の現像や撮影に加え、写真整理サポートやフォトブック代行作成など多彩なサービスを展開。心理学の知見を生かし、写真を活用した自己理解や他者理解ワークも実施中。自分を写す“写真”の本質的な価値を発信する

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