本質を見つめ、豊かな住まいをともにつくる一級建築士井上明日香

本質を見つめ、豊かな住まいをともにつくる一級建築士

井上明日香

コミュニケーションを重ねてイメージを引き出し、プランニング

　「家づくりのご相談の際には、どのような暮らしを実現してみたいかをお聞かせください。『家族みんなが集まれる場所をつくりたい』など、思い描くわが家を一緒に形にしていきましょう」

　こう語るのは「Plum Studio」の代表で、一級建築士の井上明日香さん。17年にわたり組織設計事務所で大型分譲マンションや福祉施設などの意匠設計を担当しました。「もっと地域や個人に寄り添いたい」と2011年に独立し、戸建てやテラスハウスといった身近な住宅のプランニングに力を入れています。

　「図書館司書のAさんから、ご自宅の一部を改装して趣味のパン作りを生かした店を開きたいと依頼された時は、既存の空間に効率的な動線を確保しながら空間に変化を与える風の通り抜ける道をつくりました。プランや内装材に加え、キッチンやショーケース、飲食用のベンチやテーブル、お薦めの本を並べる本棚などの家具に至るまで、お客さま、施工を担当してくださった地元の家具屋さんと細部まで打ち合わせを重ねました」

　Aさんは、近所の人がふらりと立ち寄れる場所にしたいと考えていらっしゃいましたが、当初はどのようにどこまでイメージを伝えて良いものかと迷っていたとか。対話を丁寧に重ね、計画を一緒につくっていくにつれ、さまざまな希望を伝えてくださるようになったそうです。

　「お客さま、建築士、施工業者などプロジェクトに関わる人々のコミュニケーションがうまく取れていると、順調に事は進み、完成する頃にはきっとお客さまに喜んでいただける空間になると願っています」

プランを温める時間を設け、お客さま自身が家づくりに向き合うための時間に

　「打ち合わせの際、提案内容についてお客さまの同意が得られた時でも、すぐ計画に移さず、少し時間を置くようにしています。プランを温める時間を持つことで、お客さま自身が、自分は何を望んでいるのかが明確になり、家づくりにしっかりと向き合うことができます。実はこの時間がとても大事で、ラフ案などを眺めながらあれこれ思案するからこそ、出来上がった時の喜びも大きいのです。本質を見極めるには、丁寧な対話とじっくりプランを熟成させる時間が必要です。実際ほとんどの方が、ゆっくり考えて数日後に新たなご希望を伝えてくださいます」

　石川県かほく市で手掛けた平屋の戸建て住宅では、子ども部屋の上部にロフトをつくり、子どもの成長に応じて遊戯室、寝室、収納スペースと柔軟に対応できる造りに。洗濯室の隣には家族全員の衣類を収めるファミリークローゼットを設け、忙しい共働き夫婦の家事の負担を軽減。手に触れる所はなるべく天然の木材を使用し、経年の変化を楽しめるようにするなど、細部に家族のこだわりが詰まっています。

　「お客さまと建築士は何でも言い合える関係になるのが理想的ですが、中には『自分は専門家ではないから』と、意見などを躊躇される方もいらっしゃいます。もし打ち合わせの最中に少しでも違和感があれば、遠慮なくお話しください。主役はお客さまで、建築士はサポーター。お客さまの声に耳を傾け、ご要望をかなえるお手伝いをいたします」

事務所の一部を開放し、地域の人々が交流するコミュニティースペースとして活用

　井上さんが建築士を志した背景には、中学高校時代に岐阜県本巣市木知原にある、父の実家で過ごした体験があります。

　「木の伐採から始めて祖父母が5年がかりで建てた家でした。完成してからも、地域の人の手を借りながら大切に手入れする姿を見ていたので、地域に根差し、日々の営みになじむ住まいに興味を持ったのだと思います」

　現在の事務所は世田谷区経堂の閑静な住宅街にあります。2016年に築約50年の3階建て民家を活用し、「経堂アトリエ」として事務所の一部をカフェやギャラリー、レンタルスペース等として開放。ワークショップやセミナーなど、地域の人々が交流を深める場として活用されています。

　「ここにも岐阜での生活が影響しています。木知原のように、何かあれば皆が駆けつけて支え合う関係性をつくりたいと考えました。地域の人が気軽に訪ねてくるような『まちの建築屋さん』になることができれば、オリジナル家具を頼みたいとか、壁を塗り替えてほしいとか、ちょっとしたニーズをくみ取ることができます。職人さんや専門業者さんの紹介を通じて、お役に立てればうれしいですね」

　2024年春からは、活動の原点・岐阜県木知原で、四季折々の自然や紡がれてきた文化などを再発見し、未来につなぐ活動「こちぼらぼ」をスタートさせました。

　「地域との関わりの中で、その土地ならではの魅力に触れ、心豊かな暮らしと心地よい住まいを皆さんと育んでいけたらと願っています」

（取材年月：2024年5月）

地域や自然との関わりの中で、豊かな暮らしを実現できるようお手伝い

コミュニケーションを重ねてイメージを引き出し、プランニング

プランを温める時間を設け、お客さま自身が家づくりに向き合うための時間に

事務所の一部を開放し、地域の人々が交流するコミュニティースペースとして活用

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