PROFESSIONAL
STORIES

Mybestpro Interview

“ものづくり”の老舗が、使いやすくアップデートした銀粘土「Morin」を展開

銀粘土の生産を守り、品質を高めて販路拡大を目指す専門家

佐宗康浩

佐宗康浩 さそうやすひろ

#chapter1

創業時から健康診断や理化学用の機器を製造。開発した銀粘土を新たな事業の柱に

 「当社は健康診断でおなじみのデジタル式身長体重計や液晶視力計、物質を細かく砕いて混合や焼結等に用いる粉体機器、理化学、銀粘土、七宝焼用の電気炉など幅広い領域の“ものづくり”で社会に貢献してきました」

 そう語るのは、創業から60年以上、主に学校用の保健福祉機器や研究機関向けの理化学実験機器、クラフト関連の工芸機器などを製造・販売している「日陶科学」の代表・佐宗康浩さん。近年は銀粘土「Morin(モリン)」の生産や販売にも注力しています。

 「世界中で愛されてきた純銀粘土(PMC/Precious Metal Clay)の生産を中止すると聞き、日本総代理店を務めてきた私たちは『ファンのために何とかしたい』と考えました。素材の選定、配合、製造方法など弊社独自の方法で開発し、各プロセスなどを刷新して品質を向上させています。名前は、発明者である森川正樹博士に敬意を払い『Morin』と命名しました」

 最大の魅力は使いやすさ。乾燥後も水を付ければ粘土状に戻り、作業中もしなやかさを保ちひび割れを抑えます。シート状に延ばしたり、シリンジ(注射器)に入れたり、用途が幅広いのも特長だとか。

 「当社は、固形燃料で銀粘土からシルバーグッズに仕上げる素焼きの焼成ポットも開発しています。特別な道具や高度な技術がなくても簡単に指輪やネックレスを作れます」

 従来の純銀粘土と組み合わせた初心者キットはネットのショッピングモールなどで展開し、累計16万セットの販売実績があります。併せて「Morin」は代理販売を手掛けるクラフト教室やホビーショップを募集中で、愛好家の裾野を広げていきたいと話します。

#chapter2

県警の研究職として20年以上水質調査などに従事。親族の会社を継いで経営者に

 大学で化学を専攻し、卒業後は愛知県警へ入職した佐宗さん。22年にわたって専門職に就き、水質汚濁などの公害取り締まりに長く従事しました。

 「真っ黒な作業服を着て工場や事業場の排水口で水を採取し、検査機関に提出して含有物をチェックしていました。青酸を含むシアン化物など、人体や環境に影響を及ぼす有害物質が検出された場合は裁判所の令状を取得し、原料や製造工程、水の処理方法などを調査して法令違反を立証しました」

 地域社会の保全に取り組む日々を送りますが、警察の早期退職制度を利用して2002年に職務を辞し、新たな道へと進みます。

 「実は妻が『日陶科学』の先代社長の長女で、いずれ会社を継ぐよう言われていました。公務員としての職務にやりがいはありましたが、自分の知らない世界でチャレンジすることにしました」

 セラミックや、当時は最先端技術であった光触媒などの研究開発に従事し、副社長就任後、総務部門を中心に会社の許認可業務など業務全般を統括、2017年に社長に就任。1961年から続く老舗企業を率いる中、取引先の三菱マテリアルから銀粘土事業撤退の知らせを受け、独自で一から開発していくことを決断します。

 「社内に工芸部もあり20年余り製品を扱ってきましたが、生産に必要な装置もノウハウも受け取ることができず、まさにゼロからのスタートでした。業界に詳しい協力者と二人三脚で試行錯誤を重ね、従来品を超える『Morin』を生み出しました。焼成後の硬度も高く、初心者からプロのアーティストまで支持してくれます。創作に励む皆さまにご愛用いただければうれしいですね」

#chapter3

サイトやSNSで制作事例を紹介し、自在に形を成す銀粘土で多様な作品づくりを提案

 佐宗さんいわく、教育や保健関連の機器類は一定のシェアを維持しているものの、少子化が進む中で学校の統廃合が進み、全体的な販売数が減少傾向に。一方、細かい温度設定で物質を加熱・保持できる電気炉は大学や企業の実験室を中心にニーズが高く、素材の開発や金属の精錬などで重要な役割を果たしていると言います。

 「物質をナノ化する自動乳鉢などの粉砕機器や、粉砕・混練用に用いるポットミル回転台など、試験や分析のための適切な装置選びで迷った際は気軽にご相談ください。お客さまの予算、目的、実験の規模などに合わせて適切な製品を案内します」

 自在に形を成す「Morin」の情報発信にも力を入れ、専用サイトやSNSにはジュエリーデザイナーによる制作事例も掲載しています。

 「土を練り、成形する陶芸感覚で、アクセサリーやオブジェなど多様なアイテムを作り出すことができます。ご自身のためだけでなく、誕生日や記念日のプレゼントとしても喜ばれますよね。作品のご参考として、ぜひご覧ください」

 当面の目標は銀粘土の新規販売ルートを開拓・整備し、デジタルマーケティングにも注力すること。プロモーション活動を後押しする商社や代理店、クリエイターとの協業も不可欠で、相乗効果が鍵になると考えています。

 「ものづくりの楽しさを多くの方に味わっていただくことが願いです。世界に一つだけのオリジナルを作れるのが醍醐味であり、手作りの品で思いを届けたいという方にもおすすめです」

(取材年月:2025年3月)

リンクをコピーしました

Profile

専門家プロフィール

佐宗康浩

銀粘土の生産を守り、品質を高めて販路拡大を目指す専門家

佐宗康浩プロ

保健福祉機器・理化学機器メーカー

日陶科学株式会社

1961年に創業した老舗機器メーカーの代表が技術者と共に銀粘土「Morin(モリン)」を開発。乾燥後も水で柔軟性を取り戻し、作業中もひび割れにくく、焼成後の硬度が高いと初心者からプロまで支持を集める。

\ 詳しいプロフィールやコラムをチェック /

MYBESTPRO

Other Interview